↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/24

第3話 家庭教師は、ラスボスにも宿題を出します

春楡の学び舎から来た教師は、私よりも先にフィンへ挨拶した。


「エルンスト・ハイムです。君の魔力を、少し見せてもらってもいいかな」


灰色の外套。茶色の髪。銀縁の眼鏡をかけた、三十歳の男だった。

宮廷で働いていた、とミラに聞いていたので、もっと威張った人を想像していた。

彼は持ってきた鞄を開け、木の葉を二枚、机へ並べた。


「どちらが好き?」


フィンは、私を見た。


「私ではなく、あなたが選んでいいのよ」


少年は、小さなほうへ指を伸ばした。

葉の下に、黒い影が集まった。

窓から入る風で揺れていた葉が、机へ静かに落ちる。


エルンストは、眉を上げた。


「……夜の魔力か」


その言葉に、私は姿勢を変えた。

原作では、闇の力と呼ばれていた。

憎しみを食べ、国を飲み込む力。


「危険ですか」

「今は、大きすぎる出力がありません。ただ、扱いを知らないまま強い灯術に触れると危険です」


彼は鞄から、白い石を取り出した。

フィンが肩をすくめたので、机へ置く前に手を止める。


「これは使わない。しまうね」


石を鞄へ戻した。

何を嫌がったかを、叱らずに確かめる。その動きが、私には新鮮だった。


「先生は、夜の魔力を教えられますか」

「私は光の測定と分配が専門です。夜を作ることはできません。だから、できたつもりで教えないようにします」


フィンは、葉を見ていた。

手を膝へ戻そうとしたので、エルンストが声をかける。


「もう一度やってみる? 疲れたら、終わりにしよう」


二度目には、葉の縁が黒くなった。

彼が指を引くと、色は戻った。

先生はそれを帳面へ書き、今日はここまで、と言った。


「次までの宿題は、好きな葉を一枚探すこと」


フィンの顔が曇った。


「きれいじゃなかったら」

「君が好きなら、それでいい」

「できなかったら」

「探せなかった、と教えて。別の宿題にするから」


教師が帰る前、私は廊下で引き止めた。


「もっと厳しくしなくても、いいのでしょうか」


言ってから、自分の声に驚いた。

原作のフィンは、とてつもない力を持つ。

今、扱いを覚えなければ。その考えが、私の口を急がせていた。


エルンストは、教室の扉へ目を向けた。


「厳しくする目的が、何かによります。今は、失敗したら叩かれると思っている。間違いを隠すようになるほうが、魔術では危険です」


私はうなずいた。

彼の言葉には、私の知らない事故の重さがあった。


「明日も来られますか」

「来られます。ただ、ずっと一人で教えるより、学び舎へ通えるようにしたい。文字も計算も、魔力の外にあることを覚えてほしいので」


窓の向こうで、フィンが庭へ出ていた。

ミラに見守られ、葉を一枚ずつ見ている。

一枚取って、戻し、また別の一枚を取った。


「今は、あれで十分です」


先生は言った。

私は、選べずにいる少年を見た。

原作の魔王は、何でも決められる男だった。

目の前のフィンは、葉一枚のために、夕日が傾くまで迷った。


やがて、虫の食った葉を持ってきた。


「これ。穴が、星みたい」


私はそれを、明日の授業で使う台へ置いた。

どこも食われていない葉を代わりに用意するのは、やめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。