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第三話 再会

 ――翌朝。


 頬を撫でる風と、鳥のさえずりが耳に入る。


 私は、無事に新しい朝を迎えることができたようだ。


「んーっ……。」


 両腕を伸ばし、硬直していた身体をほぐす。


 ふと、ベッドの横に目を向ける。


 そこには腕を組み、椅子に腰を掛けた状態で眠る父の姿があった。


 私をベッドに運び、そのまま眠ってしまったのだろう。


 かつて戦場で数々の武勲を上げた父も、眠る姿は無防備だなと思うと少し可笑しかった。


 時折うつらうつらと頭を揺らし、倒れそうで倒れない。


 そんな父を見ながらふと、親より子が先に死ぬというのはどれほど残酷なんだろうと思った。


 いざという時は自分を犠牲にすればいい。


 そんな風に考えていた時期もあったけれど、あの時勇者はそれを良しとはしていなかったように思う。


 父もきっと勇者と同じ考えだろう。


 どういう理屈かはわからないけれど、拾ったこの命。


 無駄にするわけにはいかないと思った。


 改めて生を実感していると、突然扉が開く音。


 それと同時に、金属製の何かが耳障りで激しい音を立てた。


 その音で飛び起きる父と、肩をすくめる私。


「お、王女様!お目覚めになったのですね!」


 その声の主は侍女だった。


 どうやら私が起きていたことに驚き、持っていた金属製の盆を落としたらしい。


「……びっくりして心臓が止まるかと思いました。」


「……何事かと思ったぞ。」


「も、申し訳ありません!」


 本当に心臓が止まるかと思い、私は胸に手を当てて確認する。


 大丈夫、動いている。


 ほっ、と胸を撫で下ろす私を見て、父もやっと気付いたらしい。


「ようやく目を覚ましたのだな。心配したぞ。」


 そう私に声をかけ、頭を撫でてくれた。


 また子ども扱いされた。


 そう思ったのと同時に、侍女の反応と父の言動に違和感を覚える。


「私は、そんなに長く寝ていたのですか?」


 昨日生死をさまよったあと、父の背中に乗せられた時は夕暮れくらいだったと思う。


「ええ、王女様は5日も眠っていたのですよ。このまま起きないのではないかと、それはもう心配で心配で……。」


「……えっ、5日も?」


「そうですよ、本当に心配したんですから。」


 侍女の言葉に驚きを隠せなかった。


 てっきり翌朝だと思っていたのに。


 私が目を丸くしていると、父は倒れた椅子を元に戻し、乱れた衣服を整えながら口を開いた。


「仕方あるまい。お前は死の淵から戻ってきたのだ。気力も体力もすり減っていたのだろう。」


 父の言う通りだと思った。


 旅をして、疲れて眠るのとはわけが違う。


 死を覆したのだから。


「ずっと飲まず食わずで腹が減っただろう。わしは給仕長に何か作るように言ってくるからな。」


 そう言って父は寝室を後にした。


 部屋に取り残された侍女と私は、扉が閉まる音と父の足音が聞こえなくなるのを確認した後、笑顔を見合わせた。


 そして侍女は、私の背中に腕を回しながら「本当によかった……。」と言って抱きしめてくれた。


「心配かけてごめんね、お姉ちゃん……。」


「あら?私はただの侍女ですよ?王女様ったら、寝坊のし過ぎで赤ちゃんに戻ってしまったのかしら?」


「……か、からかわないで!」


「からかってなどおりません。」


「もぅ……いじわるなんだから。」


「冗談よ、また会えて嬉しいわ。」


 時折憎まれ口を叩く彼女に、また会えて本当によかったと思った。


   ◇


 彼女は私よりも歳が5つ上で、私の母が亡くなった頃から仕えてくれている侍女頭の娘だ。


 2歳の私には母の死を理解することはできていなかったけれど、周りの暗い雰囲気に飲まれて寂しさは感じていたように思う。


 その寂しさを少しでも軽くすることができるのは、大人ではなく歳が近い子どもだろう。


 ということで、普段から城に出入りがあった彼女が抜擢されたらしい。


 父の配慮だと思う。


「そんな子どもを城で働かせるなんて。」という声が当時はあったらしいけど、結果として寂しさを感じる時間はそれほど多くはならなかった。


 当の本人も、当時は私のお世話というより、一緒に遊ぶ妹のように接していたから苦ではなかったと言っていた。


 城での生活は私にとって窮屈で、勉強や王女としての立ち居振る舞いを学ぶ時間が苦痛だった。


 そんな私に彼女は、城の外のことを色々教えてくれた。


 木登りや花冠の作り方、城下町のことや豊穣祭の屋台の話など。


 そのおかげで、周りからおてんばと言われる幼少期を過ごすことができた。


 彼女と二人並んで、他の侍女や警備兵から何度も説教された記憶がある。


 そんな姉のように慕っている彼女から、私が死んでいたふた月の間の話を聞くことができた。


   ◇


 私の死を最初に発見したのは彼女だったらしい。


 すぐさま治癒士が呼ばれ、検死が行われたそうだ。


 その後、父の指示で王宮魔術師による保存魔法が私に施されたことや、状況的に勇者に容疑がかけられたこと。


 そして、勇者を重要参考人として確保するために追っ手を仕向けたということを知った。


 父としては勇者に話を聞いた上で、私の葬儀をするつもりだったみたいだ。


 葬儀当日までの間、彼女は毎日女神に祈りを捧げ、私の身体を拭いてくれていたらしい。


 頭が上がらない。


 父はというと、公務を疎かにすることは一切なく、その合間に私の傍に来ては涙を流していたそうだ。


 ふた月の間、その繰り返しだったと。


 ところが勇者は一向に見つからず、保存魔法にも限界が来たためやむなく葬儀の準備をしていた最中、私が目を覚ましたとなり王城内は大騒ぎだったようだ。


 その後の5日間はというと、彼女はふた月の間と同様に毎日お祈りと清拭、父は「わしは娘が目を覚ますまでここで公務を行い、寝泊まりをする。」と言って訊かず、必要な書類やらを運ばせたそうだ。


 どうりでベッド横の机の上が雑多な書類だらけになっている訳だ。


 ちなみに「このことは娘に言わないでくれ。」と口酸っぱく言われたらしい。


 その時急に彼女が父の声真似をしたのだが、あまりにも似ていなくて二人で声を上げて笑ってしまった。


 彼女の名誉のために何も聞いていないふりをしよう。


 先程の父の発言も、彼女と私を二人きりにするためにわざと調理場まで向かったらしい。


 普段なら侍女に言って済ますはずなのに、とは思っていたけれど気を利かせてくれたみたい。


 そうこうしているうちに結構な時間が経っていたらしく、父が甘い香りと給仕長を引き連れて部屋に戻ってきた。

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