第三章 capter-3 「回天」
ほんの僅か前、順とアロンソの試合中。校舎の中で一つの出会いがあった。
「……で、僕を見付けたってわけか。……エージェントシラヌイ、いや正治、か。他方面の同胞を撃破したとかいう君が此処まで来るとは、思いもしなかったがね」
「あぁ、僕もまさか朝霞に出張に来て君と対峙する事になるなんては、思ってもみなかったよ」
朝霞の校舎の地下の一室で、ベッドに座り込んでいる青髪の異界の人間……フランベルグと相対するのは山高帽を被ったスウツの少年。
背はあまり高くないが、重力にも逆らいそうな大きなコートをさらに着ている。
「妖術士の君が朝霞にくるというのはそもそも異例のことでもあるからね。よくよくこの学校の警備を突破したものだ」
感心した表情で、フランベルグが溜息を吐く。
「この程度の警備は警備ともいえない。それよりも、こちらの身内に手を出したのが運のツキだ。……連れ去った子供達は、何処にいる?」
フランベルグは少年に問い詰められるが、その表情はびくともしない。
「答えろ。その言葉如何によってはエージェントの名において貴様を滅する」
「成程、君たちの『カカサマ』が僕達の邪魔を仕組んでるのか」
彼らは意味深な、問答をする。
「邪魔をしているのはお前だ、人の知人を連れ去っているのはお前達だろう」
「僕は直接手を下してないさ。ヴェリエントだよ、やっているのは」
「ヴェリエント……。俗にいう組織犯罪集団、この国に元々あったものか」
「あぁ、彼らは自分の金になると思ったことには素直に働いてくれるよ。アンダーボスもいい人だったしね」
「金のためなら何でも捨てる奴か。男の風上にも置けない。……で、何処にいるのだ?子供達は」
エージェントシラヌイと呼ばれた少年は、フランベルグに対して威圧的な目付きをする。
「魔力供給炉に、繋いでいるさ。無論、君の妹もね」
するとフランベルグは、口元をニィッと開いて、そう言った。
《滅べ!》
言葉が終わるや否や、山高帽の少年は目を見開き、コートの下から取り出した拳銃でフランベルグの頭蓋を瞬時に打ち抜く。
……だが、効くはずもない。
「っ!」
「僕にそんなものは効かないよ。その銃はサイレンサーを付けてある事もあって、初速と威力が足りない」
フランベルグは笑うと、ゆっくりと立ち上がりエージェント・シラヌイに歩み寄る。
額の傷は、もうすぐに修復されていた。
「貴様!」
「……今は君を殺す気はないよ。此処じゃ君の本領も発揮できないしね、それじゃつまらないだろ?」
「……何?」
「君の妹は返すよ。僕のベッドの下にテレポート版がある。そこに乗れば隠し場所まで着ける」
「……貴様の目的は何だ」
「差し当たりはこの辺の子供の魔力を吸い上げて、とあるものを動かそうとしていただけかな。そろそろこっちも準備できたし、子供たちは生きてるから返してあげるよ。本当なら全員可愛がって同胞にしてあげてもよかったんだけどね」
「……フン。お前は殺す。必ずな」
エージェントシラヌイは、この場の位置情報を記憶してからテレポート版に乗ると、フランベルグを睨み付けつつも姿を消す。
「さぁて、僕も行くか。何だか楽しそうな気配がしてきたからね……」
フランベルグはフフフと笑うと、人気の少ない廊下に出て、歩いて行った。




