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パズルピース

「その組織の名前は」

「名前は…?」

「マリアだ」

「マリア…?初めて知りました」

「そうだ、マリアだ。マリアは組織の名称の頭文字を取った略称だ。正しくはMaterialResponsibilityinAmericaが正式名称だ。直訳すると、アメリカでの原料材料に対する責任となる。表向きは、日本でもよくある食品の成分表示に対する研究をしている企業だ。表向きはな」

「それって…もしかして、有美ちゃんのお母さんが勤めていたところですか?」

「察しがいいな。その通りだ。その組織はいまも存続しているが、表の顔はいまだに食品の成分表示をするために、各成分の重さであったりを計っている会社だ」

「表もあれば、裏もある」

ぽつりと僕は呟いた。

その唇が動かないくらいの呟きを荒木さんは聞き漏らさず、「そうだ、裏もある」と続けた。

「その裏の顔っていうのが、今回の誘拐事件だったり、俺の親愛なる思い人の死に関係する組織と言うわけだ」

荒木さんはすっかり冷めたコーヒーをすこし眺めてから、僕に視線を写しそう言った。

誘拐事件だったり、死であったり、そういう普段触れることがない単語がたくさん並び続けていたが、不思議と全て頭の中にするりと飲み込まれていった。

「実は僕もこの事件が気になっていたのもあって、個人的に少し自分なりに調査していたんです。でも、そこまでは分からなかった。裏で麻薬とか警察とかの絡みがある事件だと思っていました。荒木さんはどうやってその情報に辿り着いたんですか?」

有美ちゃんのお姉ちゃんと交際していたのが大学三年生だとすると、いま有美ちゃんのお姉ちゃんは社会人二年目か三年目、つまり10年弱経っていることになる。

そうすると、荒木さんは30歳を越えている。

社会人として仕事をしているのであれば、片手まで操作を続けていたと言うことだろうか?

それか振興所にでも依頼したのだろうか?

ただ、アイリのレベルを持ってしてもたどり着けない情報に、振興所がたどり着けるとは到底思えなかったけども。

「大学を辞めて、実家を継いだんだ。そうでもしないと、操作の時間が作れないと思ったんだ。生半可な気持ちでは、犯人に近づく道が分かるわけもない。長年夢だった教師と言う職業を諦めるのも容易かったさ。そのくらい、俺は人生をかけて彼女の恨みを晴らしたいと思っていた。有美の姉と付き合っていたことは全く後悔していない。むしろ、また愛を教えてくれた彼女にいまでもすごく感謝している。けれども、いま俺がやらなければいけないことは、初恋の彼女の闇を払うことなんだよ。有美の姉には申し訳なさももちろん感じてはいる。ストーカーだと、嫌がらせだと警察に忠告も受けたこともある。だが、そんなこと、いまの俺にとっては何てことはない。目的が俺を歩かせてるんだ」

そう一旦言い終えると、ぐいっと最後のコーヒーを飲み干した。

「冷めても美味しいコーヒーは、人間のように深みがあるな。人間も時として冷めたり、熱くなったりするが、そこに気持ちがあるだけで全く違う。気持ちがないやつは、冷めるとコーヒーであることすら忘れる。俺は、俺の熱は覚めない。冷たくなっても、俺は彼女を救う」

死んでも、体が冷たくなって、幽霊になっても、犯人を追い詰める、そんな風に僕には聞こえた。

「ちなみに、さっきの荒木さんの話だと、有美ちゃんのお母さんはまだ生きているような雰囲気でしたけど、実際はどうなんですか?」

「まだそこまでは辿り着けていないんだ。というのも、かなり情報を守るセキュリティの壁が暑すぎてね。専門ではない俺ではある程度限界に来てるんだよ」

「ちなみに、有美ちゃんから聞いたんですが、有美ちゃんのお母さんが世界を滅ぼそうとしているとかっていうのはどういうことなんですか?すみません、聞いてはいけない話でした、やめます」

