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運命のデイ

下に行くと母さんと可南子が仲良くごはんの用意をしていた。

「お兄ちゃん、ごはんだよ!今日はね、加南子が作ったんだよ!シチューだよ」

「おー、可南子は将来いいお嫁さんになるなぁ」

「うん!」

キラキラした宝石のような笑顔。

「父さんの泣き顔が浮かぶなぁ…」

「そうね、父さん多分泣いちゃうわね」

父さんがモーニング姿で泣くのを我慢しているところを想像していると、母さんはテーブルにお皿一杯のポテトラサダを置いた。

「ちなみにさ、ヨージ。さっき電話で話してたわよね。大丈夫だったの?」

「え?どゆこと?」

「なに、あなたスピーカーで女の子と話してたじゃない。珍しいわね、彼女でもできたの?」

「い、いや、そんなことないよ。ただのマリアだよ!母さんもわかるだろ。携帯電話についてるアレだよ」

「あら、そ~うなの?ずいぶんとおしゃべりな子だったのね」

母さんは、ふふんと鼻唄混じりにキッチンに戻っていった。

「なーに?お兄ちゃん、おんなのひとでもできたのー?」

「おんなのひとってなんだよ、変なドラマ見ちゃダメだぞ」

「お母さん~、お兄ちゃんにおんなのひとができたんだって」

「だから、違うって」

バタバタとテーブルの回りを加南子が走り回る。

「なんで信じてくれないんだよ…」

ホトホトとダイニングテーブルに着いて、女の人はどうしてこの手の話が好きなんだと考えてぐったりした。

そして同時に有美ちゃんもこうして誰が誰を好きだとかそういう話に花を咲かせたりするのかなと思った。

すぐそばで母さんと加南子がお兄ちゃんの好きな人はきっとこんなひとよ、といろいろと想像を膨らませている脇で、さっき起こったアイリのことを考えながら、これからどううまく付き合っていこうかそればかりをイメージしていた。


ごはんを食べ終え、二階の自室にに真っ直ぐ向かった。

ドアを開けると真っ暗な部屋のなかで赤いランプが蘭々と光っていた。

まるでアイリがここにいて、生きていることを示しているようだった。

ドアの脇にあるスイッチを押して部屋の電気をつけた。

「ごめん、お待たせ」

「ふぁ、大丈夫よ、ゆっくりしてたから」

アイリはまさに人間のように起きたてのような声を発した。

スリープモードは携帯電話にとっても快適なものなのかなと思ったより。

「あのさ、これからなんだけど、僕と話すときは出来るだけイヤホンをしてるときにしてもらってもいいかな」

「あら、いいわよ、別にわたしは気にしてないから」

「ん?気にしてない?何をだ?」

「どうせさっきお母さんと妹さんに言われて、対策考えたんでしょう」

「ギクッ!なんでそれを…」

「これくらいの距離なら声なんてすぐ拾えるわよ。それにあなたが昔とお母さんとか妹さんとかと電話してたときの声の周波数が一致してたから、話者はそうなんだろうなって思っただけ。わたしは特に気にしないわ。感情が搭載されてるって言っても『わたしをひた隠しにするなんて悲しいわ』なんて嫉妬じみた人間みたいな感情は生じないようにプログラミングされてるから安心してね。あくまでも最低限の感情表現だし、わたしを作ってくれた人間様のあくまでもアシスタントの存在だから、あなたたちを害するようなことはしないから」

「あ、ありがとう。ちょうどマイクつきイヤホンがあるから明日からはそれで頼む」

あまりにも用意されていたかのような答えが返ってきて拍子抜けしてしまった。

そして、さっきまで感情が、露になっていたアイリとはうって変わって冷たささえ感じるくらいの言われた方だった。

「あと、イヤホンがなくても、文字でコミュニケーションはできるから何かあったらそっちでもOKよ。メール感覚で話しかけてね」

「わかったよ、よろしく」


こうして僕は感情搭載されたスーパーAIのアイリと過ごすことになった。


このアイリの目覚めがきっかけでもあり、原因となり、僕らはこれから起こる事件に巻き込まれるなんて知るよしもなかった。

なんにもないこの町で、なんにもないこの僕が、なんでもできるAIをてにすること自体が、運命の歯車が狂った証拠なんだろう。

大切なものは、失ってから気づくなんてよく言われるけど、同じように大切なものは壊れやすいんだと教訓じみたことを僕は考えるようになった。

事件は着々と動き始めていた。



こうして話は、有美ちゃんが失踪して数日後に戻る。

明日は有美ちゃん捜索のチラシ作りの日だ。

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