第7話 悪役令嬢の帳簿には、知らなかった子どもがいました
叔父の届けた帳簿には、数字しかなかった。
院へ送った小麦の代金。冬の薪。衣服。術具の修理。
子どもの食事代は、私たちの屋敷より高かった。
私は医師の報告と並べた。
フィンの身長と体重。手首の傷。古い打撲の跡。
足りない食事を、数字だけで満たしたことになっている。
帳簿を読むのは、得意ではなかった。
前世でも、印刷部数の表で桁を間違え、営業の人に直された。
私は領内の会計士を呼び、原本を見てもらった。
「こちらの店は、三年前に閉じています」
その一行から、穴が広がった。
孤児院へ向かったのは、会計士と、医師と、領の保護担当者だった。
私は一緒に行こうとした。
担当者は、院が叔父の来訪を知れば隠すかもしれない、と言った。
私は彼らへ任せ、屋敷で待った。
やりきれない時間だった。
フィンは、その日の授業で小石を数えていた。
六つまで並べ、七つ目を手に持ったまま、私の部屋へ来た。
「アデルさまも、できない?」
帳簿へ顔を寄せていた私を、勉強していると思ったらしい。
「できないところを、できる人に見てもらっているの」
彼は少し安心した顔になり、小石を机へ置いた。
「ぼくも、七つがわからないとき、ペトラに聞いた」
彼の七つ目が、私の書類の隣に残った。
夕方、調査に行った人たちが戻った。
子どもは十一人。
院長は、魔力の訓練に必要だとして、地下へ下ろすのを拒んだ。
担当者が管理権限の書類を示し、医師が中へ入った。
白い輪が、棚へ並んでいたという。
左手へはめる拘束具。その内側に、半月の金属片。
フィンの傷と同じ形だった。
「治療が必要な子を、まず移します。ほかの子も、院の外で聞き取りをします」
私は、空いている客室の数を考えた。
すぐ全部ここへ、と言いかけたが、担当者は町の診療所と別の保護施設へ分ける計画を持っていた。
急に大勢を移す私の屋敷だけでは、世話をする人が足りない。
「費用を出します。必要な人を雇ってください」
今度は、項目だけで済ませなかった。
食べ物が届いたか。誰が受け取ったか。次に医師が来るのはいつか。
確認する人の名も決めた。
エルンスト先生が、拘束具の絵を見て口を結んだ。
「宮廷の集光器に似ている」
「知っている物ですか」
「完全に同じかは、実物を見たい。私が調べた時には、術師が順番に魔力を入れる装置だった。子どもに連続して着ける物ではなかった」
フィンは、部屋の外で止まっていた。
その絵へ目が向いている。
私は紙を伏せた。
「フィン。あの院へ、戻さないよう手続きをしています。ほかの子たちにも、医師が来ている」
彼は、すぐ喜ばなかった。
「ぼくが、言ったから?」
秘密を漏らしたら、ほかの子へ罰が行く。
そんなふうに教えられていたのだと、医師から聞いたばかりだった。
「あなたが悪いことをしたのではないわ。大人が調べて、止める仕事をしているの」
私は七つ目の石を取り、彼の手へ戻した。
フィンは、しばらく握っていた。
夕食の後、ミラへ小石を見せ、七つまで数えた。
その夜も、灯りはつけたままにした。




