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NIGHTMARE RAVENS  作者: 96500C/mol
Chapter. 12 決断 -What I am-
59/103

#3 握手

 決闘の日。まだ環境再現が始まっていない訓練室で向かい合うサチとユーレンは、互いに手を差し出して握手を交わした。

 そういえば、対戦相手と握手をするのは初めてだな、とサチは思った。これまでの決闘相手は、いずれもサチたち新生「NIGHT RAVEN」を敵視する者ばかりで、握手など、どちらからも求めることはなかった。


「約束、守ってくれますよねユーレンさん」

「当然です。貴女が勝ったらムツミを『ヘルメス』に戻す」


 サチの後ろには「NIGHT RAVEN」のメンバー4人が控えている。クローディア、瓜花、ライラ、そしてヴェルナ。対するユーレンの後ろにはモデル623がずらりと並んでいる。サチが列に戻ったとき、ライラは首を伸ばしてその数を数えようとしていたが、すぐに諦めたようだった。


「いい、みんな。作戦通りに」クローディアが小声でつぶやく。

「はい、お願いします」サチは小さく頷いた。


 訓練室の風景が溶けていく。魔力で再現したシミュレーテッド・リアリティ空間は、深い森の暗い林床を再現した。

 高木が並び、足元には根が這っている。身を隠せそうな低木はほとんどなく、隠れるなら木の陰か上くらいしかない。射線は取りにくく、ライラの大技も通りにくいがモデル623の魔導プラズマキャノンも同じく通りにくい、お互いが決め技を使いにくい戦場。決闘のステージは、どちらにもアドバンテージがないように作られる。


 決闘開始のゴングが鳴り、サチたち「NIGHT RAVEN」メンバーはそそくさと各々木の陰に隠れた。一方で、ユーレンは逃げも隠れもせず、その場を一歩も動くことなく、握っていた筒から指揮棒を取り出す。

 ユーレンの魔奏器『ワルキューレの騎行』。その姿は一見ただの指揮棒だが、振る音は周囲の魔導人形と思考共有空間を作り出す。ユーレンの両脇を固める二体を除いた残りのモデル623たちが、隊列を崩すことなくぞろぞろと行進してサチたちに向かってきた。


「ヴェルナ、お願い!」

「任せて」


 ヴェルナは木陰に身を潜めながら『新世界より』を吹いた。いつもの輝く液体ではなく、白く濁った流体が『新世界より』から放出される。目隠しの役割を果たす煙幕が、サチたちとモデル623の間に広がっていった。

 だが、モデル623たちは立ち止まらない。彼女たちの視覚システムは暗視機能を持ち、目標を見失うことはない。当然、視界が遮られる煙幕の中でも問題なくサチたちを捕捉することができる。モデル623たちは躊躇することなく、ぞろぞろと煙幕の中へと足を踏み入れていく。


「濃度もちょうどいい。ボクの出番だ」


 木陰から身を乗り出し、大剣を盾に構えるライラ。その背後で、瓜花は煙幕に向かって腕を伸ばしている。空中に描かれた魔法陣が、煙幕の中の微粒子を動かし始めた。

 漂う微粒子の一つ一つに少しずつ速度が加わると、加速された粒子が隣り合う粒子と衝突し、その運動量が煙幕全体に広がっていく。激化する衝突は、微粒子に静電気を発生させていく。


 雷である。

 魔法ではなく、自然現象を模倣した、広範囲に広がる雷雲。これは反対呪文や防御呪文では防げない。

 もちろん、モデル623の先進的な防御、迎撃機構ですら無力だ。雷雲の中に突入したモデル623たちは次々と過電流に襲われ、麻痺し、進軍を止めていった。

 この規模の煙幕で作られた雷雲では、撃破に至るほどの威力は発揮できない。しかし、ユーレンの数的有利を一時的に抑える効果はあった。


「行くわよ、サチ」

「はいっ!」


 クローディアは体の前に『葬送曲』を盾として構え、煙幕の中へ突っ込んでいった。サチもその後ろを追う。

 雷雲を押しのけ、二人は一直線にユーレンを目指す。前方からはモデル623のプラズマキャノン、後方からは瓜花とヴェルナの魔法や光弾が飛び交う中、サチはクローディアの後を駆け抜けた。巨大な棺型の魔奏器『葬送曲』は、二人を覆い隠しながらプラズマキャノンの攻撃を防ぐのに十分な盾となっていた。


 ユーレンに近づくにつれて、モデル623たちの攻撃はさらに激しくなる。単分子カッターを展開して斬りかかるモデル623を、クローディアは防御魔法で次々と弾き返していたが。ユーレンまで残り十数メートルの地点で、波状攻撃のあまりの激しさに防御するだけで精一杯になり、身動きが取れなくなってしまった。


「私はここまでね。あとはサチ、あなたに任せる」

「ありがとうございます、クローディアさん!」


 サチは『剣の舞』の刀身をなぞり、加速の魔奏を発動した。

 無数の魔法弾が飛び交う戦場では、加速の魔奏は意味を為さない。どれほど素早く動けても、隙間のない弾幕をすり抜けることはできないからである。

 しかし、ほとんどの攻撃がクローディアに集中し、ユーレンがクローディアの背後に隠れているサチに気づいていないこの瞬間なら。加速の魔奏を使って不可視の速度で駆け抜けるサチは、弾幕の隙間を突き、ユーレンに迫ることができる。

 すべては作戦通り――――今のところは、まだ。


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