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NIGHTMARE RAVENS  作者: 96500C/mol
Chapter 18. 砕撃 -J'ai perdu le…-
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#5 復帰


「うぅ……うん……」

「サチ」


 コーディの操る『くるみ割り人形』は、十数枚の金属板で構成された魔奏器だ。それを空中に浮かんだ盾にし、コーディはモニカに対峙している。

 その後ろで、クローディアがサチに回復魔法をかけていた。サチはなんとか意識を取り戻したが、体はまだ痺れたまま、こわばったままで満足に動けなかった。


「コーディ、先輩……?」

「おう、ホシノ。俺も助太刀するぜ」

「その魔奏器……『くるみ割り人形』ね」モニカが呟く。「五年生のコーディ・エルメート。いまロアノールに在籍している中では最年少の上級魔奏士」

「生徒会長さんにも知られてるなんてな。俺ってもしかして有名人?」

「違うわ」クローディアがコーディの言葉を即否定する。「モニカは学院が貸与している魔奏器を覚えているだけよ。それを使う生徒のことはついで」

「マジっすか。ちょっと期待しちゃったのに」

「何のつもりかしら。私はその二人を排除しなければいけないんだけど」

「言わなかったかい、生徒会長さんよ。俺は助太刀に来たんだよ」


 モニカはコーディの顔を見て鼻で笑う。


「あなた、その二人に味方するのがどういうことか、分かっているのかしら。

 因子持ちはこのロアノールの学び舎から排除しなければいけない。そう思うわよね? だったらあなたも私の側につきなさい。ごの学院でこれからも暮らしていきたいなら、立ち位置には注意すべきよ」

「すんません、俺馬鹿なんで。先輩やホシノを痛めつけなきゃいけない理由とか、わかんねぇッす。今までずっと魔奏士として『臓物』とか『血球』とかと戦ってきて、元が人間だとか、セレブラントだとか……俺の頭じゃ分かんねぇコトばっかりだ。

 会長の言ってることも、間違ってないと思う。けど、やりすぎだ。いくらセレブラントが憎いからって、ホシノや先輩をこんなに痛めつけていいはずねぇだろ。

 どっちかって言われたら、俺は断然クランフィールド先輩の側につく」

「愚かね。でもいいわ、あなたがそのつもりなら、私もそのつもりで聞きましょう。

 コーディ・エルメート。あなたもロアノールから排除します」


 加速して急接近したモニカが槍を振るう。コーディは『くるみ割り人形』を素早く呼び寄せ、サチとクローディア、そして自身を覆い隠すように周囲全面に展開した。

 木製の『葬送曲』と異なり、金属製の『くるみ割り人形』は頑丈で、モニカの一撃を受けても簡単には破壊されない。


 ガキン、ガキンと金属のぶつかり合う音がする。モニカがなんとか『くるみ割り人形』を破壊しようとするのを、サチたち三人は鉄の箱の中、縮こまって耐えていた。

 あと少し。あと少しだ。

 モニカのコピーされた魔奏器が消失するまで、あと少し。


 『くるみ割智人形』に凹みが出来る。もう限界か―――三人が諦めかけた、その瞬間だった。


 金属板にできた小さな隙間から、大きな光が漏れ入ってきた。


「くそっ」


 光の奥から、モニカの悔しがる声が聞こえる。

 さっきまでドンドンと叩かれていた『くるみ割り人形』も静かになり、コーディがそっと防御を解くと。モニカはすぐ近くに佇み、じっと睨みつけていた。


 その手からは『ライトニング・ストライクス』が消えている。時間切れで、コピーが消失したのだ。


「仕方ないわね。一旦戻らないと」サチたちに背中を見せるモニカ。

「コーディ!」クローディアが叫んだ。「モニカを中庭から出さないで!」

「任せてください、先輩っ!」コーディが『くるみ割り人形』を飛ばす。


 中庭から校舎に続く玄関が、何枚もの鉄板で封鎖された。


「行かせねーぞっ!」

「言ったはずだけど。立ち位置には注意すべきよ、コーディ・エルメート。私に敵対するということは、ロアノールすべてと敵対するってこと。私を妨害したらどうなるのか、まだ分かっていないようね」


 ―――それはどうかしら。


 突如、『くるみ割り人形』が制御を離れ、中庭に飛び散る。

 モニカの仕業ではない。校舎側、サチたちのいる中庭とは反対側、玄関の向こうから、弾き飛ばされたのだ。


「ヘレナ……さん?」


 クローディアに抱きかかえながら、サチは中庭に歩み出たヘレナを見た。

 手には細身のレイピア―――魔奏器『壊れたクラリネット』が握られている。


「会長っ! 今までどちらに⁉」


 モニカがヘレナに駆け寄る。だがヘレナはモニカを迎えるどころか、鋭く光るレイピアの先端をモニカの喉に向けて制止した。


「か、会長……?」

「モニカ。私のいない間に、随分好き放題してくれたみたいね」

「わ、私は……会長のお留守の間に、ロアノールの平和を守ろうと」

「……して、セレブラントを排除しようとした?」

「そうですっ! ロアノールの学び舎に、バケモノの入る隙があってはいけませんから!」


 ヘレナの眉がぎゅっと寄るのを、サチは見た。

 セレブラントの排除。そんなものをヘレナが望むはずがない。なにせ、彼女の愛する妹もセレブラントなのだから。

 モニカはそんな理由を、知る由もないだろうが。


「モニカ。あなたが排除したかったのはセレブラントじゃない。リーゼロッテでしょう」

「り、リーゼロッテは……もう死にましたよ」

「……ええ、そうね」


 構えを解くヘレナ。

 許されたと思ったのか、モニカはヘレナを背にサチたちに向き直る。


「ヘレナ会長がお戻りになったわ。潔く降参なさい!」

「降参するのは貴女のほうよ、モニカ」


 しゅっ、とレイピアが振られる。

 モニカの制服、左腕の部分が裂け、腕章が千切れて落ちる。だが、モニカの肌には傷一つついていない。『壊れたクラリネット』で人を傷つけることはできない。そんなことを、以前ヘレナはサチに語っていた。


「モニカ・ウェーバ。ロアノール生徒会長顕現で、貴女を評議会から追放します」

「へ、え? な、なんで……?」

「貴女のやったことは、全部聞かせてもらったわ。セレブラント排除の支持を増すために、一人の女子生徒になりすまして校内で傷害事件を起こした。

 その上罪をなすりつけた女子生徒を監禁して自白を強要、果てに怪我をさせ、反省の色も見られない」

「そんな! 会長はあんなヤツの言うことを信じるっていうんですか!」

「証拠ならあるわ!」クローディアがポケットから紙片を取り出す。「瓜花が探し出してくれたの。犯行のとき、モニカが映った窓の光景を!」

「……っ! でたらめよ! そんなの、捏造された証拠に決まってる!」

「望月瓜花は」ヘレナは静かに語り、モニカを黙らせた。「たとえ友人のためでも、証拠を捏造したりはしないわ。瓜花に限らず、ロアノールの学友にそんなことをする人はいない……と、思いたかったのだけれど」

「会長!」ヘレナに縋りつくモニカ。「会長。私は何年も、人生のすべてを貴女に尽くしてきました。その私より、あんなのを信用するっていうんですか!」

「信用はしているわ、モニカ。貴女がセレブラントを毛嫌いしているってところは、特にね。

 だから貴女が今回のような凶行に及んだと言われても、何も不思議じゃない」


 すがりついていた手を離し、モニカはよろけてその場に尻もちをついた。

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