第17話 伯爵の仕事は、魔王の力を借りることではありません
空の灯晶は、屋敷と学び舎と調査隊から集めた。
それでも、塔の蓄積量には足りなかった。
先生が数を数え、マリアが二箱分を引き受ける。
「入れ物を増やすより、外へ放散する時間を作ります」
彼女は杖を、地図の北へ置いた。
人のいない石切場。
周りを術師が囲み、白い光を少しずつ空へ散らす。
その間、塔から来る流れを分ける必要があった。
私は、閉じた店の領収書を持ち出した。
灯具修理の支払いが、何年も記されていた店だ。
会計士が見つけた古い図面には、店から塔へ納めた装置の形があった。
「この会社は、術具だけではありません。水車の部品も作っていました」
フーゴが、図面を覗いた。
昔、その店で庭の揚水機を買ったという。
白い術式の下に、手で動かす水門のような切替板がある。
印を壊した叔父は、起動の線を止められなくした。
けれど流れの行き先まで、すべて魔術で固定していたわけではなかった。
先生は、元の納入記録と図面の番号を照合した。
「実物がこれなら、南へ戻る線を閉じられる。石切場へ回して、王家の術師が主軸を外すまで支える」
私は人を分けた。
図面を持ったフーゴと鍛冶職人が塔へ。
マリアと調査隊は石切場へ。
先生は線を確かめながら、北へ進む。
私は、まだ町に残る人を移した。
橋の近くで、荷車が倒れていた。
粉の袋を積みすぎたのだ。
ペトラの父親が、車輪を押している。
私は馬車を止め、袋を下ろした。
粉が、裾へ白くついた。
ペトラが言ったお母さんのよそ行きを思い出し、少し笑った。
次の袋は、手を添えても動かなかった。
男二人を呼び、荷車の向きを変える。
「粉は後で運べます。先に、皆さんが橋を渡ってください」
粉屋は口を開きかけ、橋の向こうの娘を見た。
彼は袋を下ろし、走った。
石倉へ着くと、ベルタ先生が子どもたちを数えていた。
院から保護された子も、同じ部屋にいる。
高い壁の陰で、灯術の流れは弱かった。
医師が彼らの手を、順に確かめている。
「フィンは、まだ屋敷?」
ベルタ先生に聞かれ、私はうなずいた。
屋敷の南側なら、灯具から離れられる。
移動の道のほうが、今は強く光っていた。
安全と思った判断を、もう一度確かめる必要があった。
伝令が、屋敷から来た。
北の窓が割れた。
ミラとフィンは南の部屋へ移り、怪我はない。
ただ、部屋の壁へ、白い線が浮かび始めたという。
私は、自分の部屋の床を思い出した。
地下へ続く、使っていなかった扉。
本の中で、アデルが少年を育てた場所。
「先生を呼んで。屋敷の旧い術具を確認してほしい」
伝令は馬を返した。
私は石倉の入口へ担当者を残し、屋敷へ向かった。
途中、塔のほうから大きな音がした。
白い柱が、少し傾いた。
石切場の上に光の幕が広がる。
マリアたちが、流れを受けたのだ。
塔と町と、私の家がつながっていた。
私は帰るだけでなく、まだ誰かをそこから出さなければならないかもしれなかった。
馬車の窓の下で、手を握った。
今、私が欲しいのは、未来の魔王の力ではなかった。
七歳のフィンが、明日の朝も椅子へ座ることだった。




