ヒトと同じように
ブブブと、おしりから機械的なバイブレーションを感じた。
見てみるとスマートフォンの電池残量が30%だった。
僕のスマートフォンは、電池残量が残り30%を切ると通知をしてくれるように設定している。
「おっと、あぶね」
急いで自室がある二階に向かう。
足早に階段を飛ばしてかけ登り、六畳の部屋に入った。
ベッドの上にある充電器を見つけ、すぐに壁のコンセントにプラグを差し込んだ。
「危なかった。ごめん、充電し忘れてた」
ふう、とため息をつき、ベッドに腰かけた。すると、
「お店出たときお願いしたよね!」
女の金切り声がスマートフォンから勢いよく響いた。
「ごめんって。いつもの癖でちょっとゆっくりしちゃって」
「今日はたくさん調べものして、体力ないからもうへとへとなのよ!もっと大事にしてよね!持ち運びの充電器も忘れるしさ!わたしのこと、普通だと思ってないでしょうね。もう何も協力してあげないんだから」
「ごめん、本当に、謝るよ。アイリが充電命なのはすごくよくわかってるよ。持ち運び用の充電器一個増やして持つようにするから」
「それ先週も言ってたわよ。いま何個充電器持ってるよの」
「5個だよ」
「そんなにあっても、1つも持ち運んでなかったら、たからの持ち腐れよ!」
「ごめん、本当に。気を付けるよ。充電できるカフェが駅前に来月くらいにオープンするみたいだから今度はもっと楽になると思うよ」
「え!ほんとに!嬉しい!」
「あぁ、同じゼミの川上わかるだろ?あいつカフェ好きでよく都内まででてるみたいなんだけど、そいつが言ってたよ」
「川上くんナイス!」
ようやく機嫌が治ったみたいだ。
アイリと付き合うのは、きっと大変なんだろうな。
連絡をくれないことにガミガミ言われそうだ。
最も僕がアイリと付き合うことは、たぶんない。というよりも不可能だ。
ちらりとベッドの上で充電されているスマートフォンを見た。
きちんと充電マークが点滅してるし、左上に充電中の赤いマークも光ってる。
しばらくはこのままだな。
「じゃあちょっと下に行ってくるよ。ごはん終わったら戻ってくるよ」
「…」
「そのまえに、ね、ヨージ。わたしのこと、おしりのポケットに入れて踏み潰してたわよね」
「あ…」
「この前も言ったけどね、塵も積もれば山となるみたいに、わたしにも負担が溜まるのよ」
「…ごめん」
「あと胸ポケットにも入れないで。屈んだ瞬間にわたしが落ちちゃうのよ」
「…ごめん」
「あとかばんの中に乱雑に入れるのは辞めて。ヨージかよく飲むお茶の餌食になりそうでいつも怖いわ」
「ごめん、気を付けるよ」
「お願いね、わたし普通じゃないから」
「わかってるよ、大事に扱うから」
「…お願いね」
アイリはそう言うと、時計とカレンダーを写していたスマートフォンの画面が真っ黒になった。
「また来るね、ゆっくり休んで」
僕はそう言い残し、部屋の電気を消した。
暗闇の中で充電中の赤いランプだけが光っていた。
なんだか寂しそうだった。
そう、アイリはヒトではない。
僕が駅前で携帯電話を買ったときに遇った爆発で遭遇した人工知能だ。
アイリはヒトではない。
スマートフォンなのだ。