「いや、君とはパートナーとして今回の事件を追う契約をしたんだ。情報を提供する義務はあると思っている。

それはだな、近づけるギリギリまで近づいて集めた情報から俺が叩き出した仮説だ。

いろいろ当たっていくなかで、そのマリアっていう組織は世界中に養護施設をたくさん抱えている。それも表面は、慈善事業として、チャリティーを行っているんだが、奇妙なことに、毎年何人かずつそこでも失踪にあっているんだよ。まぁ中には発展国もあって、いろんな事情を抱えた子供がいるのも確かだし、家出する子供がいないわけではないのも認識している。しかし、一回失踪した子どもが誰一人として戻ってきていないこと、そして彼らが大人になっているという情報を耳にしないこと、これらを含めて失踪した子供たちはもう“彼らではなくなっている”可能性が高いんだ。そこで容易に考えられるのは、人体実験の被験者ってことだよな。」

またしても荒木さんは、つらつらと恐怖にも似た情報を僕に話した。

あまりにもいまの僕の生活からかけ離れているその話は現実味が無さすぎて、逆に嘘っぽくは聞こえなかった。

「まぁ、これはあくまでも俺の推測でしか行きを越えないがな。ちなみに、その施設っていうのがこの町にも存在していた。いまはもう廃墟と化しているが、形だけは残っている」

「その施設にはもちろん行ってみたんですよね?」

「あぁ、もちろんだ。忘れるわけもない、彼女が亡くなった場所だったからな」

「どうだったんです?」

「何もなかったよ。瓦礫と埃と時間が止まったかのような沈黙しか無かった。もしかしたら、地下に研究所があるかもしれないと思って、いろいろ機械も持っていって調査したが、収穫はゼロだ」

「そうですか…」

荒木の本気具合に僕もついていかなければと、必死になり始めていた。

「そういえば、僕が調査していた中で、今回の誘拐事件と同じような事件がアメリカであったんですよ。もしかしたら、お母さんが生きていて、関与しているって言うのも考えられないかなと」

タケシからヒントをもらったアメリカでの連続少女失踪事件は、アイリの力を駆使しても、ネットに流れている情報と同等のものしかなかった。

あとは、アメリカの警察がしっかりと調査していないのもあったかもしれないが、頭打ちで終わっていた。

「その可能性もある。ただ、同胞の仕業であることは間違いない。主犯各は必ず存在している。有美の母の生死に関わらずな」

「その人を見つけ出すってことですよね」

「そうだ」

荒木さんと目があった。

その瞳は強すぎて、僕は直視できなかった。






「次は君の番だよ」

今日だけは奢りだよと、今度はスリランカ産のコーヒーを荒木さんは奢ってくれ、僕はそれをすすりながら一息入れていた。

この僅か数十分のなかに、大量の消化しきれない情報を抱え込んでいたので、少しでも租借する時間がほしかった。

だが、荒木さんはその猶予もわたさず、僕に話の匙を投げた。

「僕は何にもないですよ。ただ…」

可奈子の笑顔が脳裏に浮かんだ。

守らなければならない笑顔。

生きて、無事に帰ってきてほしい大切な家族。

「僕の妹が行方不明なんです。荒木さんはなにも知らないですか?小学校で一緒にいたのを目撃されてるんです。駅前まで一緒に歩いていましたよね?…実は知り合いにお願いをして駅までの防犯カメラにあなたが写っているのを僕は見ました。なにも知らないわけではないですよね?」

荒木さんは何も言わなかった。

ただ僕を見ていた。

「まず結論から言おう」

「はい」

「俺は月曜日ここのカフェにいた。それはマスターが証明できる。ちなみに小学校も駅前も月曜日に関しては近寄ってもいない。以上だ」

ちらりとマスターを見やった。

マスターはカウンターでコーヒーカップを磨いていた。

僕の視線に気づいたのか、こくりとただ頷いた。

「じゃあ、可南子を拐ったのは別に犯人がいるんですね」

そう言ったものの、僕はまだ荒木さんが犯人だという可能性を捨てないでいた。

お互いに手の内を見せ合い、それから何かことを起こすのでも遅くないってことか。

それなら、乗りかかった船だ、僕は荒木さんの本当の正体が分かるまで、転がされてようと思った。

こっちにはアイリがいる。

何かあったときに、必ず力を貸してくれる。

「そうだ、そしてその犯人は今回の事件一反に関与している」

「分かりました。犯人、探し出しましょう」

ゆらゆらと淹れたてのコーヒーから湯気が立ち上がった。



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