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居場所

部屋に入ると、アイリから僕に話しかけてきた。

「ねぇヨージ、いまからきっとアレキの家にいくんでしょう?」

珍しいなと思いつつ、「そうだよ」と即答した。

「その前にわたしを充電してほしいの。きっと今日の夜は長くなる、そんな気がするのね。あと、携帯用のチャージャーもお願いしたいわ」

「もちろんだよ」

僕はすぐにベッドの脇に固定設置してある充電器のケーブルをアイリに指した。

「ふぅ」

とまるでお風呂上がりかのような吐息が携帯電話から漏れる。

「そんなにゆっくりできないかもしれないけど、ギリギリまで充電していくよ」

僕が使っている充電器は急速チャージなので30分もすれば満タンになるはずだ。

それにアイリは性能がいいのか、すぐに満タンになり電池のもちがすごくいい。

いくら使っても1日で電池は半分にしかならない。

僕は携帯電話でそんなにゲームをしたり動画を見たりしないので、3日は余裕だ。

だが、今日は違う。

今日というよりもむしろ、今夜だ。

言わないでいても雰囲気で伝わる。

今日はきっと長い夜になるはずだと。

僕は机の引き出しから予備の予備で買った携帯用のチャージャーを3つ取り出し、ちゃんと充電されていることを確認して、いつものリュックに詰め込んだ。

「さて、アイリが拾ってくれた動画を見てもいいかな?」

僕はベッドの上でゆっくりとしているアイリに近づいた。


「綺麗に撮れてるね」

「ありがとう。ヨージがごはん食べているときに動画解析と解像度を上げておいたのよ。これくらい朝飯前よ」

「ほんとにできた携帯電話だ」

「それを言うならよくできたAIって言って欲しいわ」

「撤回するよ」

アイリが修正してくれた動画は映画のワンシーンのようにきれいでほんとうに特撮か何かの映画のようだった。

荒木さんに扮した犯人が玄関の前に現れ、そして僕が玄関のドアを開けたと同時に僕が暗闇に目が慣れる前に入れ替わりで家屋にするりと入っていく瞬間が捉えられていた。

「やっぱり、あのときだったのか」

そして、僕と本物の荒木さんが取っ組み合いをしている途中でその動画は砂嵐とともに強制的に終わった。

爆発が起きたのだ。

「画像解析の結果はどうだったの?」

「それがね、変装がうますぎるのかアレキしか該当しないのよ」

「犯人はさすがだな」

感心している場合じゃないのは分かるが、徹底した情報破壊と自分の足を残さない、自分の情報を残さない完璧ぶりには驚きと尊敬がある。

有美ちゃんのお母さんも爆撃されたと言っていたので同じ手法なんだろう。

とすると、裏で手を引いているのはMARIAで間違いはなさそうだ。

ここである疑問が浮かぶ。

「そういえば、僕がお店でアイリを購入した日も爆撃事件が起きたよね」

駅前で起きた爆発事故。

被害者はでなかったといえども、損傷の傷跡は深い。

いまはもう事故発生から約数ヵ月が立ち、町のボランティアによって復興がなされてはいるが、住民たちを恐怖に陥れたその傷跡と恐怖感は消せずにいる。

「そうね、確かに起きていたみたいね」

「これもMARIAが関わっているんじゃないのかな?断片的な情報での推測だけど、とにかく余計なものを排除しようとしているように見えるんだ」

「すこし時間をちょうだい。調べてみたいの」

「オーケー。そうすると、あのときMARIAに干渉しようとしていた人物が別にいるってことなんだよな。んー、ますます、わからないことが増えてきた」

ベッドの上でうーんと頭を抱える。

「まずは一つずつよ。それに三人寄れば文殊の知恵と言うでしょう?アレキや有美ちゃんが何かヒントとなるきっかけをくれるかもしれないわ」

「そうだな。とにかく荒木さんの家に行くか」

アイリの充電具合を確かめ、90%を越えているのを見て充電器を抜いた。

充電器は念のためリュックにいれた。

「よし、じゃあ荒木さん家に行こう」

時間はもう夜の九時を過ぎていた。

母さんは可南子がいなくなってから憔悴して体力がなくなっているのか、昨日は夜の九時前には寝ていた。

父さんはずっと母さんのそばにいて母さんを元気付けている。

九時を過ぎたいま、抜け出すのに絶好のチャンスだ。

リュックを背負い、ドアに手をかけた瞬間だった。

ブブブ

左手に持っていた携帯電話が震えた。

「アイリ?」

アイリなのであれば普通に話しかければよいが、どうしたのだろう?

