はじける泡
ダイニングに入ると、よだれをそそるカレーの匂いが広がっていた。
「お、母さんのカレー、いいねえ」
「いっぱい作ったから、たくさん食べてね」
「かなこも食べるー!」
僕はカレーを三杯平らげて、リビングでテレビを見ながらゆっくり過ごしていた。
可南子は母さんの手伝いで食器を食器棚に返していた。
可南子は絶対いい奥さんになる、と僕は可南子が生まれたときから確信をしていた。
将来は何になるのか、楽しみだ。
かわいい容姿だから、悪い男がつかないようにお兄ちゃんは見守り続けるのだ。
テレビでは、どこかの国で選挙をするとか、有名な芸能人が結婚したとか、新しいお店が都内のどこかでオープンして大行列ができてるとか、僕の生活にはあまり関係の無さそうなニュースがやっていた。
その全国ニュースが終わって、つぎは僕の町のローカルニュースが放送される。
ニュースキャスターは僕の大学を卒業した女性キャスターだ。
名字は、吉岡ん。
なかなかいない名字だ。
僕の気になっている女の子の名字も吉岡だ。
そう、有美ちゃんのお姉さんがぼくらの町の看板キャスターなのだ。
有美ちゃんの姉さんも美人だなーと思いながら、ぼんやりとニュースを眺める。
「地元幼稚園で、田植えの体験が行われました・・・」
(可南子はニュースキャスターもいけるな)
なんて思いながら、レモン系炭酸飲料を飲みながら可南子をチラ見した。
「続きまして、事件の報道です」
聞きなれない言葉が耳に入ってきた。
「××町にて、不振な失踪事件が続いています」
手に持っていたレモン系炭酸飲料をテーブルに置いてニュースをじっくりと聞いた。
事件を要約するとこうだった。
ここ一週間女性だけの捜索願いが頻繁に起きている。
年代はばらばらで、上は高校生、下は小学生まで。
いまのところ5名の行方が分からなくなっている。
場所はいずれもこの町の中で起こっている。
どの少女にも共通しているは、最後に駅前から目撃されたのを最後に消息を絶っている。
警察は事故と事件の両方で調べを進めている。
各少女たちの情報があれば署まで連絡を欲しい。
ここまでやく10分の報道だった。
見慣れた駅前や小学校が映像で映し出されていた。
大きくない町だからこそ、犯人が捕まりにくこともある。
顔見知りの犯行なら尚更だ。
5名が一刻でも早く帰ってくることを心の中で祈り、テレビのチャンネルを変えようと、リモコンを探した。
さっきまでカレーを食べていたテーブルの上にあったのを見つけ取りに向かう。
リモコンを手に取り、振り向きながらテレビにその赤外線を向けた瞬間、画面の瓜生姉が顔を歪めていた。
「ここで、臨時ニュースです」
リモコンをテレビに向けたまま一時制止する。
キャスター以外にもADたちやカメラマンがざわついてるのが画面越しからも伝わる。
ピリピリとした嫌な空気や予感も感じる。
「先ほどお伝えしました誘拐事件に、県警の報告によると新たな被害者が追加されました模様です」
「被害者の名前は…」
そこまで言うと、瓜生姉の顔が更に険しくなった。
凛とした姿勢や物腰、はきはきとした話し方は変わらなかったが、明らかに様子が変わった。
「…失礼しました。被害者と思われる女性の名前は」
瓜生姉が話すのと同時に活字で名前と写真が画面一杯に映る。
「ま、まじかよ」
手にしていたリモコンが床に落ちた。
カツンと冷たい音がした。
そこには、こう書かれていた。
「被害者女性 瓜生有実(19)」
吉岡姉の表情が一瞬で曇り、必死で何かをこらえるような声で絞り出すように話した。。
「以上、本事件の情報がございましたら、⚪⚪警察本部の電話番号xxxxxxxxxまでご連絡ををお願いします」
そのあと、僕がどうやって部屋まで行ったのか、何時に寝たのか、どうやって次の日学校に行ったのか、僕は全く覚えていない。




