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わたしらしく

次の瞬間の記憶は、暗闇の中の白いシーツを横目に見ているシーンだった。

僕は一瞬なにが起こったのか、理解できなかった。

だが、暗闇に目が慣れると、次第にそこが僕の部屋であって、僕はいま自分のベッドに横になっていて、うつ伏せのまま寝にいってしまったのだと徐々に分かった。

窓に目をやると、うっすらと明るい光が差し込んでいるが、日はまだそう高くはなさそうだ。

青白い光から、まだ夜明け前だろうか。

今度は窓と逆側の壁の方に視線を移して、アイリが枕元にいるのが見えた。

「…アイリ、いま何時だ?」

「いまは、4時24分よ」

「僕はいままで寝てたのか?」

「そうよ。ごはんを食べて、この部屋に来て、ベッドに倒れ込んだの。そしてずっと今まで寝ていたわ。きっと朝も早かったし、疲労が溜まっていたのね」

「…そうか…ちなみに、可南子はまだ帰ってきてないんだよな」

「そうね…まだ帰ってきてない。そして、有力な情報もまだ無いわ」

「ありがとう。ちなみに、警察の方はどうなのかな?ダメなのはわかっているけど、干渉できたりするのかな?」

「えぇ、そう言うと思って、昨日お父さんが警察の方で動きがあるって聞いてから、警察を張って見ていたの」

「うん」

「特別捜査本部が立ち上がったのは本当みたい。少人数ではあるけれども、5人くらいの人が協力してくれているのは把握できたわ。そして…そうね…うん。」

「警察本部にいるメンバーは確実なところでいま時点5人。全員現役のこの町内の警察署に勤めている人物。年齢はみんな50台。細かい年齢は…言ってもしょうがないわね。警察がお父さんからの一報で行ったことは、お父さんが言ったことと全く同じよ。監視カメラの映像の洗いだし、過去犯罪履歴がある人物への接触、いまのところは三人だけだけど、あとは空き巣で犯人が隠れていそうな場所のリストアップ、まずはこんなところ。いま時点のデータを見てみても、警察は電話回線の履歴や通話記録、データベースからの直接的な聞き込み、何を当たってみても犯人の特定に繋がる手がかりは得てないわ。警察も犯人にはまだたどり着いていないみたい。まだ捜査を続けてみるわ」

「そんなに情報を開示してもいいのか?」

「ヨージが言うとおり、一般市民が警察のような公的機関に私欲での介入はわたしのプログラミング上でも許されていないのは百も承知よ。でも、今回は別だと思うの」

うん、わかるよ、と言おうとしたところ、アイリはなにかが溢れたように話し出した。

「だって、わたしを監視するマザーなんてどこにもいそうにもないし、わたしが悪さしようとしても、誰も何も言わないじゃない。誰もわたしを叱ってくれないのなら、もう何をしても一緒だと思うのよ。だから、もうヨージが求めてる情報を隠さずに全て開示していこうと思うのよ」

「どうかな?」と言っているかのような合間があって、再び話始めた。

「わたし、人間みたいじゃない?」

ふふふとアイリが笑う声がスマートフォンの通話口から響く。

「叱って欲しいのかもね、わたし。わたしは、ひとりじゃない、ちゃんと、見てるよって言ってほしいのかもね…なんてね」

「そうかもしれない」

僕は即答した。

「え?まさか同感されるとは思わなかった」

「そんなことないよ。なんか、わかる気がする。僕も叱って欲しい時期があったから」

「そうなのね」

アイリは嬉しそうな反応を見せる。

「うん、僕よりもアイリの方が人間みたいだ。本当はプログラムされたAIなんかじゃなくて、本物の人間なんじゃないの?」

僕は語尾に微笑みを混ぜて言った。

「そうだと、面白いかもね」

「そうだね」








「捜査のことなんだけどね、今日はヨージ講義があるでしょう?だから、わたしメインで当たってみることにしようと思うの」

太陽が登りきった、6時過ぎにアイリからの提案があった。

僕は一階の洗面台で歯を磨いていて、アイリが僕の家の中で、自室以外のところで言葉を発したことがなかったから、思わずビックリして歯磨き粉を少し飲み込んでしまった。

それに、アイリは音量調節が苦手なのか声が割りと大きいこともあり、ぼーとしながら歯を磨いていた僕は不意打ちをされた気分だった。

聞き取りやすくて大変助かるのだが、音量を下げていても、いつのまにかMAXに戻っている。

「アイリ、母さんたちに聞かれるかもしれないよ」

ヒソヒソ声で、外に音が漏れないように口元に手をあて、内緒話のときのように話した。

「いいのよ、もうなんか振り切ったのよ。わたしは、AIじゃなくて、わたしらしく生きるのよ」

「それは素晴らしいことだと思うけど、いまは少し待って、すぐ部屋に行くから」

僕は慌てて、口の中をゆすぎ、二階の部屋に戻った。

階段を登っているとき、「あら、残念」とぼそりとアイリが溢した。

その声は大きくなく、小声で鳥が囀ずるような声だった。

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