「わたしじゃない、わよ」

じゃあ誰が?

画面を見るとそこには、まさかの人物からの着信があった。

『吉岡有美』

一瞬息が詰まる。

「有美ちゃん、なんで?」

「いいから、でたら?」

なんだかアイリの話し方に若干のノイズが入っているような気もするが、いまは着信を拒否する理由もないので、出ることにした。

「も、もしもし?」

好きなひとから電話をもらうなんてことははじめての経験だった。

少年漫画に出てくる中学生のように、はじめての好きな女の子と電話をするたじたじした様子で電話に出た。

「あ、ヨージくん?夜遅くにごめんね。さっきはありがとう。連絡先交換したから早速電話したんだけどね」

「あ、あぁ、うん。そうだったね」

なんだか余裕が感じられる有美ちゃんに余計にびくびくしてしまい、自分のたじろぎ方にさらにっけりして、案の定うまく言葉が出せなかった。

「いま、電話大丈夫だった?」

「う、うん、もちんだよ。いま自分の部屋だし」

「…ど、…かな?」

「え?なに?」

急に電波が悪くなったのか、有美ちゃんの声が一瞬途切れる。

「あ?聞こえなかったかな?」

「うん、なんか電波悪いみたいで」

「そうなんだ、私のほうかな?」

「いや、ごめんね」

「ううん、大丈夫。一緒に荒木家に行かないかなって思ってね」

なんだかひとりでトイレにいけない女子みたいな雰囲気を感じた。

「もちんだよ。僕もいま行こうと思ってたところなんだよ。どこかで合流する?」

「そうだね、じゃあ駅前でもいいかな」

駅前ならそのまま荒木さん家に向かえば早いのに、思ったがきっと行きにくいところがあるのだろう。

いままで煙たがってしかいなかった相手が、まさか自分のお姉ちゃんを救う仲間になるなんて想像もしていなかったはずだ。

「僕は20分後くらいにはつけそうだから、ゆっくり準備してきて。駅前で待ってるね」

「ありがとう。わたしもそんなに時間がかからないはずだから、すぐつくと思う」

「うん、それじゃあまたあとで」

「うん、またね」

ぷつり、と電話が切れる音がして会話が終わった。

「緊張した」

安堵のため息と一緒に一言漏れた。

「アイリなら気兼ねなく話せるのに、不思議だな。なぁ、アイリ?」

真っ黒な画面に話しかける。

「それはなんだか失礼な話じゃなくて?」とすぐ返答がくると思ったが、すこし待ってもアイリの声は聞こえてこなかった。

「アイリ?どうしたの?」

アイリはまだ沈黙を続けている。

「アイリ、なぁどうした?」

今日はずっと様子がおかしい。

やっぱり何かアイリに起きているのは確かだ。

電源ボタンのオンオフをしてもなんの反応もない。

ディスプレイに待受画面が表示されるだけだ。

「なぁ、アイリ!ほんとにどうしたんだ?」

「…あ…」

微かに声が聞こえた。

「あ、よかった!アイリ、無事だった。大丈夫か?」

「あ、う、うん」

「いきなりどうしたんだよ?」

言葉を覚え始めた子供のようにたどたどしい話し方だった。

「…の」

「え?なに?」

「…たの」

電話のノイズが混じるようなぶつぶつした声だった。

「アイリ、ほんとに大丈夫か?」

「…」

「…」

「分かったの」

「分かった?」

「えぇ、分かったの」

「分かったって何がだよ。アイリは大丈夫なのか?」

「わたしは、大丈夫。ちょっと回線が混乱しただけだったから、いまはもう無事に回復をしているわ」

「アイリ、ほんとに無理をしないでくれよ。今日の君はなんだか不安定で心配だ」

携帯電話を両手で握りしめ、ドアに向かって話続ける僕の絵姿は奇妙だと思うが、そんなことは関係ない。

「もう大丈夫だから。心配してくれてありがとう。ねえヨージ、いい情報をゲットしたんだけど、聞きたい?きっと今日の夜は長くなると思うんだけどね」

「それは気になるなぁ」

「ね、でしょう?わたし分かったのよ。見つけたの」

「勿体ぶらないで教えてくれよ」

「ふふふ、驚いてね」

いつものアイリの調子に戻った気がする。

「それは」

「それは?」

「犯人の居場所よ」

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