頭も心もいっぱいに
自宅につくと、母さんが僕が思っていたよりも回復をしていた。
回復と言うよりもむしろさらに元気が増しているようにも思える。
父さんと一緒にいて、大分癒されたんだろう。
そして、自分が元気がないなんて似合わないし、可南子が大変な中で自分だけお通夜のように悲しくしていたって、状況はよくならないもの、と空元気にしか見えなかったが、明るく言った。
「さぁ、まずは、腹ごしらえにしましょう。お腹が空いていたら、できることもできなくなっちゃうわ」
「そうだな、せっかく母さんが時間と手間をかけて作ってくれたんだ。食べないわけにはいかないな」
父さんと母さんは、まるで可南子が確実に帰ってくると何か確信があるかように声に確実性を込めて言った。
「そういえば、警察の捜査はどうなってるの?」
「あぁ、順調に進んでいるよ」
「順調っていうのは?」
「警察署内で極秘だが捜査本部を立ち上げてくれたらしく、いま情報を当たってくれているよ。町内のすべての監視カメラの映像を洗って、町内で前科があるものにも直接あたってくれるそうだ。あとは不審な人物の候補ももういくつかあるようだから、恐らくその中から出てくるのではないかということだった。だから」
そこまで言うと父さんは僕の両肩を優しく父さんの両手で包んだ。
ブーケに包まれる花のような優しい包み方だった。
「だから、心配しなくてもいい。」
真っ直ぐに僕を見つめるその父さんの瞳は、恐ろしいほどに綺麗だった。
僕は、父さんの奥にある何かに恐れ、反射的に目をそらしてしまった。
父さんはびっくりしたのか、一瞬僕の肩を持つ両手から力を抜けたものの、再び優しく力をいれ、
「大丈夫だ。ヨージも俺が守るから」
と言った。
そして、
「母さんが言ったことで傷つけたなら申し訳ない。だが、母さんは本当にそういうつもりで言ったわけではないんだ」
と小声でもよく耳に届く声で言った。
僕はその瞬間、あぁと悟った。
母さんも、父さんも僕が拗ねて家を出たのだと勘違いをしているだ。
それで母さんが父さんに自分の失言のことを相談し、父さんが再び僕にお詫びを入れたのだ。
そんなの、もういまさらどうでもよいことなのに。
僕はこの与えられた身に余るほどの素晴らしい環境に何を文句など不満があるというのだろうか。
誰にも拾い手がなく、実の母に見捨てられた自分にとって、この家族はいまでは何にも変えがたい存在なのに。
「父さん、ありがとう。僕は本当に何も気にしてないよ。むしろ変わらず父さんにも母さんにも感謝しているよ。だから、僕は何も言わずにいなくなったりしないから」
僕の言葉を聞いて父さんはすごくほっとした表情をした。
父さんの大きな両手は僕の肩に乗ったままだった。
僕はその大きな手のうち、左肩にある手に僕の右手を優しく重ねた。
父さんの手はとても温かかった。
僕はその温かさがこの家庭の温かさそのものだと感じた。
「そうだ、父さんごはんにしよう。こんなときだけど、お腹は空くもんだね」
僕は父さんに慣れない笑顔を見せて、キッチンに向かった。
この家族は、僕が守るしかない。
僕は更なる捜査を進める手順で頭の中をいっぱいにした。
可南子を守るために。
そして、僕を捨てた母さんを一瞬でも忘れるために。




