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城壁

「ちなみに、どこまで捜索されたんですか?」

荒木さんが地下に向かっていったあと、僕らがすぐに向かったのでそんなには時間がかかっていはずだ。

「ある程度はもう調べたよ。1分もあれば、ほぼほぼのことは分かる。ただ、分からないのはこの教会だけだ。ここはみんなの知恵を出し会いたい。だが、犯人がもしかするとここに来る可能性もある。うかうかはしてられない」

「そうですね、ちょっと友達にも聞いてみます」

友達とは、もちろんアイリのことだ。

「こんな地下でも電波が入るのか。ヨージの携帯電話は不思議だな」

「駅前の中古ショップで安売りしてたんです。ノーブランドなので分からないですが、もしかすると軍隊とかで使ってたものかもしれませんね」

アイリの存在を隠すように僕は嘘を言った。

「そうか。まぁ連絡がとれるのに越したことはないな」

荒木さんが両手を白衣のポケットに入れたまま、教会を眺めた。

「ちなみにあの家みたいなのはサーバーなんだって」

有美ちゃんが噴水の方向を指差して言った。

「サーバー?」

「そう、サーバー。ビールとかじゃないよ。システムを動かすときの大きな機械の塊。よく見ると、中で動いているのが分かるよ。あと、あの家の周りだけ少し暖かかったよね?それはサーバーが起動していて、熱を持っている証拠なんだって」

「へー、有美ちゃんはすごいな」

「ううん、荒木さんから教えてもらったの。つまりここは生きている場所。何か大きなシステムが動いている証拠。そしてその答えはこの中にある。ですよね、荒木さん?」

ほんの数日前とは全く別人のように荒木さんと有美ちゃんが話をしている。

一時は本当に争いの血が流れるのではないかと思ったほどの険悪ぶりを見せていた二人だが、利害が一致しているとここまで普通になれるのが、なんだか滑稽で面白かった。

「そうだ。そしておそらくだが、そのシステムに何か起こったときにその噴水の水を撒いて証拠隠滅をさせるんだ」

「なるほど…」

僕が穴にいた数分の間に荒木さんはかなりの情報収集を行っていた。

「教会には入れないんですか?」

「あぁ、一周回ってみたが、ちょっと知恵がいる入りかただ。窓は全て防弾ガラスでできていて、壁の作りは土製で一見脆そうだが、かなりの細工を施しているようですごく頑丈だ。窓はあのステンドグラスと両脇に二枚ずつの計5枚。両脇のガラスに関してはマジックミラーで中身が見えない。入り口はここの正面玄関のみだ。一応この建物のさらに地下がないか調べたが、ここは見た通りの平屋らしい」

「調べたってどうやってですか?」

まぁいろいろと小道具を持っていてな、と荒木んは白衣の右側のポケットの中でじゃらじゃらと音を鳴らした。

金属と金属がぶつかるような音がした。

「あの狭い穴の中でよく落としませんでしたね」

「それくらいの対処ははじめからできてる。手ぶらで敵のアジトに乗り込むやつがどこにいるか」

ここにふたりいます、と有美ちゃんと僕は思ったがさすがに言えなかった。

「平屋なら穴を掘っていけば、中にはいれるんじゃないかしら?」

有美ちゃんがナイスアイデア!と言わんとばかりの笑顔を見せながら言った。

「それは僕も考えた。しかし、なかを見るかぎりだと、かなり土台がしっかりしてるんだよ。まるで新築の家を建てるかように、基礎からみっちりと作られてる。どこから材料を調達してきたのかは、本当にミステリーだが、少なくとも穴を掘っても土台にぶち当たってお手上げだ」

この建物は一体なんなんだ?

