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第二章 capter-2   「朝霞ミストエリア」

 「なんて寒さだ……ここは」

 シックザールを出た瞬間、足元からくる冷気に歯をカタカタと振るわせる。

 洒落にならないだろうこれは。

 敵が出ると聞いてマクシミリアンを着込んだが……鎧が冷気で冷えてしまう。 

 「霧が濃いな。防霜ファンを立てれば茶の栽培に適しそうな土地だが……篝火、今は何度だ?」

 「検知完了。セルシウス2度」

 「なるほど、道理で寒いわけだ」

 「士亜。寒いなら多少、火をおこそうか?」

 外出用コートを用意してきたイフットが心配そうに声を掛けてくる。

 「待て、炎を検知して敵が来るかもしれない。ここは慎重に行こう」

 「寒いなら寒いっていってくれれば準備は出来るんですけどね……シックザールが赤くて目立つから今更のような気もしますが」

 鎧の上からマントを羽織り多少はマシになるが、足元が冷えるのは遺憾ともしがたい。

 「足元もたまにぐじゅぐじゅしているところがあるからな。篝火や士亜は重いから一気に沈むかもしれない、沼みたいになってるところは通るなよ」

 「そうしたいものだな。幾らシックザールにシャワーがあるとはいえそこで鎧を洗う羽目にはなりたくない……うぉ!?」

 言おうとした瞬間、足が30センチくらい地面に一気に沈み込んで驚く。

 「大丈夫ですか? 手を貸しますよ」

 篝火二号に心配されつつ手を取って引き上げてもらう。なんて悪い足場だ。

 「すまない……ありがとうよ。……ったく、でもこんなところにリーブラ鋼とかいう鉱物があるんですか?」

 「産出されるという遺跡はもうすぐだ。ペーパーゴーレムの住処になりつつあるというが……ゆっくりいけば大丈夫だろう」

 「しかしなんだって遺跡に沸く敵を放置してるんです? 騎士を送って火責めにすれば楽じゃないですか?」

 「そんな事したら貴重な資源まで燃えるかもしれないだろ。それにペーパーゴーレムは紙としては高品質なものもあるのだ。好んで狩るものもいるし、全滅させる訳にはいかない」

 「沼地ばかりだから湿気るんじゃないですか?」

 「稀に撥水性のある奴も居るのさ。変異種と言ってな」

 ダリゼルディスにレクチャーを受け、イフットや篝火に度々手を貸してもらいながらもゆっくりと、進む。

 どうやら沼地の歩き方というものがあり、それを使えば足を取られにくくなるらしい。

 自分の知らない事が多すぎて新鮮だが、これでまた一つ賢くなれたような気がした。

 「ゴーレムとやらはどれくらいの頻度で出るんですか?」

 「運次第だ。出るときもあれば出ないときもある。そう考えればいい」

 ダリゼルディスに聞くとそう返事がくる。全く、適当な。

悪態を付きつつそのままゆっくりとした速度で10分ほど歩くと、趣味の悪い石造りの門が出てきた……。

 「篝火二号、ここはどんな遺跡なんだ?」

 「データ検索。アクセス中……リンク完了。前文明の遺跡です。ヒオウ図書館による所蔵データ無し。朝霞図書館に論文一件。朝霞古城の調査結果についてーフラウ・バーンスタイン。読み上げますか?」

 「いや、いい。とりあえず古城という事だけ分かればなんとか想像も付く」

 「罠があるかもしれませんね」

 「落とし穴とかな。勘弁してもらいたいものだ……」

 雑談をしつつもその遺跡とやらの敷地内に入る。見る限りでは周囲はまだ霧が濃い盆地で、ところどころ沼もあり歩き辛い。さらに少し歩くと、ばっくりと開いた洞窟のような入り口があった。

 「地下城……そういう形になるらしいぞ、ここは。探索部隊は地下8階まで入った事があるそうだが、それでも地下のモンスターは相当辛かったらしい。最大階数は特定はまだされていない」

 入り口近くに小屋を見付けると2~3人居る役人騎士の駐在所があり、そこの横を学務教材の調達に来ましたと教員免許を見せたダリゼルディスが一声挨拶してから内部地図の複製を貰う。

 「そんな危険なところに私達を遣すとは、藪崎会長も全く人が悪いですね。帰ったらレモン汁でお仕置きしましょう」

 篝火二号がそう文句を垂れつつ一番前に出て、電球がわずかに灯る地下洞窟を後ろについてくるように促した。

 「ドップラー・レーダー作動。対振動ソナー作動。電探開始」

 「……何故一番前に出る」

 「ペーパーゴーレムは温度を持つ動物ではないので探知が厄介です。万が一不意打ちを受けたとき人間では致命傷を負う可能性があります」

 「お前だって代えのきくもんじゃないだろ」

 「それでも人間よりは頑強だと自負しています」

 篝火二号は当然だという風に答えるとそのままゆっくりと歩きだし、その後ろにイフット、ダリゼルディス、須賀谷と続いた。

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