第二章 capter-2 「朝霞ミストエリア」(2)
「危険」
そう言った瞬間に目の前を篝火の首が飛んでいったのは、それから5分後の事であった。
「な……」
突然の事に唖然とすることしか出来ず、何が仕掛けてきたのすら分からなかった。
「士亜、右前!」
次にイフットの声で2m大の3体のペーパーゴーレムに気が付いたのは、明らかに遅かったのだろう。
「……篝火!?」
前を見れば篝火二号は頭部を吹き飛ばされて、胴体だけの姿で直立している。
「そんな、まさか。こいつはこれを予期して……」
悔しさに歯軋りをしつつ目の前を見る。そのペーパーゴーレム達の姿は薄汚れた乳白色で、ところどころ煤けていた。
「□ж△Я゛※$!」
叫びとも思えない言葉を発するペーパーゴーレムは右腕を振り上げると、その腕を力いっぱいに伸ばしてくる。
そこで須賀谷は篝火二号が吹き飛ばされた事への現状認識が出来、目の前のゴーレムへの憎悪を固めた。
「この篝火とは短い付き合いだったが……やってくれたな! 貴様ァァァ!」
「私に任せて!」
「黙れッ、俺にやらせろ! ここで火を打つと酸素が足りなくなる!」
イフットが言うが、それを無視して飛び出す。
「士亜!」
「□ж△Я゛※$Ь」
「死ねェ!」
すぐに突き出されてきた腕をタマチルツルギで両断すると、手応えもなく一体の敵の腕は引き裂かれていく。
「□ж△Я゛※$Ь」
「他愛ないじゃないか」
紙らしくその腕はあっさりボディに燃え移っていき、真っ黒く焼けていった。
どうやらこの敵は強度により切断するのではなく、その特有の薄さを利用し包丁のように割り込んで切断をするという能力のようだ。
強くはないが、油断をするとこれは大怪我ではすまない。……そう、篝火のように。
「奴のコアは何処だ、ダリゼルディス!」
その瞬間に横薙ぎに来たもう一体の攻撃をプロテクションリフレクターで止めると、背後のダリゼルディスに怒鳴る。
「頭だ! 奴の首を落とせ!」
「分かった!」
言われるが早く次の攻撃を屈んでかわし、走り出して突っ込む。
『……エンチャントナックル!』
そして飛び上がって一体のペーパーゴーレムの頭を掴むと壁に押し付け、そのまま爆散させた。
頭を燃やされたゴーレムの一体は機能を停止するとそのままぺらりと床に倒れ、何の変哲も無い紙のようになる。
そしてそこで一呼吸をした瞬間……。
「士亜、後ろッ!?」
背後には最後の一体のペーパーゴーレムが、腕をなぎ払ってきていた。
……まずい。首直撃コースだ。かわせない。
焦ったが動けない、時が遅くなるかと思えたその瞬間……。
【フィンガーバルカン】
言うが早く首の無い篝火が稼動し、その腕から光の弾丸を打ち出して最後のペーパーゴーレムを蜂の巣にする。
「……え?」
須賀谷が呆気にとられたままになっていると、首の無い篝火二号がつかつかと歩きだし、その辺に転がっていた自分の頭を拾い上げてセットした。
「簡易チェック。視界良好、各種センサー状態オールグリーン」
「……篝火二号。お前てっきり、壊されたのかと」
そう声を掛けると、馬鹿ですかあなたはと返される。
「えぇっ?」
「外で運用する以上は私も相当の負荷対策は出来ています。私を機械と思うならシックザールと同等の強度と考えてください。それにしても隙を作って殲滅するつもりが……勝手に飛び出すとか計算外でした」
「いや、だって死んだかと思って」
「それでカッとなって突っ込むと早死にしますよ。本当に自分の命を大切にしてください」
そう口論をしていると「馬鹿ー!」と後ろからイフットが抱き着いてくる。
「士亜ぁ……本当に心配したんだから。だから何も考えずに突進するのはやめてよ……寿命が縮んだよ私も……」
「お前のところは長命の家系だろ。160のひぃひぃじいさんが生きているのは知ってるぞ」
「そういう問題じゃないよ馬鹿! 心配なんだよ、あほー!」
「こんなところで怒ると恥ずかしいからやめろって」
「そうさせてるのはあんたでしょ!」
「あんまり後ろから首絞めるな痛い痛い」
「反省しなさい!」
「分かった、ごめん、すまない!」
「反省できてない!」
イフットに抱きつかれた須賀谷を見つつも篝火二号はふっと笑い、かりっと目の奥をフラッシュさせると
「任務優先度更新、須賀谷士亜の護衛」と小さな声で呟いた。
そんな篝火の肩をダリゼルディスが叩き、
「あの子は強くなれる子だよ。私達が守らなくちゃね」
と囁いていった。




