#3 真意
ギルドハウスに集まった『NIGHT RAVEN』の現メンバーは7人である。
長テーブルに腰を下ろした面々は、上座に腰を下ろしたクローディアが会を取り仕切るのに耳を傾けていた。
「まずは新入メンバーの自己紹介ね。じゃあリン、お願い」
「わかった。シャンは玲雙虎。五年生。東の国から留学してきたんだ。魔奏器は『天国と地獄』」
『天国と地獄』は、破壊を司る右手と癒しを司る左手、一対の魔奏器である。普段は邪魔にならない手甲の形状だが、戦闘時には前腕部を覆うガントレットへと変化する。
さらに、リン自身は気功術の達人でもある。生命や大地の「気」の流れを感じ取り、それを操ることで『天国と地獄』の力を最大限に引き出すことができる。
拳を握り込んだリンの姿を、瓜花が興味深そうに身を乗り出して見ていた。
「じゃあこっちからも自己紹介。私はクローディア・クランフィールド。魔奏器は『葬送曲』よ。死んだ魔奏士の体を再構成して蘇らせる力を持ってる」
「え、すごい! そんな魔奏器があるなんて! くーくーはその力、使ったことあるの?」
「くーくー……って、私のことよね。ええ、何度かね」
「死ぬってどんな感じなの?」
「痛いわよ。それに苦しい。やっと楽になれた……と思ったら生き返って、体がばきばきに痛くなる。その繰り返し」
「そりゃ……大変だね。あんまり無理しちゃダメだよ?」
クローディアをいたわる言葉をかけるリン。
「次はサチ……だけど、紹介不要かしら」
「そだねー」
「じゃあ次はウチだね」ライラが立ち上がる。「ウチはライラ。竜剣士のライラや」
ライラが手を差し出し、リンと握手を交わす。
手の平が触れた瞬間、リンは小首を傾げた。
「……ん。ライライちょっと変わってるね」
「変わってるとかそういうレベルじゃないわよ、ソイツ」ヴェルナが囃す。「なんだっけ、ドラゴンに育てられたとかなんとか」
「そそ。ウチのお母ちゃんな、ドラゴンやってん」
「ほえー、だからか」リンは関心したようにライラの手をぎゅっと握っていた。「ライライの力の使い方は、ちょっと他の人と違うね。人なのに、人じゃないみたい。一度打ち合い、してみたいね」
「もちろんええよ。ウチも相手がいると助かるしっ!」
「……次はボクだな」
ずっと握手をしたままのライラの腕を掴み、瓜花がひっこめさせた。
「望月瓜花だ。よろしく」
「瓜瓜って、あの『図書館の妖精』だったんでしょ?」
「なんだその『うっうー』って。またヘンなあだ名をつけるヤツが増えたな」呆れたように、瓜花はため息をつく。「その通り。ボクがその『図書館の妖精』だ」
「シャンさ。学院に来てからずっと、瓜瓜に会いたかったんだよね。何度か図書館にも行ってみたんだけどさ。全然会えなくて」
「そうか。運がなかったね」
「次はヴェルナ……だけど」クローディアがヴェルナをみやる。「ヴェルナも紹介不要かしら」
「うん、覚えてるよ。あのフラスコ型魔奏器の」
「では、最後は私ですね」ムツミが口を開く。「ムツミと申します」
ムツミと握手を交わしたリンは、その手を握ったまま首を傾げた。
「ん? なんだろう、変な感じ。
気を感じないのに魔力だけは流れてる。あなた僵尸?」
「違います。魔導機械人形……つまりアンドロイド、でしょうか。特に死体を原料にしたりはしていません」
「すごい! 本物のニンゲンみたいだ!」
手を離したリンは、ぺたぺたとムツミの顔を触って感触を確かめている。
たしかに、ムツミの見た目は完成度が高い。触感も、表情も。内面も、サチが初めて会ったときよりももっと、ムツミは人間らしくなった。
「そろそろ次の議題に入るわね」自己紹介も終わったところで、クローディアが切り出す。「今日集まってもらったのはリンが入ったことを知らせるためと、この楽団の『これから』を話し合うためなの」
「『これから』?」首を傾げるヴェルナ。
「ええ。先日リーゼロッテが来て、『NIGHT RAVEN』に校外活動に出て欲しいって言ってきたの。知っての通り、うちの楽団で校外活動が出来るのは上級魔奏士の私と下級魔奏士のサチ、ヴェルナ、それから新しく入ったリン、この4人だけ。ムツミは特例で活動許可が下りているけれど、それを合わせてもたった5人よ。
うちの楽団の戦力は、ライラと瓜花が主軸になってる。主力を欠いた5人で『血球』討伐に臨むのは、自殺行為だと思う」
「そこで先日、ロアノール学院生徒会から打診がありました」ムツミがクローディアの言葉を繋ぐ。「生徒会長、ヘレナ・ロアノールとその側近、リーゼロッテ・カールスルーエが楽団に加入するという条件で、ライラさんと瓜花さんの校外活動を認めるとのことです」
「強いんけ、その二人」ライラがムツミに問う。
