第16話 破滅の日は、予定より早く来ました
調査隊が到着した翌朝、叔父へ拘束の命令が出た。
横領と、子どもたちへの不法な拘束。
王家の納入監督印も、その場で引き渡すよう求められた。
私は屋敷で、結果を待った。
フィンは教室へ行き、私は画集の頁を一枚開いていた。
春楡の実を、細い線で描く。
外では、ムクが尾を立てていた。
いつもなら、この時間は寝ている。
狐は窓へ上がり、屋敷の北を見た。
鐘が鳴った。
祈灯祭の音ではない。
町の警鐘だった。
廊下を、ミラが走ってきた。
「北の塔が光っています」
古い集光塔。
もう使わないと聞いていた、院とつながる塔だった。
窓から、白い柱が見えた。
遠くの大聖冠へ送るはずの魔力が、空へ逃げず、町の灯具へ広がっていく。
先生が馬で戻った。
鞄を開けながら、説明する。
「オスカーが、印を壊して予備系統へ流した。押収される前に、記録も、石も焼こうとしたんです」
叔父はすでに拘束された。
けれど、折った印の片方が、起動した線へ残っていた。
切り離す操作を受けつけない。
破壊すれば、塔に積んだ魔力が一度に町へ出る。
「領の灯具を、順番に空へ放します。急に全部切ると、塔へ戻る」
先生の顔が、硬かった。
私は、門番を呼んだ。
「学び舎へ。子どもたちを南の石倉へ移してください。医師と保護担当者にも」
調査隊は塔へ向かっていた。
私は町の退避を、領の人たちと始めた。
馬車の台数。橋の通行。井戸の近くの広い場所。
どれも、魔術の力では増やせなかった。
少し後に、フィンが戻った。
ベルタ先生が、子どもたちを順に移す間、彼だけは強い灯術のない屋敷へ、と送ってくれたのだ。
少年は、左手首を押さえていた。
白い塔を見ると、影が揺れる。
私は窓の戸を閉じた。
夜の庭の灯具も、先生が切った。
「ミラと、南の部屋へ」
フィンが私の袖へ手を掛けた。
「アデルさまは」
「ここで、人を動かす仕事をする。あなたのそばにミラがいる」
握る力が、強くなった。
私は約束できないことを言いそうになった。
すぐ戻る。何も起きない。
どちらも、今はわからない。
「窓から離れていて。次に会う場所は、南の部屋。移るなら、ミラから知らせてもらうわ」
彼の手を、ゆっくりミラへ渡した。
玄関へ出ると、マリアが、調査隊の後を追って来た馬車から降りた。
王都の停止作業を終え、こちらの装置も確かめに来ていた。
白い髪飾りは外され、重い杖だけを持っている。
「主系統は閉じています。ここから王都へは逃がせません」
私はうなずいた。
彼女と先生が、空の灯晶の箱を開けた。
逃がす先を、ここで作る。
空は青かった。
原作の断罪の日は、雨だったはずだ。
もう、その天気を思い出している暇はなかった。
私は領の地図を広げ、橋を渡れない家から、迎えの順を決めた。




