#5 術数
* * *
「ダメですよ、そんなの!」
時間は遡って決闘の三日前。「NIGHT RAVEN」の作戦会議は、ロアノール大図書館の二十四階、瓜花がかつて自室に使用していた、あの小さな和室で行われた。
盗聴や監視を避けるための秘密会議には、これ以上ない場所だ。内装も、うず高く積まれた魔導書も、以前と何も変わらない。ただ、五人も集まると和室は一層狭く感じられた。
「そんな、クローディアさんを捨て駒にする戦法なんて!」
「いいのよ、サチ」激昂するサチを、クローディアは嗜める。「死ぬのは慣れてるし、それに、訓練室じゃ本当に死ぬわけじゃない」
「でも……!」
元はといえば、クローディアが犠牲にしないために始めた「NIGHT RAVEN」である。
どんな理由を並べられようとも、クローディアを囮にして死なせることを前提とした作戦など、サチが認められるはずもなかった。
「ボクもサチと同意見だ」
意外にも、サチに賛同したのは瓜花だった。
「いくら訓練室のシミュレーテッド・リアリティといっても、仲間が死ぬことを前提とした作戦は、感情的には飲み込めない。
けれど、クローディアの言った作戦は勝算が高いし、対案がないのも事実だ。だからボクはクローディアの作戦に従う」
「そんな……ライラとヴェルナは? クローディアさんを囮にするなんて、嫌だよね?」
「……あたしは、いいと思う」少し考えて、ヴェルナは語り出す。「実際、あたしとか先輩じゃ、あの魔導人形とは戦えないもん。あたしの魔奏器はどっちかっていうとサポート向きだしね。
それなら、出来るだけ多くの魔導人形を引き付ける役をやるよ」
「ライラ!」
「くかー……」
サチの最後の頼みの綱、ライラは既に寝息を立てていた。
畳の上に横たわって。自分の腕を枕に、サチたちに尻を向けて。
「うわ、寝てるしコイツ。大事な話し合いの真っ最中なのに」呆れるヴェルナ。
「まるで自分の部屋みたいなくつろぎっぷりね……」眉間を押さえるクローディア。
「タタミの魔力、ですかね」何とかフォローを試みるサチ。
「仕方ないだろ」瓜花はため息を吐く。「ここんとこ毎日、魔砲の練習してるから。疲れてるんだ」
「魔砲?」
「ああ。威力を絞って『竜の詞』を連射可能にするんだ。今までライラは、威力を高める練習しかしてこなかったそうだからね。苦労しているみたいだよ。
こいつはこいつなりに、色々頑張ってるのさ」
「……まあいいわ」クローディアが視線を皆の前に戻す。「そもそもライラに作戦行動なんてできなさそうだし」
「そうですね」「わかる」「ボクもそう思うよ」
「瓜花。本番ではあなたがライラに付いて、指示してあげて」
「任せて」
「それから。決闘の勝利はあなたに懸かってるの、サチ。
この作戦は、あなたをユーレンと一対一で戦わせるための作戦よ。どうにか、ユーレンを説得して頂戴」
「せっとく?」
「ええ。今の状態のまま、ムツミがユーレンのところへ帰っても。結局はまた、戦闘で破損したらムツミは捨てられてしまう。
あなたがユーレンに気づかせてあげて。あの子にとって、ムツミがいかに大事な存在なのかを。それが貴女の望みでしょう、サチ?」
「わたしの、望み……」
クローディアは本気だった。目を見れば、サチには分かる。
自分を囮にしてでもチャンスを掴む――――以前から、クローディアが自分の命に執着していないことは、サチもよく理解していた。
これがセナだったら、絶対にクローディアの作戦に同意などしなかっただろう。おそらくセナなら、決闘することなくユーレンを懐柔し、目的を達成しているはずだ。
だがサチはセナではないし、彼女ほど非常識な強さも、人に好かれる才能も持ち合わせていない。サチはクローディアの作戦通りに事を進めるしかない。
しかし、サチにとって何よりも嬉しかったのは、クローディアがサチの本当にやりたいことを理解し、仲間たちもそのために命を懸けてくれることだ。
ユーレンは強い。だが、この仲間たちとなら、どんな相手にも勝てる気がする。
* * *