僕はやっぱり拭えない疑問の答えを探していた。

「そもそもこの建物の中に二人はいるのかな?いないなら、入っても直接的には助け出せないんじゃないかな。中に犯人に繋がるヒントがあっても、いちばんは二人が居ないと」

「それもそうだね。荒木さん、どうかな?」

「温度センサーつきの探知機も持ってきていた。これで熱反応があるところに向かえば、捜査がショートカットできるからね。でも、この建物はそのセンサーすら感知させないようになっている。まさに城壁だ。誰も寄せ付けないんだ、主以外は」

「絶対的な壁だ」

まるでイエスキリストを守るマリアのようだ。

子供を守る母の愛はこれほどまでに強靭なのか。

「あ」

そうだ、と思い出したことがあった。

間抜けな声を出したので、二人が一気にこっちを見た。

「ヨージなんだ?」

「ヨージくん、何かあった?」

そういえば、さっき…。

「僕のこの携帯電話で、二人の生体反応を検知することができたんだ。経緯は省くけど、とにかく友達とビデオカメラで通信したときに、二人の熱反応を見つけた。もしかしたら、この建物の中身も投影できるかもしれない」

「ほんとにすごい友達だ。この件が落ち着いたら一緒に駅間のドーナツ屋さんでお茶でも飲んで話したいな」

有美ちゃんが目をキラキラさせながら言った。

「その友達とやらとヨージの携帯電話にすごく興味がある。詳しく知りたいけど、それはしない約束だったな。とにかくいまはできることを最大限やっていこう」

荒木さんが、眼鏡の真ん中をくいっと指で押しやって、僕を見ながら言った。

今となっては、荒木さんは信用がおける人物の一人だ。

話はややこしくなるが、もう真実を話してもよいと思う。

だが、それはやっぱり今でなくてもいいんだ。

もっと落ち着いたときに、ちゃんと話したい。

こんな土に囲まれた薄暗い場所ではなくて、明るくて空が見える場所がいい。

アイリにとってもそっちの方がよく似合うと思うから。

「あとで、ちゃんと話します荒木さん」

僕の言葉が意外だったのか、荒木さんはその切れ長の目をぱちくりさせて、自由な方向を向いた髪の毛先をいじった。

「ま、あとは任せるよ」

「えーずるい。わたしにも聞かせてよ」

有美ちゃんがほほを膨らませながら拗ねた表情で言った。

このきれいな顔立ちを間近で見られるのもこの件のみだろう。

僕は「もちろん」と言い、彼女のその表情を脳裏に焼き付けた。

僕は白い教会に正面から向き合った。

二人にあった喜びでよく見ていなかったが、扉の装飾も相当なものだった。

扉の下に3段の階段があって、その階段の両脇には花のような装飾が施されていた。

光が届かない地下にも華やかさをという粋な計らいに見えた。

犯人はナルシストなのだろうか?

扉は縦に3メートルほど。

ドアノブは重厚感がある金だった。

その金は着色ではなく本当に金であるだろう輝きだった。

扉の縁は全体的に強弱がついた波ような振り込みがされている。

僕は携帯電話を顔の高さまで掲げ、カメラ機能で建物全体を撮影した。

二人は僕の両脇に居て、画面を覗きたそうにそわそわしていたが、この件が終わるまではアイリについて詮索をしないことを約束していたのでなんとなく僕のことを気にかけ、視線をずらしていた。

まずは一階部分のような低層階、そしてゆっくり歩きながら建物の向かって左側にいき、撮影を続けた。

次にその足で右側でも同じように撮影した。

そして最後にステンドグラスと鐘まで全体を余すことなくアイリに情報を送った。

録画停止のボタンを画面でタッチし、メッセージで「よろしく」と素早く送った。

アイリからの返信は早かった。

同時に解析を進めていたのだろう。

待ち受けにメールマークが点滅した。

開くと画像が3つ添付されていた。

その画像をタップすると、黒字の背景に建物の骨組みであろう部分が白い線で表されていた。

そしてその真ん中。

赤と黄色が混じった細長い形が浮かび上がっていた。

これは、、、?

二人にさっそく画像を見せた。

荒木さんと有美ちゃん、僕の三人は食い入るようにその携帯電話の小さな画面に顔を近づける。

「サーモグラフィーだね。これは人の形だ。きっと横になっているんだ。こっちが頭でこっちが足。つまりこの人は生きているはずだ」

「ほんとに…!?」

有美ちゃんが今にも泣きそうになり、口許を両手で押さえた。

「まだあの二人とは決まっていない。犯人の可能性もある。他の画像も見せて」

他の画像も同じようなものだった。

熱反応がある形をして居る。

3枚とも違う形だった。

つまり。

「画像は3体。つまり3人。二人が居る可能性が高い」

この教会の中に二人が。

三人が覚悟を決めた表情で、教会に視線を送った。

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