バトンタッチ
「それってどういうことですか?」
僕はおどおどし、不審者のようによろめきながら荒木さんに問いかけた。
「すぐ後ろにいたんだよ。そうでないと部屋の中に入るなんてできない。それに、わざわざご丁寧にダミー用の部屋に設定して、ハッキングルームを音もなく爆破しやがったんだ。かなりの手練れだよな。俺が何年もかけて作り上げたこのハッキングルームのセキュリティを意図も簡単に解読したんだ」
荒木さんは話終えると、さっき閉じたドアをじっと見つめ、悔しそうに唇を噛んだ。
僕はよくやく心のドキドキが落ち着き、いまのこの状況を少し俯瞰して見れるようになってきた。
僕らはあのモニターに映る犯人を捕まえようと、二人で地上に上がった。
そして僕は正面の玄関から、荒木さんはその反対側の裏口の門から同時に飛び出して、犯人を挟み撃ちにし、犯人の不意をついて捕まえる計画だった。
だが、決行を決断してから僅か1分後に犯人は玄関から姿を消していた。
この家の回りは庭であって、四方を高い塀で囲まれている。
そしてその高い塀以外の抜け道は、自身が来たであろう荒木さんが待ち構えている裏口の門しかない。
荒木さんは少し遠回りではあるが、裏口に向かってダッシュで待機しにいっていた。
犯人が裏口から逃げたのであれば、必ず荒木さんと鉢合わせになるか、その姿が後ろ姿でも捕らえることができるはずだ。
では、犯人はいったいどこへ?
「単純だよ、答えは至ってシンプルだ。答え合わせの家の監視カメラの動画も爆破されているから、証拠はないが、大体こんなものだろう」
と、ダミー用の部屋で僕らは答え合わせをしていた。
僕はデスクのアルミニウムでできた軽くて高そうな椅子に座り、荒木さんはきれいにベッドメイキングされた白と水色のボーダーのシーツのベッドに座っていた。
このダミー用の部屋は地下の爆発の影響は全く受けてないようで、この部屋だけ切り取って見ると、本当にただの一般人の普通の寝室だった。
荒木さんのご両親も、まさか息子の部屋の地下に数台のモニターを構えるハッキングルームがあるなんて、思いもしないだろう。
荒木さんのこれまで築いてきた過去のノウハウとアイリの人を越えた能力のタッグで、これからMARIAに向かって戦っていくというまさにこれからのことだったのに、これからどうすればいいのだろうか?
「ヨージ、聞いてるか?」
「あ、すみません、ぼーとしてて」
「まぁ、そうだよな、こんなことがあって冷静でいられるやつの方がおかしいよな」
それはあなたですよとは言えなかった。
そんな余裕はまだ無かった。
「あくまでも俺の推測だが、犯人はきっと玄関のすぐ脇にいた。つまり玄関のドアを開けたときのお前の後ろにいたってわけだ。そしてその間ドアからそっと侵入し、鍵をかけていなかったハッキングルームに何か爆弾を放り投げてあの地下室を破壊したんだ。その前にハッキングルームの情報をきれいにデリーとして、ご丁寧に俺が作ったプログラムも解析してくれて、あえてダミー用の部屋に直して立ち去ったというわけだ」
分かったような、分からないような感じだった。
「なぜダミー用の部屋に設定する必要があったんですか?」
「おそらくだが、爆発には大なり小なり爆発音が出る。その音があれば、俺らもそうだが、近隣住民にも広がる騒ぎになる。そうなると犯人の逃げ道が塞がれてしまう。犯人は静かに逃げる必要があったんだろうな、わざわざ俺の格好をして」
「ハッキングルームに犯人が入ったって言ったじゃないですか、でもあの地下はすごく暗いですよね、はじめて地下に入る人がスムーズにあの短時間でたどり着けないと思うんですよ」
「あぁ、それはきっと暗視カメラを着けてたんだろうよ。犯人はわざわざ明るいところで事故を起こそうとは考えないだろうよ。わざわとこの時間帯を狙ったんだ。この時間帯というか、この日、この時間帯といったところか」
「どういうことです?」
「いま両親は海外旅行で不在なんだよ。家に侵入するってことは多祥なりとも家の中の誰かに会うというリスクが潜んでいる。だが、いちばんのリスクである両親が完全にいないという好条件、帰宅ラッシュ前の人通りが少ない5時前、そしてこの暗闇、まさに犯人は計画をしてこの爆破作戦を決行したんだ」
「そんな…」
「そうだな、俺らの行動は全部筒抜けってことだったわけだな。そして、かなり前から目をつけられていたってことだ」
「そんな…じゃあこれからどうするっていうんですか?もう可南子たちが自然と帰ってくるまでただ待ってろってことなんですか?」
思わず両手で顔を塞いだ。
両ひじを太ももにつける形で前屈みに項垂れた。
前に屈んだ拍子に、ポケットから携帯電話が落ちた。
こん、こんとカーペットの上を携帯電話が転がる音が何回かした。
「大丈夫だよ」
荒木さんが屈んで携帯電話を拾おうとする。
「最終手段がある。君の友達にはすこし頑張ってもらわないといけないけどね」
携帯電話に手を差しのべる。
「ありがとうございます」
「はいどうぞ」
差し出された携帯電話を受け取ろうとした。
そして、その次の瞬間、意外な言葉が荒木さんの口から飛び出した。
「アイリ…?」
ドクンと、心臓が大きく鳴った。




