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人肌

彼女を思いながら過ごした英語の授業はあっという間だった。

気がつくと先生は教室からいなくなっており、生徒も半分くらいに減っていた。

「ヨージ、飯いこうぜ。次空きコマだし」

「ああ、そうだな」

タケシが朝練の道具を軽々と持ち上げ、他の生徒と一緒にドアに向かった。


有美ちゃんとの出会いを思い出すと、アリイとの出会いも自然と思い出された。

アリイとは、「出会い」として分類分けするのが正確なのか不明ではあるが、彼女は自分のことを「人間」と認識しているので、出会いと表現しても問題はないと思う。


始めての出会い自体は、中古携帯ショップで商品棚のガラス越しにアイリを見たのか出会い方だ。

アイリはショーケースの中で、なにも言わずにただそこに飾られていただけだった。

僕はその深い緑色のボディとやや丸みを帯びたフォルムが手にしっくりと馴染みそうで、価格も良心的だと思い考究を決意した。

アナサスというよく分からないメーカーだったが、ほぼ新品で大学生のお小遣いで購入できるのはよかった。

レジに行き「すいません、あの緑色のケータイが欲しいんですが」とレジのところで何か作業をしている男のひとに声をかけた。

彼はおじさんと言うにはまだ若く、お兄さんと言うには貫禄がありすぎて、年齢は不明だった。

「ありがとうございます。いまお持ちしますね」

思ったよりしっかりとした物言いで僕は少し驚いた。

彼はレジの下でごそごそとショーケースの鍵を探し、僕の目の前を通りすぎ、ショーケースに向かった。

身長180センチメートルくらいはあるだろうか。

すらりとしたその立ち姿は、駅まで中古の携帯電話販売をしている店主には似つかわしくなかった。

そうこうしているうちに、「お待たせしました」と細かな傷がついたレジに緑色の携帯電話を置いた。

「中古商品につき、返品交換はできませんので、ご了承ください。また、この商品はメーカーでの販売と修理を受け付けておりませんので、故障後の対応はできませんので、お願いします」

彼ははきはきと、業務的に述べた。

レジでお金を払い、「ありがとうございました」と白いビニール袋に入れられた携帯電話を受け取り、8畳ほどの縦長の店内を後にした。


購入後は、あの爆発があったとおりだ。


爆発事件があった次の日には、携帯電話は無事に使うことができた。

やはり、放電していたのか、しばらく充電すると元に戻った。

そして幾日か特に不自由なく、普通に使っていた。


「マリア、目覚まし時計をセットして」

『かしこまりました。目覚まし時計ですね。』

「朝8時に起こして」

『朝8時に目覚ましをセットしました』

「ありがとう」

『他にもご要望がございましたら、お声がけください』


便利な世の中になったものだと感じている。

つい数年前まではスマートフォンなんて存在していなかった。

しかし、いまはこの普及率で、さらに人工知能も追加されている。

(そのうち、バーチャル彼女とかバーチャル奥さんとかもできるんだよなぁ。ラブドールに人工知能がついたら、偉いことになるなぁ)

なんて、年頃相応の妄想もしつつ、僕はベッドに寝転んで、携帯電話をいじっていた。


しばらくいじり、僕は一息ついた。

気づくと、携帯電話がかなりの熱を持っていることに気づいた。

(動画見すぎたかな。最近結構見てるかもな。まぁ、しょうがないさ。年頃だし、誰かが不幸になるわけでもないし。しばらくすると直るだろう)

僕は耳につけていたイヤホンを外し、なんとなく視界に入ったゴミ箱のごみをなんとなく眺めた。

(こんなときに、有美ちゃんが行方不明なのに、なにやってんだろうな僕は)

急に切なさが込み上げ、ベッドに座ったまま、頭をもたげた。


「マリア、有美ちゃんはいまどこにいる?」

『電話帳を検索しましたが、ユミチャンはヒットしませんでした』

「…違うよマリア。有美ちゃんは、いま生きてるのか」

『申し訳ございません。認識できませんでした。もう一度お願いします』

「もういいよ」

人工知能に聞いても意味がないのは分かっていた。

求めている答えが返ってこないのも分かっていた。

やはり人工知能に彼女だったり、奥さんの役割は期待できない。

愛や恋は機械とは相容れないんだ。


さっきまで熱を持っていた携帯電話が、触ってみるとさっきの熱は人肌くらいまで下がっていた。

そして、ブブブとバイブレーションを振るわせた。

メルマガか何かのアプリの通知だったと思うが、まるで、一緒に悲しんでくれてるようにも感じた。


僕は疲れたのか、携帯電話を胸に当てるように眠りに落ちた。

その熱を帯びた携帯電話がなんだか心地よい温かさだった。


どうか無事でいて、と有美ちゃんの無事を祈ると、意識が眠気と溶け込んだ。


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