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虫の知らせ

「ねえ、ヨージ」

「なんだ」

「ちょっと気になることを見つけたの」

駅前のドーナツショップからクリスマスムード真っ盛りの町を抜けて、家路につく途中だった。

アイリが僕に話しかけた。

「女性連れ去り事件のことか」

「そう。有美ちゃんのことなんだけど、ちょっとSNSを見てみたのね。そこで、ちょっと気になる画像があって」

「ちょっと見たいな」

「この画像なんだけど」

「どのあたりが気になるんだ?」

「首のあたり、見てみて。耳の後ろ」

アイリが見せてくれたのは、SNSの写真だった。髪をアップにしているマリアちゃんを、後ろから撮っているものだった。見返り美人だなとも思いながら、首に違和感を感じた。後ろの首と髪の生え際当たりに、虫刺されのような傷が2つある。

「この虫刺されみたいなのことだよね」

「そう、この傷痕がちょっと気になって」

「どのあたりが?ほくろみたいにも見えなくはないけど」

「事件のあとにできたような気がするの」

「なるほど」


アイリいわく、この傷は事件が起きる一週間前の写真にはないとのことだ。アイリから何枚かSNSの写真を見せて貰ったが、確かに事件が起こる前には、その傷は無かった。

気になって念のために一年前の写真も見てみたが、そこには陶器のようなきれいな首筋が浮かんでいるだけだった。


「本当に虫刺さされか、だだの傷ならわたしの気にしすぎたんだけど」

「いや、事件の可能性もあるから断定は出来ないね」

そうして、ひとつの新たな疑問を見つけ出したとき、自宅に到着した。


昔からある僕の一軒家は、閑静な住宅街の中にある。道路沿いにあるが、そこまで交通量も多くないので、平和そのものだ。

二階建ての家はおじいちゃんとおばあちゃんの時代からあり、周りの新築とは雰囲気が異なるが、おじいちゃんが塗った緑色のペンキ屋根が昔の子供向け絵本に出てくるかわいさがあって好きだった。


「ただいま」

家につくと、妹の可南子が走って迎えに来てくれた。

「お兄ちゃん!おかえり!」

小学4年生の可南子は、自慢の長い髪と太陽のような笑顔を振り撒いてくれた。

「ただいま可南子。学校はどうだった?」

「今日は国語のテストで百点取ったの!」

「偉いなぁ、可南子は。ご褒美にお兄ちゃんが、駅前のシュークリーム買ってきてあげるよ」

「わーい!お兄ちゃんありがとう!」

可南子はスキップしながらリビングに続くフローリングの床を走っていった。

靴を脱いでほくもリビングに向かう。たぶん母さんもいるはずだ。夕ごはんの準備をしている音がする。


「母さんただいま」

「あら、ヨージお帰りなさい。今日は早かったのね」

「今日は講義が教授の体調不良で休みになったんだ」

「そうなの。ゆっくり休んでね」

「わかった、ありがとう」


冷蔵庫から飲み物を取ってリビングのテレビを見に行った。

可南子がすでに先約でレンタルビデオショップで借りてきたアイドルアニメを見ていた。

ソファーに座るときに、

「あれ、可南子?いつもと髪型違うな」

「そうなのー!お母さんがいつもと違うくしてくれたの!」

「良かったな、似合ってるよ」

「えへへー」

可南子は振り向いてまた太陽みたいな笑顔を振り撒いて、アニメに振り戻った。

いつもはポニーテールとかツインテールとか団子だとか髪をアップしにしていることが多いが、今日は背中の真ん中まである細くて艶々した髪をストレートに下ろし、後頭部に両耳から三つ編みを作っている。よくテレビのアナウンサーがやってるような髪型だ。

可南子は学校ではしゃぐ方なので、母さんが気を遣って動きやすい髪型に毎朝しているのだ。


「たまには、いいでしょ?」

キッチンから母さんの声がした。

「大人っぽくてたまにはいいな。悪い男に引っ掛からなきゃいいな」

「まだ、小学生よ」

ほほほと、お皿を洗いながら母さんが笑った。


いま思うとこのときに気づいていれば良かった。

可南子の後ろ姿を見ながら、普通の毎日が当たり前にあるなんて、勘違いをしていた。


事件はこの街で起きているんだら。

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