「当たり前じゃない」ムツミの代わりにクローディアが答えた。「ヘレナの魔奏器『壊れたクラリネット』は魔奏を打ち消す力を持っているの。何のためだと思う?」
「……叛乱防止、か」瓜花が少し考えてから、慎重に答えた。「ボクら学院の生徒が魔奏の力に頼っている限り、それを一方的に打ち消せる『壊れたクラリネット』は絶対的な優位にあって、明確な抑止力になる」
サチがヘレナと共闘したのは、まさにその「叛乱」が起きた状況であった。
魔奏器を使い、たくさんの生徒に悪夢を見せ続けた「笛吹き」。彼の野望を潰すために、ヘレナは自らの魔奏器を振るった。
「剣の腕も、達人並でした」サチが付け加える。「魔奏抜きで戦ったら、たぶん勝てません」
「そう。魔奏なしの戦いになれば単純な技術と身体能力の勝負になる。そのためにヘレナは、鍛錬を欠かしていない」
ヘレナが生徒会長の地位にいるのは、ただ理事長の孫だからというだけではない。
圧倒的な抑止力であり、精神的支柱として存在すること。それが彼女にカリスマ性を与え、生徒会長の地位を揺るがなくしている。そのための努力を怠らないのが、ヘレナである。
「リーゼロッテの魔奏器は大した力はないわ。けれどあの子にはあの『目』がある」
「『目』?」リンが問う。
「遠隔視の魔法の力よ。何かの古代魔法かと思っていたけれど、どうも違ったみたい」
「『生まれついて持っている力』とか言ってました」サチも付け加える。「セナさんと同じように、とも」
「リゼはその力を使って、決闘の様子を覗いたりしていたようね。学院中に決闘の様子を配信していたのは、彼女の力よ」
リーゼロッテは遠隔視の魔法で訓練室の様子や図書館での騒動を見て、彼女の魔奏器『ラインの黄金』の力でそれを投影して見せていたのだ。
「学院の外にいる『血球』の情報を集めているのもあの子。それをもとに、学院は楽団を血球の討伐に送りこんでいるの」
リーゼロッテの能力は偵察向きだ。隠れた敵を発見するのに大いに役立つ。
ヘレナとリーゼロッテ、どちらも『NIGHT RAVEN』の戦力増強のためには得難い人材だ。だが、サチにはどうしても首肯しがたい理由がある。
「いいんじゃないの、入ってもらえば」リンが言う。「そんなの、メリットしかないじゃんね?」
「私も同じ意見です」ムツミが付け加えた。
「ええ、私もそう思っているわ」クローディアも賛成する。「ヘレナとリーゼロッテの二人、性格は最悪だけど、腕は確かよ。それになにより、魔奏士試験を待たずにライラと瓜花も一緒に校外活動できるのが大きいわね」
「……あたしは反対です」ヴェルナが小さく、手を挙げた。「校外活動だけなら、同行するだけでいいでしょ。何も楽団に入れなくてもいいと思う」
「ボクは『判断しかねる』、かな」瓜花は背もたれにもたれかかった。「二人の加入にメリットがあるのは分かる。ライラとボクが校外活動に出られるのも願ったりだ。
だがやり口が気に入らない。先にギルドハウスを整備して恩を売っておいて、断れないような空気にしようとするやり口がね。ヴェルナの言うとおり、特別に活動を認めるなら、同行してもらうだけでいい。こんなやり口をするのには、何かウラの思惑があるような気がしてならない」
「そだねー」ライラは瓜花に同調した。「会長さんたちが何考えっとうか分かるまでは、ウチも一緒には戦えんよ」
「サチはどう?」クローディアが問いかける。
「……分からないです」サチは正直に答えた。「二人が入ってくれるのはとってもいいことなのは分かっているはずなのに……。なんだか、イヤだなって思っちゃうんです。
だからちょっと、考える時間を貰ったんですけど。でもやっぱり、なんでそう思っちゃうのか分からないんです」
「これに関しては多数決、というわけにはいかないわ。意見がバラバラなまま二人を入れれば、楽団の空中分解に繋がりかねない。二人の処遇については意見を統一しておきたいの。
二人の真意については、聞いてみるしかないわね……。ヘレナのほうは私が話してみるわ。まずは二人が加入しなくても、同行で活動許可が下りないかどうか。それがダメなら、どうしても加入したい理由があるってことになる」
「リーゼロッテ先生には」サチが手を挙げる。「私が話してみます」
「ええ、分かった。そっちはお願いね。その間にシャン、あなたの力を知っておきたいの。シャンを入れたフォーメーションも組まないとね。瓜花、それとムツミ。音頭をとってもらえるかしら」
「お安い御用だ」
それじゃあ各自、とクローディアが解散の指示を出し、メンバーたちは次々とギルドハウスを後にする。サチはとりあえず、ヴェルナについて温室へいくことにした。
二人の加入に明確に反対の意志を示したヴェルナ。対案を示すにとどまったヴェルナもまた、真意を明かしていない。




