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二つの命

僕がほほえましく荒木さんの照れ笑いを見ているときだった。

店内はわいわいと活気を見せているなかだからこそ目立つ声だった。

「ヨージくん?」

か細く、不安な声で僕を呼ぶ声が後ろから聞こえた。

振り替えると、そこには自動ドアのところにひとりの女性が立っていた。

「ゆ、有美ちゃん…!」

数時間前にカフェでさよならをしたときの服即と一緒だった。

「どうしてここに?お父さんとは無事に合流できた?」

「う、うん。できたよ。捜索願いをね出してきたの。それでちょっと警察の人と話をして、お父さんは知り合いのところに用があって、一旦駅前でバイバイしたの。そしたら、ヨージくんらしき人がこのこのお店にいるのが見えて、声をかけようって思って中に入ったの」

有美ちゃんはどこかおどおどしていた。

さらに、視線が僕以外とのところに何度も向いているのがわかった。

「良かった。お父さんはすぐ戻るって?」

「うん、一時間くらいかな。会社に一旦戻るって」

「そっか。じゃあそんなに遅くならいね」

有美ちゃんの視線が気になって、あまり会話を広げられなかった。

会話が一瞬区切れたのを僕は感じ、その視線のことについて話題を降ってみることにした。

「荒木さんと僕が一緒にいるの不思議だよね」

「え?」

びっくりしたような表情を見せられて、逆に不自然な視線に気づかれていなかったと思っていたことが面白かった。

「実はさ」と、僕は有美ちゃんとカフェで別れたあとに荒木さんがお店にやって来ていろいろ話をしたことを伝えた。

もちろん有美ちゃんのお母さんの話だったり、さっき起きた地下の爆発のことは、話がややこしくなると思ったので、話すのは辞めた。

一通り話終え、つまり荒木さんと腹をわかって話したところ、僕らが思っているような犯人というものではなく、彼も被害者の一人だということをなんとなく伝えた。

ここでもあまり深くは話さず、初恋の女性の死は、今回起きている一連の誘拐事件の裏で手を引いているMARIAという組織によるもの、そして有美ちゃんのお母さんはそのMARIAに所属していたことを話した。

荒木さんはずっとMARIAについて調査を続けていて、ようやくこれからだというときに、データだったり戦う道具を犯人によってゼロにされたので、とりあえず腹ごしらえをしてこれからの作戦を二人で練ろうとしたときに、有美ちゃんが来たんだと、早口だったけれども状況を説明した。

有美ちゃんは、こくこくと頷きながら話を聞いてくれた。

そして僕が話終えると、「わかったわ」とすんなりと話を受け入れてくれた。

「よかった、分かってくれて」と僕が安堵すると、「ヨージくんのことは信頼しているから」と好きな子に言われて嬉しい言葉をさらりとプレゼントしてくれた。

だが、その言葉の裏には『荒木さんのことは信頼してないから』と言っているようで複雑な気持ちになった。

そして、次に彼女はこう続けた。

「その調査、私にも参加させてくれるよね?」

「え?」

この「え?」は僕と荒木さんの発言だった。

「ねえ、いいでしょう?だって荒木さんは初恋の人、ヨージくんは妹さん、私はお姉ちゃん。みんなそのMARIAっていう組織に嫌な気持ちにさせられているのよ?それにいまそんな大変な状況なら、なおさら人手があっても不足することはないと思うわ。三人寄れば文殊の知恵って言うじゃない。わたしにもできることがあると思うの」

僕自身は問題なかったが、荒木さんの考えが全く表情や振る舞いから読み取れずなかったので、有美ちゃんの意思のあとにすぐ言葉は続かなかった。

荒木さん、と僕はその回答を求めるように振り返った。

荒木さんはまだ何も言わずに、じっと有美ちゃんのことを見ていた。

「君が思っている以上に危険なんだ。もしかしたら、この中の誰かが亡くなる可能性もゼロではない。それでもやるのか?」

荒木さんはさっき起きた事件のことから否定の姿勢を見せている。

さすがの有美ちゃんでも、命を懸けることの重さについては理解があるはずだから、きっと引き下がるのだろうと思った。

「命はもうこの間狙われたから、もう二回目よ。それにわたしの双子の子のときもそうだったけど、私は私の意思で私らしく生きるって、もうなにもしないのは辞めたの」

彼女の意志は僕らが思っている以上に硬いものだったようだ。

「それにね」

「それに?」

「わたし、命が二つある気がするのよ。私の分と、その子の分と。だから一回ならまだ大丈夫な気がするんだ」

にこにこと、状況の逼迫感が全く感じられないほどの余裕の表情だった。

「あとね、犯人は少なからず私に何か目的があって誘拐をしたわけでしょう?もうその目的はないかもしれないけど、私にしか分からないことが、犯人に繋がるならお得じゃない?大丈夫よ、わたしだってバカじゃないわ。常識とみんなの認識の範囲で手伝いたいって言ってるのよ。ねぇ、いいでしょう?迷惑はかけないから」

「…」

荒木さんはなにもまだいっていない。

いま荒木さんの培ってきたノウハウとデータベースが爆破されたいま、猫の手も借りたい状況であるのはまさにその通りだ。

どうするのだ、荒木さん?

と、僕が心配していると、ふいっと僕らに背を向けて奥の部屋に向かって歩き始めてしまった。

「え、荒木さん!」

奥のキッチンに入る手前で荒木さんは一旦止まった。

「やっぱりダメよね」

有美ちゃんの悲しい声が後ろから聞こえる。

「有美ちゃん…」

僕は有美ちゃんと荒木さんを2往復見て、荒木さんに視線を戻した。

「好きなやつ選んで早く来いよ」

部屋に入る前にぼそりと言い放って、姿を消した。

「え?どういうこと?」

有美ちゃんが僕に聞いてくる。

「えっとー…僕もよくわからないんだけど、たぶんいいよってことなんじゃないかな?」

「ほんとに!ヨージくんありがとう!」

店内で叫ぶ有美ちゃんに回りのお客さんが何事かという風に視線を送る。

すみません、すみませんとぺこぺこしながら、体を小さく丸め、僕と有美ちゃんはトレーにドーナツを計10個程乗せて、そそくさと視線を感じる店内から、荒木さんの部屋へと向かった。

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