世界の片隅で
埃と湿気が混じりあった、かび臭い匂いが充満する。
一人暮らしのよくたるワンルームくらいの広さの部屋の中には、ところ狭しと段ボールやよく分からない機械の塊が煩雑に積み重なっている。
段ボールは角も蓋もぼろぼろで、黒く薄汚れている。
その段ボールの隙間から見え隠れする機械のような固まりも同じように薄汚れ、指で拭き取れるくらいの埃がのっこりと乗っている。
一応部屋として窓はあるが、反射シャッターが固く閉められていて、外の光を一切入れたくないようなそんな雰囲気を出していた。
時計も生活感が感じられるものが何一つないこの部屋は、時間がぱったりと止まり、まるで最初から時間なんていう概念は存在していないかのような佇まいさえ見せていた。
あるのは、埃と暗闇だけだった。
その混沌とした真っ暗の部屋のなかに、ただひとつだけ、青白い光がぼんやりと浮かんでいた。
よく見るとそれはパソコンの画面から放たれる青白い光だ。
デスクトップ型のパソコンの光だけがこの沈黙した部屋を唯一照らしている。
画面にはよくわからない文字列が永遠に続く行列のように理路整然と並んでいる。
部屋の中は相変わらず静けさで包まれていた。
一点、機械がなにかを読み込む音と、なにかの微かな呼吸と思われる規則的な音を除いては。
ワンルームの入り口からは、パソコンの光で反射し、そのパソコンの高さが邪魔をしてはっきりと見えないが、よくよく目を凝らすと、デスクトップパソコンのちょうど真後ろに奥行きが感じられるぽっかりと空いた空間があった。
その空間にあるものには、デスクトップパソコンや様々な機械から無数のプラグが差し込まれ、繋がっているのが分かる。
一瞬だけ、外から光がシャッターの壁を潜り抜けて、沈黙した室内に侵入してきた。
おそらく近くを通った車のライトだろう。
光が入ったかと思うと、すぐにまた暗さが充満した。
その一瞬の光を頼りに、部屋の中をよく見てみると、無数のプラグが繋がれているのは、どうやら人の形をしたもののようだった。
女か男かも分からないが、体つきはまだ未発達の若者のようだった。
マネキンのようにも感じられたその頭部とおもしき箇所からは艷めいた真っ黒の長い髪がたわわに持ち主の背中に横たわっていた。
再び、たまたま通りがかった車のライトのようは光がシャッターの隙間を抜けて、部屋に飛び込んできた。
今度は角度がある光だった。
その光を照らしたのは、豊かな髪の毛を持つ、持ち主の顔だった。
一瞬の光でも分かるその端麗な顔は、少女のものだった。
マネキンのような、作り物のように整った感じもするが、本物のひとのように血の気はあるが陶器のようなきめ細かい肌には、思わずため息が出そうだ。
つまり整ったのその顔は、美人だ。
長いまつげが流れ星のように光っていた。
唇はほんの少し空いており、ほんのりと桜色を覗かせている。
彼女がまだ作り物のマネキンになってはいないことを示している。
横たわる彼女の手には携帯電話がしっかりと両手で握られていた。
しかし、彼女が起きる雰囲気はまるでない。
携帯電話は、握られるばかりで、その用途はしばらく全うできそうになさそうだった。
しかし、まるで眠りの森のお姫様のように思うひともいるくらい、次の瞬間目覚めそうな雰囲気も醸し出していた。
彼女が着ている淡い水色のワンピースがドレスのようにベッドの上に大きく広がり、パソコンの換気口から出る熱気が、そのスカートの裾をヒラヒラと揺らしていた。
埃だらけのデスクトップパソコンが何かを読み込むキリキリとした音を上げる。
それを読み込むかのようにハードディスクもコリコリと音を立てた。
その後プシューとした音が、空気と共に音が彼女とパソコンをつなぐプラグから漏れる。
手あかでまみれたパソコンの画面には、『completed』の文字が浮かんだ。
彼女の首には金属のプラグが違和感を隠せないほどにぴったりと差し込まれていた。
埃で溢れたこの部屋は、まだ静さで満ちている。




