それぞれの日常
下の階に戻ると、可南子は変わらずアイドルアニメをテレビにかじりつくように見ていた。
母さんは、夕ごはんの支度を続けていた、香ばしい匂いがする。今日の献立はカレーだ。
「ヨージ、今日はお父さん遅くなるみたいだから、先にごはん食べてましょう」
「OK」
父さんは中小企業の部長をしている。
仕事内容は建築業の人事だ。中小企業といっても大手のグループ会社だけあって給与体系は良いらしかった。
そうでもないと、僕を奨学金無しで地元の私立大学に入学させるのは大変だったと思う。
母さんは、ずっと主婦をしている。
父さんも母さんも同じ中学校からの付き合いで、高校から付き合って、お互いが24歳の夏に結婚をした。
父さんはその当時から結構人気者であったらしく、文化祭でバンド演奏をしたり、体育祭では現役陸上部を押さえてリレーのアンカーをしたり、合唱コンクールでは指揮者をするような、いわゆるクラスの中心人物だったようだ。
勉強では一番は取れなかったみたいだけど、立派に国立大学を卒業して、大手建築会社のグループ企業の人事部長として、家族3人を支えている。
母さんに昔の話を聞くと、いつも顔をニコニコさせて、「父さんはモテて大変だったのよ」と自慢げに鼻を膨らませて言っていた。
逆に父さんに、なぜ母さんと結婚したか聞くと、「誠実で、尊敬できる」とどこかテレビで聞いたことがあるようなことを言っていた。
僕が思うに父さんは面食いなだけだと思う。
母さんは女子大時代から街角インタビューや地元広告のモデルなどをしていた。
すっきりした体型とやわらかな目元には40を越えても色気が感じられる。
母さんの右目の下にはほくろがある。僕にも同じようにある。僕はまだまだだけど、このほくろで色気が出せないものか。色気が出せたなら、有美ちゃんを落とせたかもしれないのに。
「いい匂い~!」
アイドルアニメが終わったのか、可南子がキッチンのダイニングテーブルに走ってきた。
「今日はみんなが好きなカレーよ」
「わーい!可南子、ママのカレー好き!」
テーブルに茶色の艶々したとしたカレーと秋田のじぃちゃんとばぁちゃんが作ってくれたあきたこまちが完璧な比率で並べられた。
「可南子の今日の髪型、朝のテレビのあのアナウンサーに似てるね、母さんよく朝忙しいのにすごいね」
「あぁ、可南子のアレルギーが首に出ちゃってね。冬は出なかったんだけど、年頃よね」
「大変だな、薬ちゃんと飲むんだぞ」
「はーい」
「そういえば、大学はもうちょっとで冬休みよね。また年越しは健くんと剛くんと過ごすんでしょ」
「うん、多分。いつもタケちゃんちかな」
「行くときに声かけてね。本郷さんちにお菓子もって言って欲しいから」
「わかった、ありがとう」
父さんが母さんを好きになった理由が分かる。母さんはすごく気を遣えるひとなんだ。
それと比べてアイリは強情と言うか、機械らしからぬAIだ。
出会ったあの日は別人のようだった。
あのときはまだ、本当にただの機械だったんだ。




