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だるまさんが転んだ

目の前に男がいた。

白衣を着た眼鏡をかけたぼさぼさ頭の男がいた。

僕は開けたドアもそのままに、勢いよく男につかみかかった。

だが、男も抵抗をする。

後ろにさっと後退する。

想定内だった。

「え!おい!まじかよ!」

犯人が荒木さんに似た声で叫ぶ。

きっと荒木さんの真似をするぐらいなので、そう易々と捕まってくれないのは分かっていた。

僕は再び男に向かっていった。

僅か1メートルもいかない犯人と僕との間の距離がすごく遠くていじらしかった。

犯人はじりじりと僕を睨む。

僕は次の手を考えていた。

犯人をどうすれば効率よく捕まえられるのか。

次の手をどんなふうに打ってくるのか。

そして徐々に僕の中に広がる違和感に気がついていた。

僕の前には男がいる。

荒木さんと同じように白衣を着た男がいる。

男がいる。

ひとりの男がいる。

(ひとりの男…?)

「え…?」

目の前の男を見つめながら僕は状況を理解しようと集中した。

「…荒木さん…?」

男は僕に捕まれたところを軽くほぐしながら、見つめ返してきた。

戦闘体勢のポーズを取っていたが、僕はゆっくりと両手を下ろし、力を抜きその場に立ち直る。

そして状況を紐解いて解釈しようとする。

「ようやく落ち着いたか」

荒木さんが白衣のポケットに両手を入れながら、僕に近づいた。

「俺はすぐに気づいたぞ。そしてヨージがきっと誤認してるんだろうともすぐに予想がついていた」

「すみません…」

その言葉しか出てこなかった。

高まっていた緊張が一気に雪崩のように崩れたのもあるが、自分が冷静さを欠いてあたふたとしてしまったことで、頭が回っていなかったのだ。

「犯人はどこにいったんでしょう?」

「さぁな?もしかしたら、最初からいなかったか、いたが、すぐに俺らの行動に気づいてどこかに行ったか…」

そこまで荒木さんが言うと、何か閃きに近い嫌な予感を感じたような表情をした。

「…まさかな…」

少し額に汗を浮かばせながら、一瞬空を仰いだ。

自分の中に浮かんだそれが嘘であってほしいと願っているようなそんな口調に感じられた。

「え?どうしたんです?」

僕はいまだに状況を完全に把握できずにいた。

「…ついて来いっ!」

いきなり荒木さんは家に向かって走り出した。

「え!荒木さん!」

僕は本当に訳がわからないまま白衣を翻す荒木さんの後ろを慌てて追いかけた。

ただ、追いかけたのは僅か5秒くらいだった。

荒木さんは玄関を抜けてすぐの自室のドアの前で立っていた。

顔は青ざめているように思えた。

もともと色白の彼であるが、電気がついていない暗闇のなかでぼんやりと光っていたのは血色の感じられない表情だった。

「どうしたんですか?」

後から着いた僕は荒木さんの視線の先に目を向けた。









部屋があった。

小綺麗に片付けられた部屋だった。

ベッドが左の壁にぴったりと配置され、右奥にはパイプでできたスタイリッシュなデスクとその上にライトときれいに並べられた本の数々。

どこにでもある、ありきたりというか、インテリアメーカーの広告に出てきそうなテンプレートの部屋があった。

「部屋ですね」

そう僕がぽつりと言ったとき、

「…くそっ!やられた!」

と荒木さんは表情を怒りの色に染め、目の前にある廊下の壁をこぶしでガンッと殴った。

「え!」

思わずビックリして声が出た。

「この部屋ってあれですよね?ダミー用の」

「…」

返事はすぐに返ってこなかったが、ふぅと大きな深呼吸の音が聞こえて、「そうだ」といつもの荒木さんの声色に戻り返事が届いた。

「これはダミー用の部屋だ。ハッキングルームではない。つまりもういうことかわかるか?」

「すみません、まだ全然状況を飲み込めていないです」

荒木さんの状況理解能力に尊敬の眼差しを向けていたが、そんな場合じゃない。

「たぶん、あそこはもうだめだ。諦めが着いたよ。相手は一枚も二枚も上手だったってことだ。そして大分前から目をつけられていたって訳さ」

さらに混乱する僕の思考回路だった。

「問題だ、ヨージ。俺らは何の部屋から地上に出て、犯人を捕まえようとした?」

「ハッキングルームです」

「正解。じゃあ次の問題。そのハッキングルームはどうやって開ける?」

「えーと、ドアノブをいろいろいじって、他の人が入れないように開けます」

「そうだな。じゃあ次の問題。いまの部屋はハッキングルームか、ダミー用の部屋か?」

「ダミー用の部屋ですね」

「つまり?」

「つまり…」

「すぐわかるだろう」

荒木さんがなぜこんなクイズを繰り返すのか分からなかった。

「それは…誰かが部屋を開けたってことなんですよね?」

「正解だ」

「すみません、まだ状況が読めていなくて、与えられた情報を繋ぎきれてないです」

「そうか、じゃあ、種明かしだな」

荒木さんはそう言うと、ダミー用の部屋のドアを閉めて、最初に僕らがこの部屋に来たときのようにドアノブを操作して、ハッキングルームへの道作りをしていた。

「これからどうするかな」

と聞こえるか聞こえないくらいの音量で荒木さんがぽつりと言った言葉がすごく気になった。

「正解発表だ」

荒木さんはゆっくりとドアを開けた。









そこは僕がイメージしていた風景ではなかった。

僕がイメージしていたのは、ひんやり冷たい真っ暗な空間が続く地下階段だった。

だが、そこにあった景色は煙に溢れた戦いのあとのように崩れた階段だった。

壁や階段が何かで爆破されたような切り傷ような破損具合だった。

「これって…?」

「あぁ、そうだよ。犯人のしわざだ。きっと下の部屋も全滅だろうな。見るまでもない」

「そんな…いつの間に…?」

荒木さんはなぜか涼しそうな顔でその階段を見つめていた。

「あ、そういえば、さっきの質問にまだ答えていなかったな」

さっきの質問と言われても、僕が何の質問をしたのか、もう自分でも分からなくなっていた。

「犯人はどこにいったのか?だったよな」

そんなことを言ったような気がするが、混乱していて数分前のことでもよく思いだせない。

「そうですね、たしか」

「ヨージはどこにいたと思う?」

「えーと…実ははじめから居なかったんじゃないんですか?あの動画は録画のもので、可南子を拐ったときにでも撮っておいたんじゃないんですか?」

「なるほど、そういうことも考えられるな。じゃあなぜわざわざその取り置きの動画を僕らに見せ単だと思う?」

「えーと、それはですね、きっと、僕らに一泡ふかせようとして、誘き寄せて始末しようとしたとかっていうのはどうですかね?」

「なるほどね、当たらずとも遠からずといったところだね」

「勿体ぶらないでくださいよ」

荒木さんはなぜかを知っているようだった。

「そうだな、遊んでる暇はなかった。じゃあ種明かしだ」

荒木さんは爆発のホコリが地下から上がってくる入り口に蓋をするようにドアを閉めた。

「犯人はな」

「はい」

「お前の後ろにすぐいたんだよ」もう、言葉がでなかった。


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