着信
有美ちゃんは僕から少なくとも50メートルは離れている。
「大丈夫ですか?」なんてはっきりした声は聞こえるはずがない。
では誰が?
僕は引き続き人混みに押されながらも、声の主を探していた。
しばらくキョロキョロ探したが、声の主は見つからなかった。
きっと僕の聞き間違えだろう。
きっと僕の隣にいた誰かに、他の誰かが話しかけたのを、僕に話しかけられたと勘違いしたんだろう。
そう思って、事故で騒がしい人混みを背に、自宅に向かった。
道中、買ったばかりの携帯は沈黙を続けていた。
落とした衝撃で再起動が掛かってから、ずっと起動してくれない。
折角買ったばかりだと言うのに、今日は本当に災難だ。
とりあえず、お腹も空いたし、家に帰ろう。
今からどう足掻いたって壊れた携帯電話は直らないし、僕の古本屋で貯めた雀の涙ほどのお小遣いという給与が戻ってくるわけではない。
家に帰れば、パソコンがあるし、とりあえずネット環境は整っているから困るわけではない。
ほとほとと、重い足を家に向かって進めた。
家に帰ると母さんが可南子とおしゃべりをしていた。
玄関に父さんの靴もあったから、今日は家族団らんでごはんだ。
「ただいま」
「あら、ヨージお帰りなさい」
「ただいま、母さん。あ、テレビ」
「そうなの、駅前で車の爆発があったんですって。物騒だわ、怖いわね」
「僕その爆発生で見てたよ」
「え、そうなの?大丈夫だったの?」
「うん、まぁ、尻餅ついただけ。あと買ったばっかりの携帯電話を落として多分こいつはご臨終だ」
「まぁ、お金なら渡すから新しいの買いなさい」
「ううん、一応大学生だし、またバイトして買うよ」
母さんは一瞬寂しそうな顔をしたけれど、僕が言うならと理解したようで、にこっと笑った。
「あ、そういえば母さん僕に電話した?」
「え?いつ?」
「さっき、そう、駅前の事故が起きたときくらい」
「電話してないわよ、可南子を向かえに行って買い物してたわ」
「あぁ、そうなんだ。わかった。多分間違い電話だな」
「最近多いわよね。怖いわ~」
と、昼のワイドショーを見ているような感想を述べた。




