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埃の光

明くる朝、僕はそのまま携帯電話を握りしめたまま寝ていた。

昨日あのまま寝落ちしたらしい。

目が覚めて、壁にかかっている時計を見ると6時30分すぎだった。

外はもう白んでいて、カーテンの隙間から光がこぼれていた。

その日かりを受けて、部屋の埃がキラキラと雪のように待っていた。

埃だが、すごくきれいだなと思った。

せっかく早起きしたので、リビングでゆっくりコーヒーでも飲みながら朝の講義に行こうと思った。

僕は携帯電話をポケットに入れ、下の階に向かった。


「あら、よーじおはよう。今日は早いのね」

「たまたま起きただけだよ」

「そう、朝ごはん今日くらいはゆっくり食べていきなさいね」

「うん、そうする」

テーブルには、焼きたての魚と炊きたてのごはんがおいしそうに湯気を立てていた。

モーニングコーヒーかなとさっきは思ったが、ごはんご和食なら緑茶だと思い、冷蔵庫から水出しされた緑茶パックを取りだし適当なコップに入れて飲んだ。

「可南子ももうすぐ起きてくるから、お父さんと一緒に食べちゃいなさい」

「うん、そうする」


手に緑茶が入ったコップを持ってテーブルに着く。

テーブルから朝のニュースが放送されるのが見える。

内容は、どこかの芸能人が結婚したとか、東京でパンダが生まれたとか、僕にとっては縁遠い話だった。

ぼんやり頬杖をつきながらお茶を飲んでると次のニュースに切り替わった。

キャスターはびりしと紺色のスーツを着た男性だった、

ニュースの内容


は海外で女性の失踪が相次いでいるというものだった。

女性たちはある日突然姿をくらますものの、どの女性も一週間以内には帰ってきていると言う。

いままで15人の女性が行方不明リストに、あがった。

どの女性も無事で、病院での精密検査でも問題はなかったらしい。

ただひとつ、共通点があるとすると、彼女たちは失踪していたときの記憶を何一つ持ち合わせていないとのことだ。

誰もが浦島太郎状態で突然家に帰ってきて、「お母さん、ただいま。お腹すいた」と言った風だ。

調査機関は宇宙人や新種のテロの可能性を視野に入れて操作を進めると発表している。

ここまで見たところでお父さんが一階の寝室からスーツケース姿で現れた。

ニュースキャスターよりもキャスターらしい知的な印象を与える紺色に薄くストライプが入った上下セットのスーツだった。

「お、ヨージ、今日は早いじゃないか」

「父さんおはよう。たまたま起きただけだよ」

「今日は雪が降りそうだなぁ。はは。」

「本当に降ったらもう二度と早起きは辞めるよ」

父さんはそう言うと僕のとなりの椅子に腰掛け、背筋をピンと伸ばしいただきますをしてごはんを食べ始めた。

僕もいただきますをして湯気がたつ味噌汁を飲んだ。

しばらくすると可南子も眠い目を擦りながら起きてきた。

お母さんが可南子を椅子に座らせると、髪を結い始めた。

可南子はお母さんにいろいろとリクエストをしているようで、お母さんはその要望に応えれるようがんばって編んでいた。

絵に書いたような家族はあるんだなと思った。

何気ないこの景色が何よりもかけがえがないとも思った。

それは、父さんが外で一生懸命働き、母さんが一生懸命家を守り、加奈子が一生懸命成長しようとしているベクトルの現れだと感じた。

ずっと、この平穏が続くといいと、切に願いなから、最後の味噌汁を飲み干した。


いつもより少し早く大学に向かった。

いつもより少しゆっくりと景色を見ながら歩いた。

普段は時間に遅れないように真っ直ぐとしか視線が動かないが、よく見るとこの町は本当いろいろな建物があり、人がいて、刺激的な町だと感じた。

坂に差し掛かったところで、有美ちゃんと初めて会った日のことを思い出した。

いまは、11月後半。

有美ちゃんと出会ってから、学食で一緒にごはんを食べ、僕が恋に落ちてから約9ヶ月が経つ。

特になにも進展はないが、僕はたまに構内で見かける彼女の笑顔や元気そうな姿を見るだけで、心が癒される。

いまだに彼氏がいると言う話は聞いたことはないが、いてもいなくても僕はもう彼女の幸せを遠くから願うだけだ。

彼女の笑顔を思い出したら、携帯電話に唯一一枚ある彼女の写真の存在に気がついた。

タケシが僕の携帯電話で勝手に撮ったものだ。

携帯電話を買い直したと伝えると「ちょっと見せて」と僕の携帯電話を手に取り、「知らないメーカーだな。よく買ったな。緑色のボディは色気があってきれいだけど」と言うやいなや教室の後ろから有美ちゃんを撮影したのだ。

