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六本の線

家の中は引き続き神妙な雰囲気に包まれている。

母さんは父さんが来たことによつて、少し気持ちが回復したようだった。

しかし、自分がドーナツをひとりで買いにいかせなかったらこんなことにはならなかったのに、父さんに話しているところを見て、何度も泣き出しているのを見ると、母さんの焦燥によるやつれがかなり心配になってくる。

父さんは、ずっと母さんの手を握り、安心感を与えようと努めているようだった。

父さんが依頼した警察の友人はもう犯人を特定できたのであろうか?

なにかヒントをすでに掴んだのであろうか?

アイリもいまくまなく情報を探しだしているところだ。

僕は、僕ができることをする。

僕ができること、アイリにできないこと。

「…足で情報を稼ぐしかないな」

警察の捜査力には限りがあるというのが僕とアイリの見解だ。

これだけ明確な失踪事件が続いていても、確固たる証拠がなければ警察も手も足もでない。

父さんの友人がいくら有能でも、いままで通りの捜査を続けていても何も手がかりをつかむことはできないはずだ。

犯人は一般以上の能力と証拠を残さない完璧な誘拐をする人物だ、

そう簡単には尻尾は出さないはずだ。

つまり、普通に捜査をしても犯人がなにかぼろを出さない限りは何も見つけられない。

しかしこちらには、優秀な助っ人がいる。

「アイリ、これまで誘拐された彼女たちの家や学校、よく行くであろう場所を辿ってくれないか?時間があったらアメリカの方も同じことをしてほしい。もしアメリカも日本も犯人に共通点があるなら、何かヒントがあるはずだと思うんだ」

玄関で少しひそひそ声でアイリにお願いする。

壁の向こうには焦燥した母さんと額に汗をにじませる父さんがいる。

何かの縁だと思うが、他所から来た僕を何不自由なく育ててくれた父さんと母さん。

親孝行をするならいまがそのときであると思う。

そして、これも何かの縁か、アイリと言うスーパーAIもいま僕のそばにいる。

これはきっと、そうするべくしてそうなっている。

つまりは、可南子は絶対に帰ってくる。

アイリの力をもって、可南子は必ず帰ってくる。

それは、僕の手にかかっているということだ。

「分かったわ。みんな携帯電話は持っているようだけど、GPS機能はキレイさっぱりオフになっていて使い物にならないけど、アナログなやり方でいいならすぐ出せるわ」

「ありがとう。何かヒントになれば犯人に近づけると思うんだ」

アイリはものの数分で失踪した彼女たちの日常の行動から通るべき道やよく寄るところを割り出した。

そして地図上に赤や青、緑とひとりひとり色を変えて、地図の中の道に色を塗っていった。

地図が一気にカラフルに染まっていく。

線が幾重も交差するところ、一本だけが青々と色を輝かせる場所、白地の黒線だけの地図に色味が増し、僕の視線を様座な方向に向けていく。

「一旦はこんなものかしら」

アイリがそう言うと重ねられる線は、一時停止をした。

スマートフォンの中に表示された僕の町の地図。

改めてみると小さな町だと思うが、いまはその小ささが幸をそうしているように思えた。

「これって…」

「そう、わたしも線を引きながら思ったわ」

赤、青、黄、緑、紫、茶色の六色が全部交差している箇所が一ヶ所だけあった。

「でも、これは当たり前だ。だってここは、町の中心だ。なんの手がかりにもならない。誰もが通る道なんだよ」

「それでも、示された場所はここよ」

「そうだな…黙っていても、家にいても犯人がやってくるわけはない」

「そうね、それに、もしここが犯行現場ならよく言うじゃない」

「よく言う?」

「そう、“犯人は犯行現場に戻ってくる”って」

よく刑事ドラマやサスペンス映画で聞いたことがある台詞だ。

「そうだな、まずは当たってみよう」

僕はそう言って、外出の準備をするために、二階の自室に戻った。

荷物を軽くまとめ、いつものリュックサックに詰め込み、階段を足早に降りていく。

そしてリビングにいる母さんと父さんを横目に見て、靴を履こうと玄関の段差に屈む。

そこで、ふと思い直し、リビングに向かって「ちょっと外出てくる。すぐに戻るよ」と言った。

父さんと母さんは不安そうな顔をしていたが、「帰るとき連絡してくれ」と父さんは僕の気持ちを悟ったように返事をしてくれた。

母さんはその父さんの言葉を聞いて、「ちょっとあなた、何をいってるの?ヨージまで帰ってこなかったらどうするの?家にいるべきでしょう?」と言いたげに父さんのことを見た。

「そう遅くはならないんだろう?」

「うん、ちょっとそこまで」

父さんは目尻に皺を寄せて、母さんの不安を取り除こうと会話を継ぎ足した。

「気を付けていってくるね、すぐくるよ」

玄関に再び向かい、すっかり暗くなった外に飛び出した。

12月の外は六時過ぎでももう辺り一面暗闇で包まれていた。

いま可南子がいない状況の心理状態も相まって、暗闇はどこまで進んでも暗闇で、歩く度に不安な気持ちが押し寄せてきた。

僕が向かう先に、可南子につながるヒントはあるのか?

無駄足なんじゃないのか?

ただの探偵ごっこで、養子である自分に対しての自慰に似た自己満足なんじゃないのか?

もう可南子は…

暗闇がそうさせるのか、さっきまでの強い意思は嘘のように消えかかっていた。

そう思いやんでいるうちに、目的の場所に着いた。

「ここか…」

六時過ぎのこの場所は、人通りがまだまだ多かった。

賑やかで活気がある雰囲気に包まれ、先ほどまでの僕の憂鬱な気持ちを紛らわせてくれるようだった。

「ここね」

アイリも到着したことに気づいたようだった。

「ここが、可南子を含め6人の共通した場所なんだな」

「そうね。六本の線はすべてここを交差したわ」

頭上の看板にある文字を遠目に見る。

この町の中心。

生活の中心。

誰もが知る場所。

そして、数週間前、大きな爆発があった場所…

「さて、駅前から探索しますか」

夕方、帰宅するひとびとの中をかき分け、僕らは捜査を開始した。


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