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NIGHTMARE RAVENS  作者: 96500C/mol
Chapter 13. 祝福 -NIGHTMARE RAVENS-
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#5 祝福

 リーゼロッテの告白の衝撃に、サチは持ち上げかけたティーカップをソーサーに戻した。


「ワタシが遠隔視の魔法を使えるって知ったとき、パパもママもとっても喜んでくれた。『お前は特別な才能を持って産まれたんだ!』って。

 うれしかったよ。幸せだった……自分が特別だって知って、喜ばない子供はいないからね。でもそんな幸せは、長く続かなかった」


 リーゼロッテは、頼まれもしないのに自分の過去を語り出した。

 ロアノールの学舎がある地方から少し西にある田舎町で生まれた彼女が、遠隔視の魔法を発現したのは14年前のこと。当時まだ4歳だった。


 魔女シャリオが滅ぼされても、世界は平和にはなっていない。今はまだ『魔女の臓物』と『血球』が猛威を振るい、人類を脅かしている時代だ。リーゼロッテに発現した力を「魔女の瘴気を打ち破る力」と捉える者もいれば、「新たな魔女の萌芽」と捉える者もいた。

 ゆえに、幼いリーゼロッテは常に騒動の中心にいた。これ以上の暗黒時代を望まない市民たちから命を狙われることもあった―――彼女が周囲の人々の「ウラの顔」を気にし始めたのは、自衛のため。自身を暗殺しようと近づいてくる者を避けるためだった。


 遠隔視の能力があれば、人々の「ウラ」の顔―――密かに計画しているリーゼロッテへの殺意を、全て見抜くことができる。その力はリーゼロッテという少女を危機に置く原因でもあったが、同時に窮地を脱する唯一の手段でもあった。

 暗殺者とは、笑顔という仮面をかぶって近づいてくる。だからこそ、誰の笑顔も信じてはいけない―――


 暗殺者からリーゼロッテを守るため、一家は転々と引っ越しを続けた。疲れ果てていく父と母。それを心配するリーゼロッテに、両親はいつも疲れた目をして「大丈夫」と答えた。

 本当に大丈夫なのだろうか―――リーゼロッテが両親を観察し始めたのは、二人を疑っていたからではない。彼女なりに、両親のことが心配だったのだ。


 それが仇となったのは8年前、リーゼロッテが10歳の時である。リーゼロッテに能力が発現し、一家が根なし草の生活を始めて6年目に差し掛かった、ある日のことだった。


「見ちゃったんだ。遠隔視でさ。お父さんが一人になったとき、『もっと普通の子が欲しかった』って呟いているの。

 ショックだった……今なら『仕方ないよね』って受け入れられるけどさ。当時のワタシは、まだちっちゃかったからね。

 聞いちゃったの、直接。『パパはワタシがいらないの?』って」


 リーゼロッテの両親は焦燥した。娘の遠隔視が、自分たちにも向けられている――――その事実を知った両親は、次第に精神に異常をきたすようになる。

 四六時中監視され続ける生活。そのストレスに、人間は耐えられない。かつてリーゼロッテを「神の子」と崇めた両親は、たった一つ、ほんの小さな歯車のずれで、リーゼロッテの最大の敵となった。

 完全に正気を失ったリーゼロッテの両親が、それと悟られないよう密かに娘の殺害計画を練り始めたのは、それから一週間後のことだった。


 ……当然、リーゼロッテには筒抜けであったが。


「ワタシはね、パパとママが大好きだった。あの時、ワタシが離れていれば……パパとママは今でもどこかで、ワタシを憎んだまま生きていてくれたかもしれない。今でも後悔してる。

 だけどワタシにはそんな選択はできなかった。パパとママから離れるなんて、選べなかったんだよ。でも、死ぬのもイヤだった。だからワタシは、パパとママの計画を全部察知して、ことごとく防ぎ続けた。いつかパパとママが、ワタシを殺すなんて無理だってあきらめて、受け入れてくれるのを信じてさ。

 ふふ、バカみたいでしょ。誰も信用しちゃいけないって思い知らされてたはずなのに、パパとママのことは、どうしても信じたかったなんてさ」


 リーゼロッテが両親に寄せていた信頼は、最悪の形で裏切られることになる。

 娘を殺害することが不可能だと悟った両親は、自ら命を絶つ道を選んだ。


「パパママと死に別れたワタシを拾ってくれたのが、サー・テオドール・ロアノール……この学院の理事長。

 リリアがセレブラントなの、雛鳥ちゃんには話したよね? 理事長はセレブラントの研究をしてた。リリアの魔法の力を制御する術を求めてね。ワタシもそうだから、研究に協力してほしいって。その時出会ったのが、ヘレナなんだよ」


 最愛の、血の繋がった家族でさえ「信じる」ということができなくなったリーゼロッテにとって、ヘレナだけは唯一信頼できる存在だった。ヘレナには裏表がない。いつでも妹を最優先に考え、たとえ相手が肉親であろうと妹を傷つける者は許さない―――その姿勢は、リーゼロッテに対しても変わらなかった。

 当時のヘレナは、リーゼロッテのことを「妹の予言の魔法を制御するための、研究対象のモルモット」くらいにしか思っていなかった。


 だが、それこそがリーゼロッテにとっては救いだった。

 自分の呪われた力。どんな形であれ、それを「必要だ」と言ってくれたのは、ヘレナだけだった。


 ヘレナのお陰で、呪いだったリーゼロッテの力は『祝福』になったのだ。


「ヘレナはどこまでも素直な子。ヘレナの『いちばん』はいつもリリアで、それ以外はずっと下に置いてる。例えウソでも、ワタシに『好き』とか言ってくれない人。

 でも……でも、ワタシのこの力、遠隔視の力を『役に立つ』って言ってくれたのは、ヘレナが初めてだったんだ。だからヘレナには幸せになって欲しい。ワタシの、最高の友だちだから。

 リリアのことだって、一人で思い悩まないで周りに相談してほしい。力になりたいんだ」


 この人はわたしに似ているのかもしれない。サチはそう思った。

 世界のすべてに否定された気がして、苦しんで。その時に手を差し伸べてくれた人―――サチにとってのセナが、リーゼロッテにとってのヘレナなのかもしれない。だとしたら、その人の力になりたいというリーゼロッテの願いは、極めて純粋なものだ。


「ヘレナには、仲間が必要なんだよ。

 予言は、どんどん内容が酷くなっていってる。リリアもどんどんやつれて行ってて……ヘレナもそれに苦しんでる。見ていられないよ。

 今ヘレナに必要なのは希望なんだ。心強い仲間。頼りになる、リリアの悪夢を一緒に晴らしてくれる人たち」

「……それがわたしたち『NIGHT RAVEN』だと」

「そう」


 サチを見つめるリーゼロッテ。普段は細められているキツネ目が、今日は大きく見開かれている。その、サチに注がれてる視線は熱く、そして鋭い。

 この人の言葉に嘘はない。サチにそう信じさせる、真に迫るものがあった。


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