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僕のはじめてを君に

アレキはにやにやしながら、僕らの前に立っていた。

風にアレキが着ている白衣がゆらゆらと揺れている。

顔はよく見るとまだ若そうだ。

目元は切れ長で、シャープな形の眼鏡をしている。

顔の肌にも張りはあるし、首にもまだ目立った皺はない。

推測するに20代後半くらいだろうか。

まだ決まりではないが、こうして直に犯罪を起こしていると疑われている人物を見るのははじめてで、映画の中の世界だけだと思っていたので、どうしていいか急にわからなくなった。

タケシもきっと同様だろう。

スポーツに明け暮れた青春時代に、警察が絡む容疑者を見たことはないはずだ。

タケシが、僕とアイリの中で分かった、吉岡姉妹への嫌がらせに近い執拗な連絡や脅しに似た脅迫だったり、足を残さない情報への徹底的な態度のことを知らなくても、有美ちゃんの取り乱し方を見ていれば分かる。

「君、俺のこと知っているの?」

アレキが機械のような声で僕に問いかけた。

「俺の記憶のなかでは、会ったことはないんだよね。人違い?」

「いや…それは…」

さすがに吉岡姉妹のメール履歴を覗いていたとか、アレキに対してハッキングを掛けていたとはいまのこの場では言えない。

「まぁ、ドッペルゲンガーかもね。世の中には三人いるっていうしね。それに、僕はひととはあまり接触しないから、会ったひとは大体ここにインプットできる」

ここ、とアレキは右手の人差し指で頭をこんこんと指した。

「吉岡有美」

アレキが声色を真面目に彼女の名前を読んだ。

思わず有美ちゃんの体が反射的にびくりと動く。

「俺には目的がある。それを成し遂げなければならない。それは君に関係ないことかもしれない。だが、俺の中でそれは確固たる証拠のもとで確信に変わったときのみだ。それまで俺は君に接触し続ける」

アレキは先程までのヘラヘラした感じは全く無くなり、何か正義の味方のような潔さすら感じくらいだった。

「じゃあ俺は一旦今日のところは引くよ。…吉岡姉、早く戻ってくるといいね」

さっと白衣を翻し、僕らに背中を向けた。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

僕はこのまま彼を見送ってはいけない気がして、呼び止めてしまった。

しかし、呼び止めたからといって何か言いたいことがあるわけでもなかった。

「ん?なんだい?まだ用がある?」

アレキは以外にも素直に振り向いた。

「君、やっぱり俺に何か思うことがあるみたいだよね?なに?俺のこと何か知ってるの?もしかして、何か調べてたりするの?」

答えが全部イエスであるがゆえに、何も言えなかった。

「何もないなら俺は帰るよ。君たちみたいな地方の国立大学生のような余裕なんてないんだからね」

「…」

(なんとしても、彼との繋がりを保たなければ…)

アレキが草影に隠れるくらい10メートルほど進んだときだった。

僕はなにかを必死に叫んだ。

その言葉は、周りが唖然とするものだった。

アレキはまたもや僕らに振り返り、しばらく僕の顔をじっと見つめて、何かを少し考えた後に、僕のところまでゆっくりとその細い足で歩いてきた。

「君、変わってるね」

そう言い、白衣をごそごそと左手で漁り、中から紙切れとボールペンを取り出した。

左目を下敷きに、右手でさっと何かを書いた。

「はい、これ」

不器用にさっと目の前に紙切れを二つ折りにして渡された。

「あ、ありがとうございます」

両手でそれを受け取った。

「ちなみに、俺はストレートだ」

「え?」

言葉が聞こえたのと同時に顔をあげたつもりだった。

しかしそこには、アレキの姿はどこを見てもなかった。

僕と有美ちゃんとタケシの三人だけだった。

しばしの沈黙の後に、タケシが口火を切った。

「ヨージ、お前ってば、すげえなぁ」

「あ、いや、そんなんじゃないって。咄嗟に出ただけだから」

「俺はお前がストレートだとばかり」

そこまで言うと、タケシは有美ちゃんをみやり、有美ちゃんがぽかんとしているのを見てにやにやしていた。

「連絡先なら、わたしも知っていたわよ」

「そ、そうだよね…」

僕のいま両手にはアレキの手書きで電話番号とメールアドレスが写っていた。

そう、僕が叫んだのは、

「連絡先を、教えてください!」

といかにも男に言うにはふさわしくない言葉だった。

人生で初めて言ったこの言葉がまさか男に対してだとは思いもしなかった。

さらに、自分から女性を抱き締めたのも生まれて初めてだった。

ふたつの初めてが重なった日だった。

とにもかくにも、幸いにして?僕は犯人らしき人物の連絡先を手に入れることができたのだった。

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