#7 改名
ギルドハウスに『NIGHT RAVEN』のメンバーが集う。テーブルを片付け、空いたスペースに椅子を並べたホールには新たなメンバー、ヘレナ・ロアノールとリーゼロッテ・カールスルーエも加わっている。
そのたくさんの視線が向けられた先には、サチとクローディアが立っていた。
「いろいろ考えたんだけど……そろそろ楽団のリーダーを決めようと思うの」クローディアが切り出す。「ま、大方意見は纏まってるでしょうけど」
「ハイっ!」リンが勢いよく手を挙げる。「立候補、してもいいですか?」
「いいけど、相手が悪いわよ」クローディアが返す。「私はサチを推薦するわ」
「異議なし」瓜花が即座に答える。「みんなはどうかな」
「あたしも」「ウチも」「私もそれがいいと思います」とヴェルナ、ライラ、ムツミも続く。
「ワタシはヘレナがいいなぁ」リーゼロッテも手を挙げた。
「お断り」ヘレナが静かに答える。「私は他所の楽団を乗っ取るような真似はしないわ」
「えー」とリーゼロッテは不満そうに言ったが、顔は笑っていた。
「大事なことだから、多数決じゃなく意見を統一したいんだけど」
「私もそれでいい」とヘレナ。「あなたがやればいいわ。『雛鳥』さん」
「ヘレナがそれでいいなら、ワタシもー」
「どうかしら」クローディアは改めてリンに問いかける。「シャンはどう思う?」
「うぐぐ」リンは静かに手を下ろした。「シャンは長いものには巻かれる主義なんだよね。だからシャンもそれでいいよ」
「ありがとう。これで正式に、楽団のリーダーはサチに決定よ」
拍手に迎えられ、サチは一歩、楽団メンバーの前に歩み出た。
「ありがとうございます。わたし、頑張ります!
それで、早速なんですけど。わたし、楽団の名前を変えたいんです」
サチの発言に、面々は驚いてお互いを見合わせた。
驚いていないのは、サチの数歩後ろの位置に控えている、事前に相談を受けていたクローディアだけだ。
「『NIGHT RAVEN』は、セナさんが始めた楽団でした。クローディアさんを犠牲にしない、させない、最強で最高の楽団。セナさんに命を救われたわたしは、セナさんの仕事を引き継ぐことが、わたしの使命だと信じてきました」
サチが胸の前で右拳を握りしめる。
「でも、わたしにはセナさんの代わりは務まらないんです。わたしはセナさんみたいに器用じゃないし、誰からも好かれるタイプじゃないし……。それをこの半年間、思い知らされました。
だから、わたしはセナさんの後追いはもうしません。
これからは、セナさんの願いそのものを受け継いでいきたい。最高の仲間が、お互いの力をちょっとずつ出し合って、足りないところを補い合って、支え合っていける楽団。これからのわたしたちの楽団は、もうセナさんの『NIGHT RAVEN』じゃありません」
それは決別ではない。
セナの作った楽団、それを真の意味で引き継ぐということ――――それはただ、セナのやり残したことを追いかけるのではない。セナの願い、想い。その精神性を引き継ぐのだ。
サチたちがこれから作る楽団は、『NIGHT RAVEN』であって『NIGHT RAVEN』ではない。セナたちの活動を繰り返すのではなく、新たなメンバーと新たな道を歩むのだ。
「今日からわたしたちは、『NIGHTMARE RAVENS』です」
悪夢を晴らす、漆黒の鴉群。かくして、『NIGHT RAVEN』改め『NIGHTMARE RAVENS』は発足した。サチとクローディア、たった二人の新生『NIGHT RAVEN』が、蔑みとともに生まれたのとは対照的に、多いに祝福されて。いま、サチの前に並ぶ顔は、どれも最高の仲間。聖ロアノール音楽学院に集った、7人の戦友たちである。
たった2人で始めた楽団が、もう9人。
「9」―――――
はて、とサチは記憶のポケットをまさぐった。何か、「9」という数字は不吉な符号があった気がするんだけど?