カメラはなぜかシャッター音が鳴らなくて、教室の人から注目を受けることはなかった。

「なんだ、盗撮用の携帯か。探偵の世界では有名な携帯かなにかなのか」と言い、有美ちゃんの後ろ斜め45度の角度で移った写真が入った携帯を返した。

「おい、なにやってるんだよ、盗撮だぞ」と僕が言うと、「あとは好きにしろよ」とにやにやしながらタケシは言った。

その写真は、申し訳なくて、いまだに消せずに残っている。

残っていることにも、申し訳なさを感じるも、消すのはもったいない気もして、手をつけれていない。

たまに、家で、こっそりと見てはいるが。

いまの距離感でいいのだ。

いまの僕に誰かを幸せにできる力なんて持ってない。

お金もないし、ルックスもよくないし、身長も高くない。超能力なんて持ってないし、誰かを楽しませる趣味もない。

もう少し大人になったら、誰かを幸せにできる自信がついたら、そのとき考えればい。


学校に着くと、タケシがいつものように僕の席を取っておいてくれた。

「おはよう」

「ああ、おはよう」

「なんだ、今日は余裕な顔して登校か」

「たまたま早く起きただけだよ」

「そういえば、ヨージの携帯画質良いよな。ちょっと貸してくれない?」

「なんで画質いいって分かるんだよ」

「この間吉岡さんの写真撮ったときに、高画質ダナーって気づいたんだよ」

「なるほどね。いいけど、怪しいサイトは見るなよ」

「オーケー。ちなみに、通信は大丈夫なんだっけ?」

「うん、パケット放題だからね」

「ラッキー!ありがとよ!ちょっと借りるわ」

そう言って僕はタケシに携帯電話を貸した。

「ちょっと授業始まるまで時間あるからトイレ行くわ」

「オーケー。それまでに携帯電話返すわ」

「りょ」

僕は椅子にリュックを置いてトイレに行った。


用を終えて教室に入る。

授業が間もなく始まるので、教室は人が増えていた。

100人ほど入る講義室には7割りくらいのひとで溢れていた。

僕らの急きは下から見上げて左奥の一番後ろだった。

前、真ん中、後ろの三ブロックに別れた教室の両脇にある階段を登り、自席に向かう。

「携帯電話どんな感じよ?」

「ああ、最高だぜ。俺もこの携帯電話欲しいなあ」

見るとなんとタケシは裸の女の人か写る動画をにんまりと見ていた。

「おい、友達の携帯電話で何してるんだよ」

「いーじゃんか、別に。減るもんでもないだろ。しかもお前も男だから判るだろうが」

否定はできなかった。

「授業始まるし、やめろよ。しかも無音で見て楽しいのかよ」

「お、ヨージくんは、音が必要なタイプなんですね」

「うるせーよ。ほら、先生きたぞ」

先生が教室に入ってきて、教室が更にざわめいた。

「お昼時間にまた貸してくれ。この携帯電話の画質に惚れたぜ。女をより女らしく見せてくれる気がする。それに、マリアのちょっと拗ねた声もたまねえな」

「貸さねえよ。自分の携帯電話があるだろうが」

「俺のはいま速度制限かかってるから、困ってるんだよ」

「ならフリーWi-Fiあるところ探してやるよ」

「そういう問題じゃないんだ。画質の問題なんだよ。そういえば、動画見るとすげー熱くなるんだよな。あれは何とかなんないんかな」

「んー、確かに。まぁ、どこのメーカーなのかも、いつ作られたのかも謎だからそこは我慢するしかないな」

そう言って、タケシが携帯電話を返してくれた。

すると、さっきまで待受画面が写っていた画面からすぅーっと光が消えていった。

(電池不足か?いや、朝は満タンだった。フリーズか?)

「おい、タケシ、お前なんかしたろ」

「いや、俺はただ動画見てただけだぞ」

「その動画に何かウイルスでもあったんじゃないのか」

「ブラウザでしか見てないぞ。まぁ、携帯電話が熱持ってたし、覚めればそのうち使えるようになるって」

そうして、授業が始まる鐘が鳴って、僕はしぶしぶ黒板に向き直った。

授業の途中で携帯電話の熱が覚めたので、何度か電源を入れ直した。

だが、携帯電話は沈黙を破ったままだった。

僕はあの駅前での爆発事故でも同じようなことが起こったなと思い出しつつも、早く復旧してくれと切に願い、何度も電源オンオフをしたのだった。

結果は、何も起こらなかったが。


「おい、タケシほんとにどうしてくれんだよ」

昼の学食でぼくが泣きそうな声でタケシに言った。

「まだ、買って一週間しか経ってないんだぞ。なけなしのバイト代だったのに」

「わりいわりい。帰りにケータイショップ着いていってやるよ、あと駅前のドーナツおごるからよ」

「この携帯電話は正規ショップで買ってないから、どこも胡瓜を受け付けてくれないんだよ。はぁ。まぁ、今日は様子見るけど、明日まで電源入らなかったら、何か知恵貸してくれよ」

「あったりめーよ!」

「有美ちゃん捜索で友達に連絡もとれないし、、、まぁ今日は持って帰ってパソコンで探してみるよ」

タケシはそう言うと胸にこぶしをドンと着けて胸を張った。

野球で鍛えた逞しい腕が僕と違いかっこいいなと思った。


結果として、携帯電話はその日の晩に復活したのだ。

そこで僕は、正式にアイリを認識し、出会うこととなる。


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