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捜査開始

「君は何か犯人探しの宛はあるのかい?一般の大学生だと、今回の捜査は難しいと思うんだが。俺も最大限手を貸すが、それでも限界はある。いまあるお互いの能力の限界値を知って、作戦を練り直したいんだ」

「そうですね。それなら僕はネットからの情報だけなんですよね。だから、あまり僕は宛にならないと思います。荒木さんのほうがきっと犯人には近いかと」

アイリのことは、伏せておくことにした。

もし荒木さんが悪人であったとき、アイリを不正に利用しかねないという確信があった。

それにこの不思議なアイリの存在が世に少しでも広まると、何かいけないことが起こる気がしてなら無かったのだ。

決してアイリを独占したいだなんて思ってはいなかったが、いまはアイリのことをカミングアウトする必要性はないと感じていた。

「ちなみに、君は前に監視カメラの映像を知り合いに見せてもらったって言っていたよね?そのひとも協力者になるんじゃないのかな」

痛いところを突かれた。

どうする?どうやって切り抜けよう?

「あー、えーと、それはですね」

下手な嘘は身を滅ぼしかねない。

いまはその場しのぎでも、少しの嘘は致しかねない。

「あのですね、大学の友人なんですよ。そういうのに強いやつがいて。でもその一回限りで協力してもらったので、今後は難しいんです」

僕は頭にタケシのあの笑顔を思い浮かべながら言った。

「もったいない。その人は今回の捜査にかなりの戦力になる。俺もこの町の監視システムを覗いたことがあるが、なかなかの鉄壁だ。ちなみに俺は見ることはできなかった。ぜひ仲間に加わってほしい。直接交渉させてくれないか?」

荒木さんが体をぐいっとこちらに向けて食いぎみに乗り上げてきた。

(やばいぞ。なんだか逆に火をつけてしまったみたいだ。どうする?)

ぐいぐいとくる荒木さんの体で、僕はつられて体を反っていた。

(嘘でも、自分がやっていることにすればよかった…!ごめん、タケシ!けど、タケシの名前は出さないから、許して!)

「どうだい?ぜひお願いしたい!君からももう一度お願いしてくれないかな?相当な戦力になる。きっと有美の姉も、君の妹もすぐに見つけられる。俺自身のノウハウもある。それを組み合わせるとかなりの力になる。頼むよ」

荒木さんのその押しの強さに僕は負けていた。

僕はもう土俵際の敗けを確信した力士のように、ふっと力を抜き、

「わ、わかりましたよ。言うだけ言ってみますけど、だめだったらすみません」

と言った。

当然荒木さんは、喜んだ。

顔をキラキラさせて、まるで子供のように喜んだ。

「子供みたいに笑いますね。そんな表情もできるんですね」

思わず心の声がこぼれた。

「なんだよ、俺だって子供の時代があったんだよ。それに嬉しいことは素直に喜ぶさ」

きっとその亡くなった荒木さんの思い人ともよくそうして笑い合っていたに違いない。

僕らが行き着く先に犯人がいる。

そして大切な人の幸せが待っている。

「犯人が通常どおりにその目的を遂げているのであれば、ちょうど5日目に有美の姉と君の妹を解放するはずだ。その解放のタイミングを狙って犯人に接触する。しかし犯人にも考えはあるはずだ。捕まりたくない、知られたくない、もっと誘拐したいとかな。つまり5日目に確実に犯人に接触できる確証はないわけだ」

「その確証をもって犯人に近づくことができて、有美ちゃんのお姉ちゃんと僕の妹に会えるベストのタイミングを待つってことですね」

「そうだ」

「今日は火曜日。二人がいなくなって2日目だ。あと3日。いや、実質2日ってところだな。5日目に行動を起こしても、犯人がいつ被害者をリリースするか分からない。それを考えるとあと1日で犯人までたどり着き、残り1日で犯人を捕らえる、これしかない」

「あと2日…」

「時間がないな。ヨージくん、このあと何か予定はあるか?良かったら俺の家に来ないか?」

「え?家ですか?」

「怪しい意味じゃないぞ。誤解するな。俺の調査室で一緒に捜査と計画を立てないかと聞いているんだ」

「あ、そういうことですね、安心しました」

「勘違いするなよ、俺はストレートだって言ってるんだ」

はははと僕らは笑いあった。

まるで共通の趣味か何かを共有している友人のようだと感じた。




「荒木さん、家ってちなみにどこなんですか?」

時刻は四時少し前だった。

遅くなるなら家に連絡を一本入れなければならないと思ったのだ。

「駅前だよ、そんなに遠くない」

「駅前に家ってあったんですね。バスのロータリーと商店街しかないと思ってました」

「いや、だからそこが俺の家なの」

「え、どういうことですか?」

「俺の家、駅前のあのドーナツ屋だよ。地元のやつなら知ってるだろ。ドーナツショップだよ」

「え、それ、本当ですか?」

「嘘ついてどうする?ほんとだよ。家帰ったら好きなだけドーナツ食えよ。ごちそうしてやるから」

荒木さんはマスターにお礼をいって、すたすたと出口に向かっていった。

僕は開いた口が塞がらなかった。


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