沈黙
母さんと談話したあとで、まだ自分が鞄を背負っていることに気づいた。
高校のときから使っているお気に入りの濃い青色のリュックだ。
荷物を置くついでに、買ったばかりの携帯電話を充電してみようと思った。
多分、あの中古ショップの親父は携帯電話の充電をそこそこにしてディスプレイで販売したいたに違いない。
そこで、僕がちょっといじって、電話をしたときに残りの充電が切れて、画面が写らなくなってしまったんだろう。
そう、希望を込めながら二階の自室へと向かった。
部屋に入ると、朝脱いだグレーのスウェットがベッドの上で丸まっていた。
デスクの隣の棚には、ライトノベルとか参考書とか漫画とかいろいろ並んでいる。
充電器はベッドの上にある。
寝ながら携帯電話を使えるようにベッドに配線をつけたのだ。
リュックをハンガーポールに掛けて、その中からごそごそと今日買った携帯電話を取り出す。
ほぼ無傷の濃い緑色のそのボディは、艶があるようにも見える。
まだ諦めるのは早い。
コネクタと充電口を優しく繋ぐ。
充電マークや充電中の赤い点灯ランプなどはつかない。
完全に沈黙を続けたままだ。
「はぁ、やっぱりだめか」
思わずため息がこぼれた。
(明日、ダメもとであの中古ショップの親父さんに持っていってみよう。目立った傷はないし、もしかしたら交換してもらえるかも)
「ヨージ、ごはんよー」
下から母さんの声がした。
「はーい、いま行くよ」
僕はベッドの上に携帯電話をぼすっと置いて、部屋を出た。
携帯電話は沈黙を続けたままだった。
カーテンの隙間から溢れた夕日の西日が携帯電話を照らしていた。
なんでか、すごくきれいだと思った。
一瞬見とれたが、すぐ我に帰り、ドアノブを捻り下の階に向かった。
夕日で照らされた携帯電話は、まだ沈黙を続けたままだった。




