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NIGHTMARE RAVENS  作者: 96500C/mol
Chapter 15. 暁光 -Das Rheingold-
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#3 湖畔


 夜の湖岸を、サチたちは慎重に進んでいた。

 普段は日中にしか来ない出撃依頼が、珍しく夜に舞い込んだ。昼間でも見通しの悪い鬱蒼とした森の中で、しかも月明かりも頼りにならない下弦の月の夜とくれば、普通の楽団ならば間違いなく依頼を断っているだろう。


 だが、『NIGHTMARE RAVENS』は違った。

 楽団新入部員のための野外活動訓練中に血球と遭遇。撤退を試みたものの、あっという間に囲まれてしまった―――SOSの緊急性と仲間の危機を前に、依頼を黙って見過ごせるメンバーは一人もいなかった。

 さらに、『NIGHTMARE RAVENS』には夜目の利くメンバーが多い。野生児のライラ、暗視機能を持つムツミ、魔力や気の流れを感じ取れる瓜花とリン、そして遠隔視能力を持つリーゼロッテだ。今は、リーゼロッテを除く4人にサチを加えた5人で、湖岸沿いを進み救助ポイントを目指している。

 あとの4人、クローディア、ヴェルナ、ヘレナ、そしてリーゼロッテは別動隊として、湖を救難艇で横断している。サチたち5人が『血球』に陽動をかけて合流ポイントまで誘導し、クローディア含む救難艇のチームが、対象を回収する作戦だ。


『ばっちり見えてるよー』


 通信機からのリーゼロッテの声に、サチはほっと安心する。


『まだ『血球』は動いてないね。でも、すごい数』

「ボクのほうでも見えているよ」瓜花が付け加える。「大きな反応はない……『臓物』はいないようだ」

「でも、安心できないよ」リンも地面を撫でながら呟く。「シャンもこの前、『臓物』の気配は感じられなかったし」


 この前、とは魔奏士試験のときのことだろう。

 リンは魔奏士試験の際に、気を探ろうとして『骨髄』に逆探知され、目の前でマウレンを喪っている。話している三人の中では、もっとも慎重だ。


「『臓物』が出てきたって、ウチがどがーんっ!とやっつけたるけ。安心しーよ」

『調子に乗らないの、ライラ』ライラがクローディアに叱られた。『サチ、貴女は大丈夫?』

「はい、大丈夫です」


 大丈夫も何も、サチは今のこの遊撃メンバーで唯一夜目が利かない。そのせいでライラの背中におんぶされて運ばれているという、なんともしまらない状況なのだ。今の状況に対する不安と同じくらい、サチには気恥ずかしさが浮かぶ。


「取り残された楽団のみんなは大丈夫でしょうか」サチの問いに、ヘレナが答えた。

『逐一連絡を取ってるけど、今のところ大丈夫よ。怪我はしているけれど、重傷ではないって。救助が来るって聞いて元気を取り戻したみたい』

「早く助けてあげたいですね」


 森林の中に取り残された楽団『ニグロフェル・カストルム』はサチの一つ上、五年生の上級魔奏士コーディ・エルメートが中心になって活動している楽団である。

 メンバー、つまり要救助者は全部で四人。女子比率の高いロアノールでは珍しく、男女比は2対2だ。


「サチ、そろそろ敵に近づいたよ」瓜花がサチの肩に手を置いた。

「ありがとう、ライラ」ライラの背から下りるサチ。「ムツミ、先頭をお願い。一番後ろはライラ。周囲を警戒しておいて。わたしと瓜花ちゃん、それにシャン先輩は側面の警戒」

「おっけー」「分かった」「まっかせといてー!」

「じゃあみんな、行くよ!」


 サチは鞘から『剣の舞』を抜き、刀身の背を擦って加速の魔奏を発動させた。周囲のメンバーも各々魔奏を発動し、合奏を始める。

 これが、サチが夜目が利かないにも関わらず遊撃チームに入っている理由だ。加速の魔奏を重ねる合奏による補助は、救難艇に乗っているより前線にいたほうが役に立つ。


 『血球』は進路上にすぐ現れた。加速の魔奏で近づいたサチたちに気づいていないのか、ふにふにしたスライム状のままを保っていて、攻撃してこない。

 戦いの火蓋を切ったのは瓜花だった。浮遊魔法でふわりと宙に舞い上がると、背後に展開した魔法陣から無数の火球を放つ。後光のように降り注ぐそれらは夜の森を昼のように照らし、木々の間をすり抜けながら誘導され、『血球』を素早く正確に殲滅していった。


「地面の下にもいるよ! みんな跳んで!」リンの警告に、サチたちはジャンプしてその場を離れる。「震、脚ッ!」


 どすん、と大地を踏むリン。地面が、空気が震え、その下に潜んでいた『血球』が、たまらず飛び出して来た。

 それは確かに『血球』に相違なかったが、通常のものより倍ほど大きい。口のような器官が生成しているそれは、普通の『血球』が赤血球を模しているのならば、こちらは白血球に似た形態ともいえる。


 赤血球は酸素や二酸化炭素を運ぶ。対して、白血球の役割は外敵――ここでは『血球』を狩る、サチたち魔奏士――を喰らうこと。


「バケモンがぁ!」


 臆せず向かっていったのはライラだった。大きく開いた『白血球』の口の中へ敢えて飛び込み、それが閉じられる前に、内側から素早い剣技で切り裂く。

 目にも留まらないライラの剣に、表皮を切り裂かれ体液をまろびださせる『白血球』。そこにライラの後ろから瓜花の魔法弾の追撃が入り、『白血球』は内部から爆破された。


「サチ、作戦の変更を進言します」ムツミがサチに話しかけた。「新種の『血球』……。脱出は想像より困難になっているかもしれません。

 陽動よりもまず、救助を優先したほうがよろしいかと」

「そうだね。でも全員で救助にいったら、もっとたくさんの『血球』に囲まれちゃうかも。瓜花ちゃん、ライラ。二人に陽動を任せてもいいかな」

「ええよ」「いいよ」

「ムツミと先輩、それからわたしの三人で先行するから、二人は『血球』を倒しながら追いかけてきてね」


 先行するメンバーは、いつもの突入チーム三人だ。サチ、ムツミ、そしてリン。幾度かの出撃で、連携もよく取れるようになっている。サチは暗い森の中を足早に進み、要救助者の待つポイントへ急いだ。


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