↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
9/24

第9話 原作どおりの恐怖が、日曜日にやってきました

春楡の広場に、祈灯祭の小さな冠が運ばれた。

本番まで四か月。王都から巡回する灯術師が、地方の灯具を確かめるための予行だった。


フィンは、綿菓子よりも、紙の風車を見ていた。

ペトラが黄色いものを持ち、彼は灰色を探した。

そんな色はなかったので、青を選ぶ。

私は木陰で待ち、エルンスト先生と屋台のパンを半分にした。


「教室では、どうですか」

「ペトラとよく喧嘩をしています」


私はパンを落としそうになった。

先生は笑った。


「隣の席を誰が片づけるか。縄跳びを、どちらが先に使うか。普通の喧嘩です。最近は、言い返せるようになりました」


遠くで、鐘が鳴った。

灯術師が、台の上の冠へ白い石を入れる。

光が、広場へ広がった。


きれいだと思った。

その次に、フィンの風車が止まった。


少年は、左手首を押さえていた。

足元の影が、雨の水たまりのように広がる。


「先生」


言い終える前に、エルンストが走った。

灯術師へ、停止を求める。

返事は、光を浴びた観客の拍手へ消えた。


フィンの影が、屋台の脚へ届いた。

白い光がそこへ吸い込まれ、空気が、急に冷えた。

ペトラが手をつかもうとした。

私は彼女を引き寄せた。


「フィン、私を見て」


少年は目を閉じていた。

手首を掻く。爪の跡が、肌へ残る。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


地面が震えた。

紙の風車が、台からいくつも落ちた。

あの挿絵が、頭へ浮かぶ。

黒い城を包む影。崩れた街。泣く人たち。


私は一歩、止まった。


その一歩を、フィンが見た。

私の顔を見て、さらに影を伸ばした。


エルンストの声が響いた。


「灯晶を外せ! 冠を切り離す!」


白い線が、彼の杖から台へ走った。

冠の光が二つに分かれ、空の灯具へ流れた。

最後の灯晶を術師が外したとき、広場の明るさが元へ戻る。


私は膝をつき、フィンの両肩へ手を置いた。


「終わった。光が止まったわ」


息は速いままだった。

少年が震え、私の手から離れようとする。


私は追わず、片手を前へ出した。


「触ってもいい? ここへ座ろう」


やっと、うなずいた。


影は、ゆっくり薄くなった。

地面に落ちた風車が、一つ回った。

ペトラが、拾って私たちの近くへ来た。


「フィン、頭が痛いの?」


少年は、答えられなかった。

広場の端では、誰かが魔物の力だと言っていた。

別の人が、灯具を急に明るくしすぎた、と返した。

私はすべての声を止められなかった。


医師の診察を受け、屋敷へ戻った。

大きな怪我をした人はいない。

倒れた屋台への補償を決め、先生と術師が灯具を調べる。


フィンは、自室で風車を机へ置いた。


「もう、学校に行かない」


私は椅子を引いた。


「今日は休みましょう。次のことは、先生と調べてから――」

「ぼくが、こわかった?」


返事が遅れた。

私は、嘘をつけば彼が信じると思った。

あの一歩を、なかったことにしたかった。


「怖かった。何が起きているか、わからなかったから」


フィンは布団へ顔を伏せた。


「でも、あなたを一人にしたくなかった。遅くなって、ごめんなさい」


少年は、何も言わなかった。

私は言葉を重ねず、椅子へ座った。

風車は、もう回っていなかった。

夕方の窓を少し開けると、青い羽根が、かすかに動いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。