#3 再会
「お安い御用だ」
その後一週間ほど経ってロアノールに帰ってきた瓜花は、サチの「おねがい」を二つ返事で引き受けた。
「指定の日、指定の場所に行くまで何を調べたいかは明かせない、というのは解せないけどね。サチ、キミのことだから、何か言えない事情があるんだろう」
「ありがと! 瓜花ちゃん!」
「ただし、だ。話は聞くが、調べるかどうかはその内容次第だから約束できない。
好奇心は猫をも殺す、というだろう。それをボクはこの夏休み、イヤというほど学ばされたしね」
夏休み、それぞれの帰省から帰ってきたNIGHT RAVENの面々は、なぜかヴェルナの温室に集まっていた。
学年を示す胸の刺繍はクローディアがスズラン7つ、サチとライラ、そしてヴェルナが4つにそれぞれ増えているが、瓜花だけは変わらず1つのまま。学院の授業のほとんどをすっぽかしているので、もう一度1年生からやり直しである。
「それで。瓜花、ライラの魔力補給の手段は見つかったのかしら」
「手がかりは、ね。ライラの故郷で教えてもらったんだよね。『絆の魔法』――――今は失われた、古の魔法の一つだ。
再現に成功すれば、魔力融合に近いことができると思う」
「素晴らしいわ。サチのほうはどう?」
「はい! 加速の魔奏については大分安定して使えるようになりました。他の魔奏はぜんぜんダメですけど……でも、ヘレナ会長が。セナさんより、今のわたしのほうが加速の魔奏が上手いって!
あと、ムツミと仲良くなりました。大分人間っぽく話してくれるようにもなって。それからっ! ムツミ、『1812年』をやっぱり使うことにしたって!」
「良かったわね。これでルイスも報われるわ」
「はい! クローディアさんはどうだったんですか。夏休み」
「何もないわ。実家の仕事を手伝ったりしただけ」
「クロちゃん、実家ってどんなところなん?」
「葬儀屋よ。暗黒時代は繁盛してたけどね、今はさっぱり。
死体が残らないとね、墓も作れないもの。商売上がったりだわ」
クローディアの発言に、サチたち一同はリアクションに困った。葬儀屋……。
ただ一つ、サチは「一緒に帰らなくてよかったかも」とは思った。
「ヴェルナは?」
「は?」
手製のハーブティーを淹れたポットで茶を配るヴェルナに、サチが問うと。ヴェルナは話しかけられるとは思わなかったような、ぎょっとした顔をしてサチを見た。
「は? なんで聞くの? あたし、あんたのとこの楽団員じゃないんだけど」
「もう似たようなものじゃない?」サチと顔を見合わせるクローディア。
「そうだね。図書館でボクと戦ったときも一緒だったし」囃す瓜花。
「うちはもう、ヴェっちゃんのこと、大切な仲間やと思うとるよ!」笑顔で言い放つライラ。
「その『ヴェっちゃん』って、何か音が気持ち悪いんだけど」冷ややかにヴェルナが答える。
「どうかな、ヴェルナ。そろそろうちの楽団に――――」
「いやよ」
ヴェルナはサチの勧誘を即座に断った。
「あたしは……あたしは先輩とかあんたたちみたいに、キラキラしてないの。夏休みだって、家でゴロゴロしたり、友だちの家に遊びに行ったり……それだけ。強くなりたいとか、そういうのないし」
「でも、ヴェルナだって頑張ってるじゃん。聞いたよ、新学期も始まってないのに毎晩遅くまで魔法薬の本で勉強してるって」
「それは……ほら、もうすぐ試験だし?」
「「シケン……?」」サチとライラがヴェルナの言葉を反芻する。
「忘れたの。下級魔奏士の資格、ほとんどの学院生徒は4年生で取るって。年に何度もあるから、できるだけ多く挑戦したほうがいいの」
「「ワーッ!!」」
サチとライラは全く同じタイミング、こめかみを両手で抱えた全く同じポーズ、涙を浮かべた同じ表情で椅子から立ち上がった。
身長はライラのほうが頭一つ分大きくなっているが。
「やばいよサッちゃん! 勉強せにゃいけんて!」
「完ッ全に忘れてた! どうしよ⁉」
聖ロアノール音楽学院では、生徒が校外活動するためには実戦に耐えうる魔奏士として認められる必要がある。そのための認定試験が、魔奏士試験である。
魔奏器を使いこなし、校外での調査や哨戒、後方支援のための各種技能と知識をもつ「下級魔奏士」と、下級魔奏士を率いて戦略を立てて活動し、討伐依頼も受けることが出来る「上級魔奏士」の二つの資格が存在しているが、NIGHT RAVEN内での有資格者は、現在上級魔奏士のクローディアのみだ。この資格は魔奏士としての実力を示すものでもあり、図書館などでは安全面から資格者のみが立ち入ることを許された領域が設定されている。
図書館の蔵書をもっと深く研究したいヴェルナ、そして実戦に出て「魔女の血球」や「臓物」と戦うことを望むサチやライラにとって、魔奏士試験の合格は必ず成し遂げなければならない課題である。
「クローディアさぁん……」
「涙目になっても無駄よ……と言いたいところだけど。野外活動なら教えてあげられるわ。座学は、いい先生に心当たりがあるから紹介してあげる」
「ほんとですか! ね、ライラもやろうよ!」
「ウチはいいや」ライラは両手を上に挙げて伸びをした。「ウチには瓜花ちゃんがおるもんねー」
「ボクはキミの所有物じゃないぞ」瓜花はぴしゃりと否定する。「……まあ、ライラが戦闘に出られないとボクの研究も意味が無くなるしな。勉強くらい、見てやらないこともないけど」
「ヴェルナは? 一緒にやろうよ」
「サチと一緒に? んー……でも、最初から復習し直すのもいいかな。あたしもお願いしていいですか、先輩」
「もちろん、いいわよ」
クローディアはヴェルナの参加をOKした。




