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NIGHTMARE RAVENS  作者: 96500C/mol
Chapter. 11 自我 -What am I-
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#4 帰還

 機能停止から二週間。細かな調整を繰り返し、12月に入りようやく再起動には成功したものの、ムツミはベッドに寝かせられたままだった。


 なにせ、上半身しか残っていないのだ。今はその上半身、切断面に露出した様々な機械に繋がれたケーブルの他端は、外部電源ユニットに接続されている。

 思考は明瞭、会話も可能であるが動きは緩慢だ。魔導人形の心臓部にもあたる魔導炉を失ったムツミは、唯一残った右腕だけは動くものの、内臓火器の一切を動かすことができなかった。


「サチ、すみません。このような姿では、お食事の用意もできません。

 それに、合奏の訓練も……両腕があれば、『1812年』を扱うことも出来るのですが」

「いいんだよ、ムツミ。ムツミが生きていさえいてくれれば」


 サチはムツミを自分の部屋に持ち帰った。ユーレンは帰還した次の午前には補助電源ユニットをサチの部屋に持ち込み、ムツミを修理したが。その後も何度かやってきたユーレンはサチとは事務的な会話をするだけで、先日の口論のことはお互いに何も言わなかった。


「わたしは、ムツミが無事に帰ってきてくれて、嬉しいよ」

「私は……まったく、嬉しくありません」


 ムツミは寝転がったまま、顔を壁に向けてサチから反らしてしまった。


「なぜ私は、あのようなことをしたのか……お嬢様に命じられたとおり、機密保持処理をするべきでした」

「ちがうよ!」サチが叫ぶ。「機械だからって、そんな……そんなの、おかしいよ! 

 ムツミはムツミだもん! 替えなんか利かない……。死んじゃったら、もう会えないんだよ⁉

 命令されたからって、死ぬことなんかない! ムツミはムツミのやりたいように、生きていいんだよ!」

「私のやりたいこと……ですか」


 ようやくムツミはサチのほうを見た。


「私は、お嬢様のところに帰りたいです」

「ムツミ……っ!」

「サチ。私は魔導人形なのです。私は人間のように、ただ生まれてきたものではない――――人を守る。『血球』や『臓物』と戦う。そのために私は製(・)造(・)されたのです。この体には人類の築き上げてきた技術や努力が詰まっている……故に、私はそれを、人類に還元しなければならないのです」


 ムツミは遠い目をしている。


「私はどうかしていました……修復困難な損傷を受けて、お嬢様に機密保持処理を命じられたとき。本当におかしなことなのですが……『いやだ』と思ってしまいました。

 兵器失格です。人間の命令に従わない魔導人形など、存在すべきではない」

「ムツミは兵器なんかじゃないよ。わたしの、大切な友だち」

「いいえ。私は兵器です、サチ。これは私がそうなるように命令されているからではありません。

 私は『究極の兵器』を目指しています。人類を守る最強の矛にして盾。人はそれを『夢』と呼ぶそうですね」

「夢……」

「はい。サチにとっては、一人前の魔奏士であることが『夢』なのではありませんか? 魔奏を使いこなし、仲間とともに人々を守る。私も同じです。究極の兵器となって、人類を守るのが私の『夢』なのです。

 この体では、もう叶いませんが」

「うぅ……!」


 サチは怒ればいいのか同情すればいいのか、分からなくなった。

 ムツミは兵器なんかじゃない。究極の兵器なんてならなくていいんだ―――そう言えば、ムツミの夢を否定することになる。

 かといって、ムツミの夢を応援することは、彼女が兵器であること、モノであることを認めるようなものである。亡きルイスも、そんなことは望んでいるはずがない―――

 サチは頭が痛くなるほど考えたが、ムツミにどんな言葉をかければいいのか、いいアイデアは何も浮かばなかった。


 黙ったままのムツミと目を伏せるサチ。重苦しい空気の流れるサチの寮室に、ノック音が響いた。


「サチ、いる?」


 クローディアだった。

 サチはこぼれかけた涙を袖で拭って、クローディアを部屋へ招き入れる。


「サチ、どうしたの……って、え、ムツミ⁉」


 クローディアはサチの部屋に入り、サチのベッドの向かいに横たわったムツミの残骸を見て驚愕していた。


「お久しぶりです、クランフィールド様」

「……すごい格好ね。痛くないの?」

「はい。魔導人形は痛みを感じませんから」

「それは良かった。私が上半身だけになったときは、死ぬほど痛かったから」

「面白いジョークですね。参考にさせていただきます」


 クローディアは視線をムツミからサチへ移す。


「全然来ないから心配しちゃったじゃない。今日はキッチンを借りる日だったでしょう」

「あ、ああ。そうでした。すみません。すぐ行きます」サチは簡単に支度を整える。「ごめんムツミ、ちょっと出かけてくるね。自爆なんか、しちゃダメだからね!」

「じ、自爆……?」クローディアが困惑している。

「いってらっしゃい、サチ」


 サチは部屋を出て、クローディアと共に調理実習室へ向かった。

 道すがら、廊下を歩きながらサチはクローディアにムツミがサチの部屋へやってきたいきさつと、現在のあらましを話した。「ヘルメス・ワルキューレ」の作戦行動中に、ムツミは修復困難な損傷を受けたこと。ムツミがユーレンに捨てられたこと。再起動には成功したものの、ムツミは「究極の兵器」となるためにユーレンのところへ帰りたがっていること。

 クローディアはただサチの話を聞くだけだった。聞き流す、というふうではない。クローディアにも、どうすればいいのか妙案はなさそうである。


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