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深まるもの

「ねぇ、ヨージ、さっそくなんだけど、この映像を見てほしいの」

アイリが黒い画面の中から、映像を再生するボタンのイラストを表示した。

僕がノートを開いて間もなくのことだった。

「さすがアイリ仕事が早いな」

「画像が荒くて、申し訳ないんだけど」とアイリは防犯カメラの映像のような白と青と黒でできたドットが強い映像を流してくれた。

右上に時間が表示されていた。

時刻は16時48分とあった。

よく見ると撮されている場所は、駅前の通りのようだった。

買い物帰りのひと、ランドセルを背負った学生、部活帰りの学生、サラリーマン、さまざまなひとが画面のなかに入ったり、出たりを繰り返している。

しばらく見ていると、「ここの左側の歩道を見て」とアイリが声を出した。

瞬きを控えながら、画面をじっくりと見る。

すると直後、ふたりの人の影が左下から歩きながら出てきた。

そのふたりのひとは、ひとりは長身で細身で大人の体格、もうひとりは背が低く子どもだとすぐわかった。

「…可南子なのか…?」

そう感じるともう可南子にしか見えなくなってくる不思議を払拭しながらも、可南子であろう特徴を自分の頭の中のイメージと合わせていく。

今日の髪型は?服装は?

「…だめだ…分からない…」

今朝はたまたま早く家を出たのもあって、母さんがどんか髪型を可南子に結ってあげたのか、どんな服を選んだのか分からなかった。

「早起きは三文の徳なんじゃないのかよ…クソッ神様はいじわるだな」

大人と子供の組み合わせなんて、数あるほどいる。

少女はポニーテールをゆらゆらと優雅に揺らしながら、大人と平行に歩いていく。

このシルエットだけで、犯人と可南子だなんて断定はできない。

警察にこの映像を見せても、動いてくれるはずはない。

「アイリ、もっと何か鮮明なものはないのか?これじゃあ顔が分からない」

イライラが募る。

そこに加南子がいるはずなのに、なにもできない。

「がんばってみるわ。まず拡大をして見る。そこから画面上の要らないノイズを最大限取り除いてみる。まだこの情報は氷山の一角にすぎないわ。だから、気を落とさないで」

アイリはそう言ってくれたものの、僕は内心カリカリしているのを止められずにいた。

こんな気持ちは初めてだった。

自分の力の及ばない無力さを突きつけられているようだ。

まるで真四角の水槽のなかに水をたっぷりと入れ、そのなかに僕がいる、もがきたいし、外に出たいが何もできない、そんな気分だった。

「…一旦母さんの様子を見に行こう。父さんも帰ってくるし」

「分かったわ。画像の解像は終わったから、いつでも見てね。わたしは捜査を進めておくわ」

アイリはそう言って、画像フォルダのイラストを画面に出して、スリープモードに入った。

「ありがとう」僕がそう言ったのと同時に、玄関から男の人の声で「ただいま」と言う声が聞こえた。

父さんだ、と反射的に分かり、席を立った。

急いで下の階に向かうと、出張帰りの父さんが黒いキャリーケースとお土産の紙袋を玄関マットの脇においているところだった。

「お、ヨージ、もう帰ってたのか」

父さんは笑うと皺が寄る目尻を緩めて僕に笑いかける。

「父さん、おかえり」

「よいしょ、お腹が空いたな。今日はどうやらごちそうだそうで、朝母さんから連絡があったよ」

「…それなんだけど…」

そう僕が立ちすくみながら口ごもると、父さんはすぐに何かを悟った。

「何かあったんだな?」

「うん」と言ったところで、リビングから母さんが顔を出した。

父さんの顔を見て安心したのか、顔色が少し戻っていた。

「…あなた…」

それでも母さんはいまにも倒れてしまいそうなほど、ふらついていた。

思わず母さんにかけより、体を支えてあげる。

「母さん、大丈夫だよ。父さんには僕から説明する」

そこまで言うと父さんの顔はより一層険しくなり、

「加南子のことだな」と状況をなんとなく悟ってくれた。

さすが父さん、と褒め称えたいところだが、そんな状況ではない。

母さんをリビングのソファに座らせて、僕と父さんは再び玄関に二人きりになった。

そして、ことのあらましを話した。

話ながら、先ほど触れた母さんは懐かしいような不思議な温かさがあったなと思った。

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