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魂のコンバート

「死体なんて、いったいどこから?それに、父さんのって…」

聞きなれないネガティブなワードが胸のなかに渦巻いて、どうしても悪いことしか想像できなくなる。

それに、俺の父さんの死体?

一体なんだっていうんだ。

「ヨージ、安心して。これはある意味では一番信頼できる彼らの新しい器なの」

ごくり、と唾を飲んだ。

つもりだったが、僕には肉体どころか喉がないので、唾なんて飲み込めるはずがなかった。

でも、僕はそうした“人間らしいアクション”を取っていた。

「教えてくれ、アイリ。でも時間がないんだろう」

「えぇ、そう。一刻を争うの。話は終わってからでもいいかな。時間は、幸いにもいっぱいあるから」

「分かった」と返事をして、柔らかいベージュに光輝くアイリについていった。


加速をしてお互いに着地したのは、先程の真っ白な世界とは異なる灰色の世界だった。

一面見渡す限りの灰色。

曇りの日が地面にも侵食して、いるだけでどんよりとする雰囲気だった。

ただ、さらに奥を見ると、真っ暗な世界があることがわかった。

黒の世界に向かって徐々にグラデーションを深めていくその様、そして後ろを振り替えると元いた白の世界が広がっていて、灰色の世界から白の世界へまたグラデーションが続いていた。

絵の具のパレットのような、あまりにもシンプルすぎる世界だった。

僕はこのあと何百年と生きるこの世界に数少ない色以外のものがないことを知り、先々に不安を覚えた。

しかし、いまは自分の未来を嘆く暇はない。

二人を助け出さなければ。

「アイリ、僕は何をすればいい?」

「ヨージは、空っぽの体の中に魂が新しく受け入れられるイメージをして、それをエネルギーに変えてほしいの」

「そんなのやったことないし、そう簡単に行ってもできるかわからないよ」

アイリがあまりにも容易く言うから一瞬できそうな気がしたが、よくよく考えるとそんなこと僕ができるのだろうか。

「ヨージ、大丈夫、わたしを信じて。ヨージ自身は分からないかもしれないけれど、あなたには凄まじい力があるみたい。私にはわかる。そばにいて、すごく大きな熱を感じるの。その力のお陰で、あなたはサルヴェ・レジーナを一瞬で飲みんだ。あっけないくらいにね。だから、大丈夫、想像して、祈って。二人が人間のからだを持って、地上で幸せに生きている姿を」

