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迷宮からの脱出、迷走への突入

昨日はいろいろと思い出されることが多くて、脳が情報処理しきれていないのか、頭がボーッとした感じで朝目が覚めた。

有美ちゃんがいなくなってもう今日で5日目だ。

一般的に誘拐された場合の日数は平均で何日なんだろうと、いなくなった有美ちゃんに対して失礼な疑問が浮かんだことに自分を攻めた。

これが例え一週間であろうが一ヶ月だろうが有美ちゃんが必ず帰還するという保証はどこにもない。

犯人の目的は何なんだろう。

金銭が目的であれば、すぐに身代金を要求してきてもおかしくはない。

金銭が目的ではないとすると、有美ちゃん自身への興味か、犯人の嗜好か何かか。

一連の女子失踪事件の犯人が同一人物であれば、女子に興味を持っていて、何か目的をもって人をさらっている。

監禁して一緒に過ごしたいのか?

有美ちゃんのストーカーか?

それであれば他の被害者がいるのが話が合わない。

いや、ストーキングの対象は必ずしも一人でなくてはいけないことはない。

寧ろ共通の何かがあって、犯人はその共通項から対象の女子を当たった。

ではその共通項とはなんなんだ?

性別以外には見当たらない。

警察も勢力をあげて調査しているとは言え、まだ事件解決のヒントは見つけ出してない。

事件解決のプロである警察が調査をして答えにたどり着けないのであれば、僕みたいな一般人がなにができるんだ。

警察の真似事で有美ちゃんが帰ってくるとは信じがたい。

寧ろ自分の無力さを再認識させられるだけだ。

そんな迷宮入りの考えをぐるぐると何万回巡らせていただけで、気がついたら時間は昼過ぎになっていた。

「ヨージ大丈夫か?」

タケシの声で迷宮から一時脱却した。

「あ、あぁ。ごめん、ちょっと、考え事」

「なんか今日ずっとボーッとしてるよな。大丈夫か?携帯電話治ってお前さては一晩中…」

「心配してるのかからかってるのかどっちなんだよ」

有美ちゃんのことや、いきなりスーパーAIが覚醒した携帯電話のアイリのこととか、考え事が多かったのもあるが、携帯電話を一時再起不能にしたタケシの反省がなさそうな一言に少し神経が撫でられたように感じた。

いつもはそんなことはないが、少し当たってしまった風に言ってしまい、自分に罪悪感を感じた。

「ヨージくん、疲れてるんだよ。でも携帯電話は直ったんだよね?昨日連絡返してくれたし、ね?」

有美ちゃんの友達の子が僕の機嫌の悪さを察して、話に入ってきてくれた。

逆にこの自分にいらいらもしている状況で、回りに気を遣えていなかった自分にますます苛立ちを感じてしまい、逆効果だった。

「う、うん。携帯電話は、なんだかんだあって直ったから大丈夫。昨日はちょっと夜寝付けなくて、大丈夫だよ。ごめん。そんなことより、チラシは何枚作るんだっけ?」

学食のテーブルに着いていたタケシと有美ちゃん友達四人にお詫びの気持ちを込めて言った。

「あ、チラシはね、300枚くらい刷ろうかなって思ってるよ。ひとり50枚を配ると考えてとりあえずの300枚かな。何枚がいいのか分からなくて、それに」

そこまで有美ちゃんの友達の中の背が低い子が言うと言葉に詰まってしまった。

後半は涙を堪えるような言葉の終わり方だった。

「そ、それにね、すぐ有美は帰ってくるから、そんなに要らないと思ってさ」

背が低い子の代わりに背が高い子が話した。

その場の空気は相変わらずどんよりしていた。

誰もが有美ちゃんがいなくなったことで、不安を隠しきれなくなってきているようだった。

誰が悪いのか。

みんなの重力のような存在だったひとがいなくなった。

忽然と、何も残さず、まるで最初からいなかったかのように消えた。

僕たちはいま彼女を探す方向で力を合わせているが、それが本当にあるべき姿なのかも集まった僕たちには分からなかった。

もしかしたら、彼女が望んでいなくなったのかもしれないと、その場にいる誰もが一度は考えてしまっていただろう空気の淀みだった。

もし、彼女が望んで消息を絶ったのであれば、僕たちのいまのこの行動はその彼女の望みを壊す結果になってしまう。

どこかに行きたかった彼女と、どこにも行ってほしくなかった僕たちの利害は全く一致しない。

日本中のどこにでもいる僕たち大学生は、その答えも分からずにただ目の前に浮かんだ行動に乗っているだけだった。


作業はあまり進まなかった。

背が低い子は目を少し赤く腫らしている。

背が高い子は場の雰囲気を読みすぎていて、何も言えなくなってしまっていた。

僕と連絡を取っている背が真ん中くらいの子は、おしゃべりなくらい話をしている。

僕とタケシはなんと言えばいいか分からずに、うんうんと頷くだけだった。

6人がテーブルに座って1時間が経っても、決まっていたのはチラシの枚数だけだった。

背が真ん中くらいの女の子は、チラシに何を書いたらいいのかを「あれはどう?」「これはどう?」と言ってくれたが、人探し初心者の僕たちには、どれがいい答えなのかは全く不明だった。


