最終兵器
すた…….すた……
なにかガラスの様な物が叩き割られた音が聞こえたかと思うと、鳥居の中から、非常に『恐ろしい』表情をした男が現れた。
その姿、正に悪鬼羅刹……まるで鬼そのものの様であった。
「待たせたな、楽。先輩から連絡をもらって走って来た」
「……遅いよ、哲」
『三原 哲』我らがミス研の『最終兵器』にして……俺の親友である。
「な、ななな!?う、嘘じゃろ!?ワシの結界が人間の拳で砕かれたぁ……!?」
ふと鳥居の方に顔を向けると、なにやら幾何学模様が描かれたガラスの破片の様な物が砕け落ちていた。なるほど、あれが結界とやらか。
「何を驚いている。良いかよく聞け。この世の触れるものはな……全部壊せるんだ」
「そ、そんな訳無いじゃろ!?」
一見すると、高身長で細身の優男に見える彼だが、その実、中身は『人の形をした化け物』である。
小学校から高校までに獲得したスポーツ大会優勝記録は数知れず。彼が大会に出ると分かれば、他の有名選手はその大会への出場を控えると言われる程の圧倒的な実力者。
走れば猛獣。投げれば弾丸。飛べばミサイル。誰が呼んだか『フィジカルモンスター』
そんなスポーツに置いて高名な彼が、なぜ俺のような一般人と親友になり、なぜミステリー研究会なんぞに所属しているのかは、今はとりあえず置いておこう。
重要なのは……そんな俺の最高の親友が、最高のタイミングで俺を助けに来てくれた事なのだから。
「そ、そもそもどうやってここまで来たんじゃ!?簡単に人が近づけぬように、結界やら術法やらを何重にも仕掛けたというのに……」
「僕は昔から、親友の居場所ならどこに居たって分かるんだ。あの程度の惑わし、どうという事はない」
「な、なんじゃそれは……!?き、貴様も妖怪かなにかなのか……?」
……まぁ、正直俺も最初は哲のこと『人の形をした怪異』だと思っていたが……さぎりも運が悪かったな……。
「やっほー。大丈夫狐森くん?」
「せ、先輩……無事だったんですね」
「え?うん。普通に外に出れただけだからね。特に何も無かったよ?」
……はて?外には俺を狙う悪しきものがいたはずでは……?まさか……
「……おいさぎり。外に悪い奴が居るって話……嘘なのか?」
「……な、なんの事じゃかさっぱりじゃのぉ……」
「こいつ……!」
さぎりが顔をそっぽに向けて、冷や汗を流しながらごもごもし始めた……もはや冤罪の余地無しである。
「哲ぅぅ!!やってくれぇぇ!!」
「任された!はぁぁぁ!!」
シュン!
180センチを越えている巨体の哲が、目で追えないような速度でさぎりへと近づいていく。いやぁ本当、あいつが味方で良かった……。
「ちょ、ちょちょ!待て待て!ワシは別にこやつにはなにも……」
「鉄拳制ェェ裁ァァイ!!」
ブゥン! ドゴォォ!!
「ゴッハァァァ!?」
ヒューン……キラーン!
それは、正に弾丸であった。
銃弾の如き哲の拳がさぎりの腹を貫いたかと思うと、さぎりはその勢いのまま空の彼方へと舞い上がり、綺麗なお星様になった。
「無事か、楽」
パシッ
「あぁ……ありがとう哲……ごほごほ……!」
哲の大きな手に支えられて、なんとか立ち上がることが出来た。さっきさぎり相手に叫び倒したせいか、喉ががらがらである。
「結局なんだったんだ、あいつは。どうしてあんなにもお前に執着していた?」
「さぁ……よく分からないんだ……俺の事を『ぬし』って人と勘違いしてたみたいで……」
最後まで説明を聞かずに終わってしまったせいか、結局の所、なぜ俺が執拗に狙われていたのかは分からずじまいになってしまった。
「……ありゃ?手の甲の落書き……まだ消えてないね」
「……本当だ。あいつ……まだなにか仕掛けてるのか……?」
先輩に指摘され手の甲を確認する。あの子供の書いたような狐の落書きは、いまだに消えずに残っていた。
「もしかしたら、お前の居場所を追跡するための発信器なのかもしれないな……どうする?しばらく僕の家で匿って……」
「いや、遠慮しとくよ。お前に迷惑かけたくないし……それに」
「それに?」
「……あいつ、悪い奴では無いと思うんだよなぁ……だから、これが発信器やら、何かの術だったとしても、たぶんそこまで大事にはならないと思うんだ……まぁ、ただの俺の勘なんだけどさ……」
「……そうか。お前が言うなら、きっとそうなんだろう」
「うんうん。まぁとりあえず。君が無事で良かったよ。さ、帰ろっか」
その後俺達は、何事も無かったように立花村を後にした。
りん……
「ん……?」
帰り際に、またあの鈴の音が聞こえた気がしたが……振り返ってもそこには、誰も居なかった……




