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13/24

第13話 婚約を終える日、聖女は私の味方でした

王都へ行く朝、フィンは玄関へ出てきた。


「何回、寝たら帰る?」

「四回の予定よ。遅れるなら、手紙を出す」


彼は指を四本立てた。

私は馬車の段へ足を掛け、それから戻った。


「フィン。ここへ帰ってくるわ」


握り返す手が、少し緩んだ。

ミラと先生が、彼のそばに残ってくれる。

一度も離れないことを、私は約束できなかった。

戻る予定を、隠さないことならできた。


王都には会計士と、領の法律家が同行した。

叔父の帳簿。医師の報告。保護先を変更した書類。

原作の日記は、自室へ置いた。


婚約の話し合いは、王家の応接室で行われた。

ローデリク殿下の隣には、聖女マリアがいた。

彼女は本で読んだとおり、金の髪と、青い目を持っていた。

けれど、ずっと微笑んでいる人ではなかった。

机へ並べた拘束具の絵を見て、眉を寄せている。


「この輪は、灯晶を作るための物なのですか」


マリアが聞いた。

私は、確認された使い方を説明した。

子どもを休ませず、長く魔力を取り続けていたこと。

予行の冠に、停止の線が欠けていたこと。


殿下が、話を切った。


「調査中だ。今、断定するものではない」

「調査が必要です。だから、この納入を私の署名で続けることはできません」


王家の担当官が、提出した資料を一枚ずつ受け取った。

マリアは、自分が使っていた灯晶を机へ置いた。


「私にも、供給先は知らされていませんでした。今まで確認しなかった責任があります。私の使用分も調べてください」


殿下の顔が、わずかに赤くなった。

私には、彼女を悪女にする必要も、こちらへ奪う必要もなかった。

彼女自身が、今、確かめたいと言っていた。


「君までアデルの話を――」

「殿下。この傷の写真を見てください」


彼女は、フィンの名を隠した医師の記録を示した。

私は、その指に小さな染みがあるのを見た。

灯術を使い続けた人の、焦げた色だった。


話し合いの後半で、婚約の件へ移った。

私は立ち、殿下を見た。


「婚約の解消を求めます」


本では、私がその言葉を聞く側だった。

泣き、聖女を責め、引きずられていく。

今は足が震えたが、立っていた。


「おまえの家には、王家と結ぶ意味がある。それを捨てるつもりか」

「子どもの傷を見せても、調べる前に躾だと答える方とは、家を作れません」


殿下は口を開き、閉じた。

担当官が、事前に提出した解消の申立てを出した。

王家への納入と婚約は、同じ約束ではない。

家の管理を叔父へ戻す理由にもならないと、同行の法律家が説明した。


私がその日すぐ自由になれたのは、勢いよく言い返したからではなかった。

先に資料をそろえ、王家の審査を受け、話し合いの席を作っていたからだ。

双方の署名が終わるまで、杯の茶は冷えた。


婚約の印章を、机へ戻した。

指が、少し軽くなった。


廊下で、マリアが追いついてきた。


「私が、邪魔をしたのではありませんか」


私は首を振った。

前世で読んだ物語の中では、そう思う女だった。

でも、この人の行動が私の婚約を終わらせたわけではない。


「あなたに会う前から、終えるつもりでした」


彼女の肩が下がった。

私は、先生の測定の記録を渡した。


「祈灯祭の聖冠について、確かめてほしいことがあります」


彼女は受け取り、自分で読むと言った。

王都を出るとき、私の鞄から印章がなくなり、返事を待つ報告書が増えていた。


四度目の夕方、春楡へ帰った。

玄関で、銀の頭が私の腰へぶつかった。

私は鞄を落とした。

抱きつく手を解かず、落ちたままにした。

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