開口
教会内に誰かが居ることは、3人とも事実として知覚した。
よし、いざ行かんと思った矢先だった。
「どうやって入ったらいいかな?」
有美ちゃんが訝しげな表情で僕ら2人の顔を見たあとに、協会の扉へ視線を移した。
そうなのだ。
協会は鉄壁の要塞だった。
人が作ったものとは思えないほどの精巧な作りをたたえたその白の教会には僕らの侵入を許す隙間なんて、物理的な意味でもそうでなくても存在していなかった。
アイリはこの穴を掘る際に出た土を固めた教会を作ったと言ったが、茶色の土をどうやって白くしたのか、ぽろぽろと崩れる土を要塞のごとくに寸分の相違もなく協会の形に拵えたのかは不明だった。
最早協会の中にはいることができれば、その協会のあらましなんてものは必要ないのだが。
もし中に入るためにその歴史を知る必要性があるのであれば、アイリに聞いてみるしかない。
「それなら、ちょっと気になる箇所が実はあるんだ」
荒木さんは白衣のポケットに両手を入れたまま、その切れ長の目尻を教会の正面ドアに向けた。
「気になるものは、どんどん当たっていきましょう」
3人でドアの方向へ向かった。
全員が「もしかしたら犯人が急に教会から飛び出してくるのかもしれない」という恐怖心と可能性は十分に感じていた。
しかし、もうここは犯人の体内の中。
胃酸で殺されようが、白血球に退治されようが僕らが侵入者であることに代わりはないので、いつでも何が起こっても良い覚悟はしていた。
その覚悟もあって、3人とも腹積もりはしっかりしていたので、どうどうとした足取りでドアに向かった。
「ここなんだけど」
と荒木さんが指差したのは、壮大な装飾を施された扉の右側だった。
白の壁で一瞬見ただけでは分からないが、よく見ると壁と同じような素材で作られたカバーが備え付けられていた。
「まるでインターホンのカバーみたいな形ね」
と有美ちゃんと同時に同じことを思った。
「俺もそう思った。ここがもし俺らの予想通りのインターホンなら、複数の人物が出入りしていることが考えられる。MARIAは一応組織でもあるから、犯人が複数居るのは十分考えられるな。まぁ、まだインターホンとは決まってないが…」
荒木さんが言い終わらないうちに、なんと有美ちゃんがその華奢な人差し指でそのカバーをそっと押したのだ。
もちろん僕も荒木さんも度肝を抜かれたのは確かだ。
ここは慎重に、という僕らの思いは有美ちゃんの無邪気な好奇心によってすぐに打ち砕かれた。
もしかすると警報の可能性もあり、ここに触れることで他の居場所に居る犯人の仲間に何かしらの通報がされることもありえた。
そう頭でぐるぐると考えているうちに、カバーのようなその形状は、僕らの予想通り(期待通り)の動きをした。
やはりその正体はカバーであり、スッと中に覆われていたものを僕らに見せてくれた。
「…画面?」
有美ちゃんが顔をずいっと近づけてそのカバーに包まれていたものを観察した。
よくSF映画や近未来を描いたらアニメで出てくる黒字の有機物でできたスマートフォンサイズくらいの画面のようなものが僕らに顔を出した。
「これってよく、目とか顔を認証してくれるスキャナーみたいなのものかな?映画とかで出てくる」
「その可能性もある。そうなると、俺らはいよいよこの協会に入るのが難しくなるな。くそっ。せっかくここまで来たのに行き止まりかよ」
苦虫を噛んだような怪訝な表情を荒木さんがその黒い画面に向けた。
「どうします?やっぱり無理やり突進か何かして入るしかないですよね」
有美ちゃんが腕を組ながら次の策を考えていた。
僕は、ふとある考えが浮かんだ。
「ちょっと、試してみても良いかな」
「試せるものがあるなら、試してみようぜ」
「そうだよ!どんどんやっていかないと、二人に会えない」
僕は半信半疑のまま、その頭にふと浮かんだ考えを実行することにした。
不安は半分。
だが、確証も同じくらい半分あった。
僕は右手に握っていたスマートフォンのディスプレイをオンにした。
時間や電波マークが表示されている。
そのスマートフォンの画面を、白の協会のインターホンの画面に平行になるように合わせる。
そして、
「アイリ、何か分かるか?」
「解析中」
と短く会話をした。
すると、その黒いインターホン画面にぽぅと怪しい光が揺らいだ。
「ビンゴだ」
「え、なに、なに、どういうこと?」
「…」
その光はめらめらと炎のように揺らいだかと思えば、じんわりと定期的に点滅する白い光へと変わった。
「アイリありがとう」
僕はそういうと、スマートフォンを右後ろのポケット中に大切にしまった。
「どういうこと?分からないんだけどヨージくん」
動揺する有美ちゃんを跡目に、すぐ目の前で機械が動く音がした。
ヴィーンとコイルや線が稼働する音がして、カチ、カチと何かが外れていく音が響く。
そして、ガチャリ、と何か大きくて重い鉄製のものがずれるような音がしたかと思えば、その壮大な装飾を施された白の協会の扉がぐぐっと重々しく口を開いた。
観音扉に生まれた真ん中の隙間には光はなかった。
扉の奥は真っ暗闇が続いていた。
扉はすーっと音もたてずに、自動扉のように空気の抵抗を受けることなく無音で開口を進めていった。
僕たちが口をあんぐりとさせていたわずか10秒ほどで、その2階建てほどの高さのある扉は完全に開いた。
「結婚式みたいだけど、そうじゃないかんじだね」
有美ちゃんがヒソヒソ声で言ったが、僕はなんと返したらいいかわからなかった。
そのくらい、僕の半分の確信が当たったことに対する驚きと喜びで胸がいっぱいだったのだ。
「ヨージ、あとでしっかり説明頼むぜ」
「わかってますって」
僕らの前に扉は開かれた、
無音で開いた扉ではあるが、きっと犯人も僕らの到着に気がつくことだろう。
僕らは扉の奥の暗闇を見据え、これからやってくる未来を信じた。
犯人と可南子と有美ちゃんのお姉さんが向こうにいる。
僕はアイリを再び握りしめた。