アイリに励まされたものの、そんなことができるかと半信半疑だった。

サルヴェ・レジーナを消し去ったのは確かにそうだが、それは僕の力ではなく、もともと長年生きていた彼自身の力が弱まっていたのではいか。

もし、失敗したらどうなってしまうのか。

一生二人の魂はこの、人でもなくサーバーでもない中途半端な世界で漂うのではないか。

一刻を争う中で僕の心は揺らいでいた。

すると、ふっと体に熱を感じた。

我に返って自身をよく見ると、僕の光の回りにアイリの光が僕を包んでいた。

僕の青白い光にアイリの柔らかいベージュとピンクの光が重なり、絶妙な色合いで光始めた。

温かいその光は、僕のからだの回りを何周かした。

「ヨージ、あなたならできるわ。わたしが約束する。二人を救おう」

人間で言うのであれば、ハグをしたのだろうか。

その温かさは、僕のからだの全身に行き渡り、ふつふつと自信がわいてきた。

「よし、やるよ。アイリ、二人を助けよう」


僕はイメージをした。

強く、はっきりと、具体的に二人が助かるイメージを描いた。

アイリが僕に力をくれたお陰で、イメージは明確に邪念なくすることができた。

有美ちゃん、あの健気な瞳と長い黒髪。

お姉さんとお父さんとまた三人での平和な暮らし。

きっと人間の世界に戻っても、人気者の有美ちゃんはたくさんの男のひとに告白されるだろう。

そしていずれは誰かと一緒に家庭を持つのだ。

大学卒業後は、お姉さんとともにアナウンサーにでもなるのだろうか。

いや、彼女のポテンシャルであれば、アナウンサーももったいないかもしれない。

きっと世界を舞台に活躍するはずだ。

僕はあなたの幸せを祈っている、ずっと、ここで。

荒木さん、あなたの復讐は僕が成し遂げた。

もしもサルヴェ・レジーナ以外に残党がいても僕がこれから始末できる。

ネットワークに介在するすべてのものであれば、僕の力で及ばないものはない。

仮に残党たちが交換日記や手紙でやりとをするのであれば、僕の力ではなんともできないが、そのあたりであれば荒木さんの方でなんとかできるだろう。

大切な青春時代を、犯人への復讐で費やした分、これからは自分の時間を生きてください。

荒木さんも僕と違って美形の顔立ちだ。

天涯孤独は、世の中の女性が黙っていないだろう。

もしかしたら、モデルにでもなってもおかしくない。

有美ちゃんとも、有美ちゃんのお姉さんともどうか仲良く。

幸せに、生きてください。

そう心の中で強く願うと、僕の体の一部がぷつりと光だけが離れた。

その光は弧を描いて天高く昇っていった。

そしてある程度までいくと、光は残光を残して完全に見えなくなった。

あの光はなんだったのだろうと疑問がっていると、光が消えた先から花火のような色鮮やかな光線が降ってきた。

思わず瞼を閉じる仕草をしたが、その光はほんとうにただの光で、危害はなかった。

僕のからだの中をすーっと通りすぎていく。

雨のように降り注ぐその美しい光を僕は眺めていた。


光の雨が弱くなるとアイリがふっと現れた。

イメージに集中をしていて、いつアイリがいなくなったのかも気づかないでいた。

「ヨージ、ありがとう。成功したわ。二人は間もなく目を覚ます。魂が器に慣れるまで、しばらく時間はかかるけれど、きっと大丈夫」

「よかった…」

全身の力が抜ける。

ほんとうに良かった。

僕は、よくやく自分の大切なひとの大切な人を守れたのだ。

「ヨージが産み出してくれたあの光は、二人を器にいれるときに必要なエネルギーだったの。二人はもともと適合者でもなく、普通の人間であったから、そもそもエネルギーなんて生成できない。でも、人間に戻るにはその魂を人間盤にコンバートするエネルギーがいる。

ちなみに、コンバートしたときのエネルギーの残骸があの光の雨よ。

そのエネルギー生成は、誰でもできることじゃない。わたしですら、適合者であっても難しい。そこで、ヨージにかけることにしたの。もともとサルヴェ・レジーナの世界だったここを飲み込んで、自分のものにできたくらいあなたの力は強靭。この世界の神に匹敵する力があるなら、エネルギーを産み出すことなて容易いとわたしは予想した」

「僕に、そんな力が」

「そう。お母さんは、そのことを早々に判っていた。だから、あなたがサイバー世界に入ることを防がなければなからなかったの。あなたがもし組織の思い通りにアダムになったとしたら、きっと全世界はサイバーテロを迎え、MAIRAが世界を牛耳る日が来ていたかもしれない」

「そんな…」

いまでも僕にそんな力があるなんて信じられなかった。

「いまでも、あなたがその気になれば、全世界を乗っとることができるんだけどね」

えへへ、とアイリは笑い混じりに言ったがそんなこと、許されるわけない。

「そんなこと、絶対にしないよ」

僕は焦って返答する。

「分かってるわよ。ヨージがそんなことしないってわかってるから言ったのよ」

なるほど、アイリは僕のことをよくわかっていてくれている。

さすが僕のそばにずっといてくれただけあった。

そういえば、と二人の状況が気になった。

「二人はいまどうなっている?」

そうね、とアイリは一呼吸おいてから話始めた。

「有美はいま19歳だけど、わたしの18歳のときの体を渡したわ。きっとそんなに遜色はないと思う。ただ一歳若返っただけだから。ただ、しばらく動かしていないから、筋肉や間接が硬直していて動かしにくいところがあるけれど、それは彼女の持ち前の運動神経でカバーできるはず」

アイリの体を持った有美ちゃん。

双子だからきっと顔立ちも問題ないだろう。

興味本意だが、見てみたい気もした。

こうしてすべてがうまくいったいまなら、なんでも欲を言っても許されるだろう。

そして、僕は気になっていたことについて言及した。

「荒木さんの器…僕の…父さんについて聞いてもいいかな」

僕の父さん。

19年間、知らされなかった事実。

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