そこから背が真ん中くらいの女の子が耐えかねて、「一旦休憩にしよっか」と場をいい風に区切ってくれた。

「ジュースでも買ってくるよ。みんななにがいい?」

「あ、俺らでいってくるよ」

タケシが席を立ちながら言った。

体育会系のタケシはこまごまとした神経の使い合いに疲れていたようで、場を離れたそうだった。

「俺も行くよ」

僕もタケシにちゃんと謝ろうと思い、二人きりになるべく席を立った。

「あ、ありがとう。男手は助かるね」

背の高い子が少し顔を緩ませて言った。

「じゃあ、レモンティお願いしていいかな?あのパックのやつ」

「わたしも」

「わたしもそれがいいな」

なんだ女子はレモンティが好きなのかと一瞬疑問を感じたが、みんな気を遣っているのだと瞬時わかった。

「おーけ!ちょっと行ってくるわ。行くぞヨージ。お姫様がお待ちだ」

「はは、分かったよ」

タケシがにかっと白い歯を見せて売店に歩を進めた。

「おっけー、タケシ待って財布出すから」

そう言って僕がリュックをがさごそしていると、携帯電話のバイブレーションが聞こえた。

僕かなと思ったが、それはテーブルの上で振動していた。

それは、背が真ん中くらいの女の子の携帯電話だった。

「あ、電話だ」

彼女はそう言い、携帯電話を手にとって画面を見た。

「あ…」

誰かからの着信かを確認すると、彼女の目が一瞬曇ったように見えた。

「出ないの?間違い電話?知らない番号?」

「う、ううん、あのね」

その電話はいま僕らが心を痛めているひとにかかわっていた。

「…有美のお父さん」

その場の誰もが息を飲んだ。

なんだ、こんな夕方に。

有美のお父さんは働いていなかったか?いや、働いているはずだ。

初めてであったあの坂のあとで仕事をしてると言っていた。

それはもう約一年前の情報ではあるが。

「出るね」

彼女は恐る恐ると言ったふうに、画面のボタンを押して、耳にスピーカーを当てた。

両手で持つその携帯電話は、彼女の心境を表しているようだった。

「…もしもし。山岡です」

電話口の声は聞こえないが、聞こうとしてみんなしんと静まり返る。

「大丈夫です。いまみんなで学食でチラシを作っていたんです」

その場にいる誰もが最悪の結末を告げられることを少なからず覚悟をしていた。

僕とタケシは席を立ったあと身動きができず、微妙な位置で立ち尽くしていた。

「…はい。…はい。え?ほんとですか?え、それって本当なんですか?」

何が本当なんだ?

電話越しの話が気になる。

でも電話が終わってしまうと、すべてが終わってしまうような気がして、電話が永遠になればいいとも思ってしまう。

「…はい。分かりました。みんなにも、伝えておきます。ありがとうございます。また、連絡待ってます。失礼します」

時間にしては正味一分ほどだったが、一時間にも思えるような時間の重さだった。

彼女はふぅと一息吐いてから、携帯電話の画面をオフにして、胸に携帯電話を当てた。

そしてその携帯電話をぎゅっと握ったかと思うと、今度は小さく体を丸め、小刻みにその中くらいの背丈の体を振るわせ始めた。

なんだなんだとみんなは一気に不安に教われた。

「…有美のお父さん、なんだって…?」

誰もが頭のなかで思っていた言葉を背が高い女の子が代弁した。

「…有美ね…」

彼女はもう鼻をぐずぐずと泣き出していた。

鼻声混じりの声で続けた。

「いま電話があって…」

彼女は目から溢れる涙を両手の甲で拭いながら言った。

そして、顔を上げると頬を紅潮させて、興奮しながら早口でこう言った。

「…有美ね、帰ってきたんだって…!いまさっき自宅に帰ってきて、警察に保護されてるみたい…!…よかった!よかった!よかった…!」

彼女はそう言い切ると、緊張が一気に解けたようで、わーっとさらに泣き出した。

それに連れて、女子たちも全員泣き出した。

よかった、よかったと手を繋ぎながら喜びを分かち合っている。

「…ほんとによかった」

僕も安堵で言葉が自然に口から溢れた。

「よかったな、ヨージお前の強運のおかげだ」

タケシはそう言って僕の肩に手を回して喜びを分かち合った。

「さ、涙が出ると喉が乾くから、飲み食い階に行くぞ」

「そうだな」

喜びで興奮する彼女たちを一瞥してから購買に向かった。

本当に良かった。


だが、本当の事件はここからが始まりだった。


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