第三章 capter-2 「クイック・ライダー」(6)
ーー勝てない。 絶対に勝てるわけがない。 無理だ、無理。俺がどう足掻こうとあれ相手には、無理だ。
須賀谷は愕然としつつも、膝を落としていた。
実際順がやられるような相手には、俺が勝てるわけもない。
「……行かないのですか?」
横から篝火が、声をかけてくる。
「無茶を言うなよ。……あの順が、やられたんだぞ!? むざむざ恥を晒しに行かせる気か!」
「実際彼女は油断をしただけです。吹き飛ばされていたから試合では負けでしょうが、実戦なら彼女は立ち上がってまだ戦いに行ったでしょう。ケイラウトアーマーが強制解除されてないという事は、彼女にはまだまだ戦う力があったという事を示します」
反論をするが、上からとめられる。
「でもよ、俺の力と装備でどう戦えってんだ? 素のステータスでさえこれだけの差があるというのに、多少ダメージを負ったとはいえあのマシンがある。俺の方で使えるのはタマチルツルギと対ビームマント、それに炎の紋章のリングくらいなもんだ、戦力差があるにも程があるだろ」
「……私は貴方の、セコンドですよ?」
「……何が言いたい、篝火」
「状況分析をしつつ、私もプログラムを組んでいたという事ですよ。ギリギリで間に合いました」
そう篝火は言いつつも、ポケットから筒状の小さな機械を取り出して自らのおでこに少しかざす。
「……何だそれは?」
「USBメモリですよ。私が先程から脳内で構築していた弾道制御プログラムです」
「……何の弾道制御だ?」
「ここまで言って分かりませんか? 先程から言ってたじゃないですか、順さんがあれさえ完成していれば、って。この状況を、打開するための道具です」
篝火からはどういうつもりで言ってるのかはわからないが、態度的には得意そうにも、聞こえる。
「それは……何なんだ?」
「魔法装具……タキオンマグナムの射撃プログラムを内蔵したメモリです。使用者の魔力により火薬代わりにタキオンを周辺の空間から採取し、その加速で銃口から強力な実弾を射出します。……その威力はAPFSDS、異界の少年の足を吹き飛ばしたあれにすら匹敵します。私はそれを、須賀谷、士亜。二日かけて貴方と順さん向けに調整していました」
「何をさせるつもりだ?」
「それを使って、アロンソさんに勝つ。それこそ素晴らしいことですよ」
「だか、相手を捉えられなければ意味はないぞ」
そう会話をしている最中にも、メモリとやらを片手にしている篝火は、そのデータを打ち込みましたといい拳銃を取り出し、その底部に物理的に接続してデータを入れる。
「ーー何で、このタイミングで?」
「この学校とブレイズクレイドルが組んで何やら作っていたというのは我々生徒会でも周知していましたが……それの具体的性能は分かりませんでした。ですので、順さんにデータの収集も頼んでいたのですよ。アロンソさんのマシンの速さ……それを捉えられるレベルではなければ、少なくとも異界の人間には勝てない」
「だが、俺は銃など使えないぞ」
「マシン目掛けて引き金を引くだけです。弾頭は換装して人の魔力で消滅する特殊な対金属弾にしているので、人に当てる事はまずありえません。それを、使うのです」
そのまま出来上がった銃を、押しつけてくる。
「素で使えるのは6発。予備弾のケースはこれです。因みに一発3000エルカタルなので乱射はやめてくださいね」
「……騎士が拳銃だなんて、格好がつかないぞ?」
「ならば貴方が格好いい騎士の第一人者になればいいんですよ。需要は作り出すものって、そう言うのが商売の文句なんですよ」
優しい目で、言い含められる。
「……それに、イフットさんの為にも、貴方が勝つところを見せてあげてください。これは、チャンスです」
「……分かったよ、篝火。……いいだろう、やってやる。だが、ちょっと今のままじゃ魔力が出せそうにもない。足が震えてな。一発でいい、頬を張ってくれ」
「了解です。歯を折らない程度にやりますよ」
ーーパァン!
言葉が終わると同時に、篝火のビンタが須賀谷の頬に入る。
「ありがとう。戦う気が出たぜ、こん畜生!」
須賀谷は自分の足の震えが止まったのを自覚すると、篝火から出来上がったタキオンマグナムを受け取り、試合フィールドに入場する……。
「ーーアロンソさんの弱点は方向転換時に身体を倒すことです。そこを見切ればいけます、頑張って、下さいね」
背後からそう言葉が聞こえたが、須賀谷は痛みで返事をし損ねた……。




