謎の連鎖
有美ちゃんが学食を去ってから、程なくして僕は予定通りタケシの部活風景を見に大学構内にあるグラウンドに向かった。
タケシは野球部で、野球部の練習場は、大学の奥の方にあった。
ホームランは出ないものの、やはり近隣住民の家にボールが飛んだら偉いことになることもあり、僻地に近い場所にあった。
学食からは歩いて五分ほどであるので、冬の朝にある太陽の暖かさを感じながらゆっくりと向かった。
球場には野球部の生徒しかいないようで、もちろん僕のような観客はいなかった。
外野の奥にベンチがあって、ちょうど木の真下にあるので夏には心地よい休憩スポットになっていた。
よくここで本を読みながら部活が終わるタケシを待ってその後町に遊びに行っていた。
ベンチに座り、本でも読もうかなと思ったが、先ほどの有美ちゃんの一件を思いだし、すぐにアイリに話しかけた。
「アイリ情報ありがとう」
「いいえ、会えてよかったわね。元気そうだし、なんかわたし彼女に親近感感じちゃったわ」
「女同士通じ会うものがあるのかな?」
「まぁ、わたしはプログラミング上女性らしい言葉遣いになっているだけだと思うから、本当は男の人かもしれないわよ」
「それならアイリくんとは、ぼくは親友になれそうだ」
「ありがとう」とアイリは笑いながら言って、僕の主旨を察したのか話を本題に持ってきてくれた。
「吉岡有美は奇行癖がある子なの?施設のモニターを見たけれども、あの子慣れた手つきで点滴の針を抜いて、施設をするりと抜けていったわ。」
「いや、多分ストレスがたまってたんだよ。行動力はあるひとなのは確かだけれども」
「アレキの情報はいまだに掴めないわ」
「今回の連続失踪の黒幕がアレキだとすると、きっとまた行動を起こすはすだ。まちまちに拐っていった人質を同じタイミングで解放するのは、意味があることだ。きっと数日中にまた何か動きがある。アイリ、他の5人の情報をまとめて出してくれるかな?ちなみに、出せるだけで良いから失踪した場所とかも分かる?」
「オーケー。ちょっと待ってね」
アイリはそう言うと、アイリと話しているときにいつも画面に点滅する炎をブラックアウトさせた。
10秒ほど待つと、いつもの“AILI”のメールマークが画面に出てきた。
メールマークをタップすると、たくさんの情報が並ぶ。
『被害者1 山崎ゆり子(15) 中学生
11月5日~9日の期間中失踪
部活動終わりに失踪。9日の夕方に自宅に帰宅。怪我等外傷なし。
失踪期間中の記憶なし。
被害者2 堀巻桜(17) 高校生
11月10日~14日の期間中失踪
塾終わり、夜に失踪。14日の夕方に自宅に帰宅。怪我等外傷なし。
失踪期間中の記憶なし。
被害者3 新藤瑞希(11) 小学生
11月15日~19日の期間中失踪
学童終わりの夕方に失踪。19日の夕方に自宅に帰宅。怪我等外傷なし。
失踪期間中の記憶なし。
被害者4 松本優菜(13) 中学生
11月20日~24日の期間中失踪
学校終わりに失踪。24日の夕方に自宅に帰宅。怪我等外傷なし。
失踪期間中の記憶なし。
被害者5 吉岡有美(19) 大学生
11月25日~29日の期間中失踪 学校終わりに失踪。29日の夕方に自宅に帰宅。怪我等外傷なし。
失踪期間中の記憶なし。』
「さくっと、こんなかんじかしら。警察もこの事件を何かしらの事件性があると嗅ぐって追っていたみたいだけど、特に情報を収集することができていないわ。ちなみに、警察の情報がこれなんだもの。」
「アイリにしては情報が少ないな。まぁ、これから聞いたらいろいろ調べてくれるんだろうけど」
「相手は相当なやり手だと思うわ。見て分かるように、失踪の期間はきっちり五日間。規則性があるのは明白よ。しかも月曜日から金曜日にきっちりと」
「犯人はひとりずつでないと、誘拐ができないということか…」
「つまりは、ひとりずつ誘拐することに意味があることをしているということね」
「このデータは警察のものだよね?つまり使用での利用に公的なデータに一般市民が介入したというのでいいのかな」
「あら、ヨージのくせにわたしにいじわるするのね」
アイリの画面に写る炎が少し揺らめいた。
「いや、そういうわけじゃなくて、アイリが危険をおかして情報を探してくれたのが嬉しくて」
「だったら最初からそう言ってよ」
警察は最初は事件性を感じて、操作に着手はした。
しかし、こんな規則的な失踪はただの家出と片付けた。
警察も捜査に頭打ちをしたのか?
それか、何らかの力が加わったか。
警察関係者の手による事件で、報道に関わる一切を経ちきったのでは?
犯人はなぜこの5人を選んだんだ?
しかも年齢は全てバラバラ。
共通しているのは、この町にすんでいること、そして女性であること。
あとは、全員記憶がないこと。
今の世の中で、そんな記憶を五日間だけ消す技術はあるんだろうか?
全員眠りの森の美女のように、寝ていたのか?
沸き立つ疑問にたいしては、ひとつも答えが思い浮かぶはずもなく、時間はもう8時少し手前になっていた。
途中、野球部のキャッチボールを遠くで眺めているとき、タケシが僕に気づいて手を降ってくれた。
同時に白い歯をちらりと見せてくれた。
僕も片手を降って、このあと落ち合おうと口パクをして、メッセージを送った。
「そういえば、アイリがこの前言っていた有美ちゃんの首に何か跡があるっていうのは、他の子にも共通してたりするのかな?」
「まだそこは調べていないわ。直接会いに行くのが早いけど、どうする?住所は簡単に調べられるけど」
「一応、情報の海に潜って当たってほしいな。それでも難しいなら直接当たるよ。市内ならそこまで時間はかからない」
「了解したわ」
アイリがそう言ったあとに、遠くから「ヨージ」と僕を呼ぶ男の人の声がした。
声のする方を見ると、タケシが白い野球のユニフォーム姿で思い鞄を右肩に背負って歩いてきた。
「タケシ、お疲れさま」
と僕は右手を降った。
「アイリ、今日の午後に講義が終わってからでも行けるところは行きたいから、情報が出たら教えて」
「もう揃ってるわよ」
「さすがだな。ありがとう。アイリがいて助かってるよ」
「ありがとう、じゃあタケシくんが来たから、何かあったらメッセージでもよろしくね」
そう言い、アイリは炎のような光を画面から消した。
僕らは再び学食に向かい、午前の中間試験について、カンニングペーパーの作成に精を出した。
タケシは知ってか知らずか、僕と有美ちゃんが今朝ごはんを食べた席に座ろうと言ってきたが、なぜか僕は断っていた。
まずは、試験を突破しないと。
僕らはルーズリーフに向かって、情報を書き続けた。




