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静寂

「犯人の居場所ってどういうことだよ」

アイリが冷静な声でいったその内容がうまく頭に入ってこなかった。

「そのままの意味よ。犯人の居場所が分かったの」

「何か手がかりを見つけたってことなのか?」

僕は変わらずドアと平行に立ちながら右手にいるアイリをじっと見つめる。

「そう、みたい。急に私の中にデータが入ってきたの」

「データって海みたいな中からたから探しをするようなものじゃなかったのか?」

アイリが前教えてくれた比喩表現だ。

「そうなんだけど、なんだろう。びびっときた気がするの。急に海のある一点が光だしたみたいなイメージよ。ここだ!っていう確信があって、そこに手を入れてみたら光輝くものがあった、そんなかんじよ」

データの中は見たこともなかったので、僕のなかでアイリの発言をがんばって想像をした。

アイリがうようよと揺れる海のなかにそっと白い腕を差し入れる。

その濡れた手の先あるのは、宝石のような輝きをする光の塊だ。

その光に照らされて、アイリの顔が白くぼんやりと浮かぶ。

そういえばアイリはどんな顔をしているのかな。

今度落ち着いたときに聞いてみよう。

「とりあえずわかった。犯人の居場所を特定できたってことなんだな。予定通りいまから荒木さんの家にいこう。そしていまの情報を共有しよう」

「もちろんよ」

そして僕は音をたてずに慎重にドアを開け、一回の寝室にいる両親にばれないようにそろり、そろりと一歩ずつ爪先に集中力を行き渡らせて玄関に向かう廊下を進んだ。

階段は幸いにして音が出ず、猫さながらの抜き足差し足で一回にたどり着いた。

いつもはなにも考えずに歩く玄関までの道がえらく長く感じられた。

しんと静まり返る空気。

母さんと父さんは寝室でもう寝ているのだろうか?

真っ暗な一回に見える光はなかった。

ただ、うっすらと玄関のガラス越しにいまは夜だと伝えてくれる暗闇の光のみだった。

光に向かって一歩ずつ歩を進めていくと、あっという間に玄関にたどり着いた。

靴は外で履こう。

音が出たら、空き巣と間違われて父さんが起きてくるに違いない。

携帯電話をポケットにしっかりとしまいこんで、右手の人差し指と中指でそっと靴のかかと部分を引っ掻けた。

ドアノブに手をかけようと思ったとき、鍵がかかっていることに気がついた。

頭のなかでカチャリと鍵が外れる音がして、この音こそ父さんがやってくる合図だと思った。

ただ、この家の出口はこことキッチンの裏口しかない。

いまからキッチンに向かうのは得策ではない。

もしかしたら母さんか父さんが電気を消して、中にいる可能性もある。

僕はいまこの目の前にあるドアから出るしかないのだ。

人生でも、いままでにないくらいの集中力をもって、ドアノブのしたにある鍵のつまみをゆっくりと回す。

冷たい重さが指先から伝わってくる。

半分まで回したときに、カチャリと金属が正確に動く音がした。

痛いくらいに静かな家の中に響いた。

直後、また再び沈黙が空気を一気に包む。

僕は息をするのも忘れていた。

リビングにある時計の秒針の音が聞こえてきた。

(大丈夫か?)

自分自身に問いかけ、ゆっくりのドアを開け、外に出た。

靴を音がでないようにゆっくりと地面におき、再びドアノブに手をかけ、ゆっくりと戻してやった。

音は聞こえなかった。

僕はしばらく靴下のままで駅まで歩いた。

もう大丈夫だと、父さんと母さんに音が聞こえないくらいの距離になったときにようやく靴を履いた。

幸いにして、夜11時過ぎの住宅街には人気が全くなかった。

僕は後ろを振り向かずに、まっすぐに駅に向かった。

有美ちゃんと荒木さんの顔を思い浮かべながら、歩みを進めた。

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