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序幕

家につくと居間の電気がついているのに気がついた。

時刻は七時半過ぎだった。

もうごはんを食べ終えている頃だろう。

僕は親不孝ものだなと申し訳を感じながら、ゆっくりと玄関のドアを押した。

ガチャリと金属が揺れる音がして、重いドアを開けると、父さんと母さんがいまからちょうど顔を覗かせていたところだった。

「良かった、ヨージ」

母さんの息が漏れるような安堵した声が聞こえた。

「ヨージ、遅くなるなら連絡入れろよ。それが例えデートでもだ。知っての通り、母さんは心配性なんだよ」

続けて父さんの力強くて頼りになるような低い声が響く。

『ヨージ』

聞きいたことがある、耳に懐かしい声が脳内で響いた。

あのひとの声だ。

鈴を鳴らしたかのような、軽くて耳がくすぐられるような、甘い声。

なんで、こんなときに。

もう忘れたはずなのに。

もう、忘れたはずなのに。

「ヨージ?」

僕を呼ぶ声がする。

見上げると父さんと母さんが心配そうにこちらを見ていた。

「あ、ごめん。友達と妹の捜索をしして、時間が遅くなっていたのに気づかなくて。あしたからはちゃんとするよ」

「無理しないでね。捜索はお父さんたちが頑張ってくれているから、ヨージは家にいてもいいのよ」

半ば、家にいてほしいと言っているようにも聞こえたが、本心だろう。

「ちなみに、父さんの方は捜索どんなかんじ?犯人見つかった?なんか、心当たりがあるひとがいるとか言ってたけど」

「まぁ、立ち話もあれだから、居間に上がろう」

「そうだね」

僕は靴を抜いで、明るい光が差し込む居間に向かった。



居間に入ると案の定夕御飯の支度がされてあった。

そして、それらはまだ手付かずのままダイニングテーブルの上に飾られていた。

可南子のお茶碗とお味噌汁茶碗もみんなと同じように逆さに重ねられ、うさぎの箸置きには丁寧に揃えられたピンク色の箸が揃えられていた。

「ごはんを食べながら話そうか。いまできたばかりだから、冷めないうちに食べよう」

父さんがテーブルの椅子を引きながら言った。

いつもは六時にはできているごはんが七時にできているということは、母さんに何かしらの変化があったということだ。

やはりまだ精力が回復していないということなんだ。

「ありがとう、母さん。今日は何を作ってくれたの?」

「今日はね、寒いからシチューにしたの。鶏肉たくさんいれてるから、出汁が出てすごく美味しいと思うわ」

「おぉ、それはすごく楽しみだ」

僕は‘可南子がいるいつもどおり’を思い出しながら、母さんが少しでも楽になるように会話をした。


母さんのごはんは相変わらずおいしかった。

娘がいなくなった状況でも変わらない味は、やはり母さんの料理の腕前の高さを示していた。

そして、本題である父さん側の捜索進捗だが、一通り話を聞いたが特に進展はないようだった。

心当たりがある人物にも片っ端から当たってみたが、どのひとにも明確なアリバイがあったようで逮捕までには至らなかったとのことだ。

そして、真の犯人は父さんの方にまで捜査の邪魔に入っていることがわかった。

「サーバーダウンだ」

「サーバーダウン?」

「そうだ。普通、警察だったり、政府であったり、国の機関に属している組織は、万が一のことを考えサーバーや電話回線を厳重に守っている。しかも国の機密事項にも触れる情報を抱えていることもあって、その情報をハッキングされないように何重にもバリアを張っているんだ」

「うん、それはなんとなく分かるよ」

「それがな、壊されたんだよ。バリアの壁がな」

「壊されたってどういうこと?」

父さんの顔が険しくなる。

「俺らが作ってきたデータを全て消しやがったんだ」

荒木さんのときとおなじだ。

「犯人はネットワークに詳しいひとで間違いなしだね」

「あぁ、そうだ。たまたま紙だったりホワイトボードに残していた情報がわずかにあったから、まだゼロの状況ではないにしろ、捜査はゼロに戻ったようなものだ。父親として恥ずかしい、申し訳ない」

父さんの表情が曇る。

母さんはもう父さんの話を聞いていたのか、話を聞くのを拒んでいるのかは不明だが、キッチンでお皿洗いをしていた。

「そんなことないよ、父さんはすごいよ。きっと犯人見つけられるよ。そして可南子も戻ってくるよ。僕にもできることあったらなんでも言ってね。協力するから」

「ありがとうヨージ。とにかくお前は母さんのそばにいて、支えてやってくれ」

「もちろんだよ」

僕は苦い顔をした父さんに優しい表情で答えを返した。


ごはんを食べたあと、いつもであれば可南子が好きなアニメを見ながら、食後のデザートを食べたりするのだが、可南子がいないいま、僕らは指針を失った羅針盤のように散り散りになった。

ただ、父さんは母さんのそばに寄り添って何かいろいろ話しているようだった。

僕は「今日はちょっと疲れたから先に寝るね」と八時半前ではあるが、寝室へと向かった。

もちろん、寝るつもりなんて全くない。

母さんと父さんが寝静まったあとにこっそりと家を抜け出し、荒木家に向かう。

それまでに可南子が送ってきてくれたメッセージを読んで、犯人の動画を荒木さんに転送をして、今後をアイリと相談したい。

足早に二階の寝室へと向かった。

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