#4 砕撃
『ライトニング・ストライクス』が放つ、ムツミを機能停止させたほどの電撃である。人間が浴びて平然としていられるはずがない。サチは足に力を入れられなくなり、そのままバタリと地面に倒れた。
「サチ!」
クローディアはサチに駆け寄った。『葬送曲』を盾に、クローディアはモニカとサチの間に割り込む。
「邪魔をしないでもらえる? クローディア・クランフィールド」
モニカが槍を携え、のしのし近づいて来る。
「そいつは人類の敵よ」
「違うわ! モニカ、貴女は間違ってる!」
「違う? 間違ってる? どっちがよ。因子持ちはいずれ『臓物』になるバケモノでしょう? だったらその芽は摘んでおかなきゃいけないの。
因子持ちをロアノールの学び舎に招き入れる容認派なんて、トロイの木馬みたいなものよ。容認派も同類。人類の敵ってこと」
クローディアの前で、モニカが槍を振りかぶる。
「どきなさい、クローディア・クランフィールド。さもなくば貴女も同じ目に遭う」
「構わないわ。サチを痛めつけようっていうなら、私を倒してからにして」
「貴女が強がりを言っているのは知ってる。その強がりがどこから来るのかもね。
『葬送曲』を持つ自分が死ぬわけはない、そう思っているから、そうやって貴女は強がっていられるのよ」
槍を振り下ろすモニカ。その切っ先が、『葬送曲』の表面に施された防御結界とかち合った。
「だったら、壊してやるわ、こんなもの」
「……ッ」
何度も、何度も。
モニカは槍を『葬送曲』に叩きつける。
「ずっとアンタが目障りだったのよ、クローディア! アンタがいると、私の価値が下がる!」
「え、何? なんの話?」
「アンタの『葬送曲』は、私の『アマデウス』でコピーできないからよ!」
モニカの『アマデウス』はあらゆる魔奏器を再現できるが、再現したところで使えないものも存在する。
その一つが『葬送曲』だ。『葬送曲』による人体製造と魂の再定着は、『アマデウス』の制限時間内に行うことができない。ゆえに、どんなに精巧なコピーを作れたとしても、モニカに『葬送曲』は扱えないのだ。
モニカは自分を最強だと自負している。最強の自分に仕えない魔奏器があることなど、モニカには耐えがたい苦痛なのだ。
クローディアはモニカの心中など、知る由もないのだが。
「アンタがいる限り、私は最強になれない! 会長に認めてもらえない!」
『ライトニング・ストライクス』の穂先が欠ける。それと同時に、『葬送曲』の防御にも綻びが生じ始めた。
「セナは死んだ! リーゼロッテも! あとはアンタが死ねば、私は学院最強になれる!
学院の誰もが私にひれ伏すのよ!」
「何言ってるの……⁉」
横薙ぎに振るった槍が、ついに『葬送曲』の表面に深い傷を描く。
「壊してやる、こんな魔奏器! そうすればアンタは、私に逆らえない! 最強の、この私に!」
モニカは目を血走らせ、槍を突き立てる。『葬送曲』の防御はついに破られ、その棺の蓋が砕かれた。
こうなると、魔奏器もただの木材の塊である。その魔奏の力を失った『葬送曲』は、なすすべなくモニカに完全に砕かれてしまった。
「……もう一度言うわ。どきなさい、クローディア・クランフィールド。『葬送曲』のない今のアンタがこの槍で貫かれたら。死ぬわよ」
「答えは変わらないわ、モニカ。サチを痛めつけるなら、私を倒してからにして」
「じゃあ、望み通りにしてあげる……っ!」
振り下ろされる槍。クローディアは体を強張らせ、瞼を閉じた。
死を覚悟している。何度も経験した死。だが、今度こそは復活できない。
『葬送曲』は破壊された。次に死んだら、もうクローディアは生き返れない。それでも―――それでも、クローディアは避けることをしなかった。
がきん。
だが、『ライトニング・ストライクス』の切先は、クローディアの前に割り込んできた物体に防がれた。
空中に浮かんだ、武骨な金属板。欠けた槍の穂先を弾くと、板は防御の魔奏を奏でた。
『くるみ割り人形』。その魔奏器に、クローディアは見覚えがあった。
「先輩―ッ!」
中庭に面した窓から飛び降りてくる、一人の男子生徒。
コーディである。中庭の騒ぎを聞きつけたコーディ・エルメートが、突如戦闘に乱入してきたのだ。




